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異端の白球使い  作者: R.D
決勝
165/674

女子決勝(2)

 静寂 1 - 5 青木

 桜選手は、表情を変えずにサーブの構えに入る。彼女から放たれたのは、再び質の高い下回転サーブ。今度は私のフォアサイド深くだ。

(やはり、徹底して基本に忠実なサーブ。だが、その回転量とコントロールは正確無比。下手に変化を狙えば、甘いボールを誘い出される…)

 私は裏ソフトの面を選択し、軽くループドライブで持ち上げる。回転をかけて安定した返球を意識するが、桜選手はそれを予測していたかのように、バックハンドで私のバッククロスへ、コンパクトながらも鋭いドライブを打ち込んできた。

 静寂 1 - 6 青木

(この安定感…そして、私の基本的な返球パターンは完全に見切られていると考えた方がよさそうだ。作戦メモの情報が、ここまで彼女のプレーを補強しているのか…)

 私の表情は変わらないが、内心では桜選手の揺るぎない王道の強さと、情報アドバンテージの重みを再認識する。

 桜選手は、今度は少しコースを変え、私のミドルへ速いナックル性のサーブを送り込んできた。

(ナックル…!揺さぶりをかけてきたか。だが、これも私のデータにはあるはずだ…)

 私は素早く体勢を整え、アンチラバーでボールの勢いを殺し、桜選手のフォア前に短く、低くコントロールする。私の得意とする変化の一つだ。

 桜選手は、そのナックル性のデッドストップに対し、一瞬ラケットの角度に迷いを見せたが、それでも巧みにフォアハンドで拾い上げ、深いループドライブで私のバックサイドへ繋いできた。

(…拾われた。だが、今の反応…彼女も私の変化にはまだ完全には慣れていないはずだ。僅かだが、隙はある…!)

 私は裏ソフトに持ち替え、そのループドライブを狙い澄ましたバックハンドカウンターで、桜選手のフォアサイド、オープンスペースへと叩き込んだ!ボールは美しい軌道を描き、コートに突き刺さる。

 静寂 2 - 6 青木

 ベンチのあかねさんが、小さく「よしっ!」と声を上げ、拳を握る。観客席の部長も、腕を組みながら静かに頷いている。

(今のカウンターは、私の読みと技術が噛み合った結果だ。彼女の「王道」にも、必ず攻略の糸口はあるはず…)


 サーブ権が私に戻る。私は、これまでの桜選手の対応を分析し、あえて彼女が予測しにくいであろう、回転量の少ない、しかしコースを厳しく突いた横回転ショートサーブを、桜選手のバックサイド、ネット際に送り込んだ。

 桜選手は、そのいやらしいサーブに対し、バックハンドでツッツキで返球。ボールは回転が少なく、私のフォアサイドにやや甘く浮いてきた。

(…誘っているのか?それとも、単純なミス…?)

 私は一瞬逡巡するが、ここは強気に攻めるべきだと判断。裏ソフトのフォアハンドで、桜選手のバッククロスを狙って強打する。しかし、桜選手はそれを読んでいたかのように、完璧なタイミングでバックハンドブロックの体勢に入っており、私の強打をいとも簡単に、しかも厳しいコースへと返してきた。ボールは私のフォアサイドを駆け抜ける。

 静寂 2 - 7 青木

(…今のツッツキは、やはり罠だったか。私の強打を誘い出し、カウンターを狙っていた…。彼女の戦術眼、そしてそれを実行する技術レベルは、やはり高い…)

 私は、もう一度、深く息を吸う。

(まだだ…まだ、諦めるわけにはいかない。私の「異端」は、こんなものではないはずだ…)

 今度は、YGサーブのモーションから、実際には回転をほとんどかけないナックル性のロングサーブを、桜選手のフォアサイド、エンドラインぎりぎりへと放った。作戦メモにはない、私の「引き出し」の一つだ。

 桜選手は、そのYGサーブのモーションに一瞬警戒の色を見せたが、ボールがナックルだと見抜くと、素早く体勢を立て直し、フォアハンドでドライブをかけてくる。しかし、そのドライブは回転をかけきれず、ボールはネットに引っ掛かる。

 静寂 3 - 7 青木

(…少しずつだが、私の揺さぶりが効き始めているかもしれない。彼女の「王道」に、私の「異端」の種を蒔き続ける…)

 私は、静かに次の桜選手のサーブを待つ。この探り合いは、まだ終わらない。

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