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異端の白球使い  作者: R.D
県大会 女子決勝

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苦しい立ち上がり

 体育館の喧騒が、決勝戦が始まるセンターコートへと収束していく。


 私のベンチには、緊張した面持ちながらも、その瞳に強い意志を宿らせたあかねさんが座り、ペンを握りしめている。


 観客席の一角では、部長が腕を組み、隣にはどこか掴みどころのない雰囲気の幽基未来さんが静かに座り、コートを見つめている。


 私のサーブからだ。


 私はゆっくりと息を吸い込み、ボールを軽く手の中で遊ばせる。


 表情は、いつものように感情を読み取らせないように努めている。


 …青木桜…常勝学園のエース。正統派のドライブ主戦型。データはある程度収集済みだ…。


 …けれど、私の作戦メモが彼女の手に渡っている可能性は捨てきれない。この序盤、私は慎重に相手の出方を見極める必要がある…。


 私が放ったのは、回転の判別が難しい、ネット際に低く滑るようなナックル性のショートサーブ。


 まずは相手の出方、そして「情報」の浸透度を探る一打だ。


 桜選手は長身をしなやかに使い、冷静にそのサーブを見極める。 


 小さくステップを踏み、安定したツッツキで、ボールを深く、私のバックサイドへと返球した。


 無理に攻めず、確実な繋ぎ。


 …やはり、堅実な立ち上がりだ…私の基本的な変化への対応も、まるで迷いがない。やはり…そういうことか…。


 私はアンチラバーでその深いツッツキをブロック。


 ボールは回転を失い、桜選手のフォアサイドに短く落ちる。


 桜選手は素早く回り込み、今度は回転量の多いループドライブで、私のフォアを狙う。


 私は裏ソフトに持ち替え、そのドライブをコンパクトなスイングでブロック。


 ボールはネットを越えたが、やや甘く浮き、桜選手がそれをフォアハンドで確実に私のバックサイド深くに叩き込んだ。


 静寂 0 - 1 青木


 ベンチのあかねさんが、小さく「ドンマイ!」と声をかける。私は頷きもせず、次のサーブに集中する。


 …今のドライブの質、回転量、コース…さすがは県準優勝者だ。そして、私の基本的な変化に対する彼女の対応も、一切の迷いが見られない…。


 今度は、横下回転のショートサーブを選択。


 コースは桜選手のフォア前。桜選手は再び冷静に対応。


 今度はチキータではなく、しっかりとした下回転のストップで、私のバックサイド、ネット際に短くコントロールする。


 …私のサーブに対して、強引には攻めてこない。私の次の手を誘っているのか…?この対応の的確さ…まるで、私の思考を読んでいるようだ。やはり、あのメモは彼女の手に…そう考えるのが自然だ…。


 私はアンチラバーでそのストップを拾い上げ、ナックル性のプッシュで桜選手のミドルを突く。


 桜選手は体勢を僅かに崩しながらも、バックハンドでそのボールをクロスへ、私のフォアサイドを切るような厳しいコースへと流し込んだ。


 私は懸命に手を伸ばすが、ボールは無情にもコートの隅を捉える。


 静寂 0 - 2 青木


 観客席で、部長が小さく唸る。


「…桜の奴、しおりの変化に全く動じてねえな。さすがだ」


 隣で未来さんが静かに頷く。


 サーブ権は桜選手へと移る。


 彼女は、美しいフォームから、質の高い下回転サーブを、私のバックサイド深くにコントロールする。回転量が多く、バウンド後の伸びもある。


 私は、アンチラバーの面を立て、その回転を殺すようにブロック。


 ボールはナックルとなり、桜選手のフォアサイドへと短く、しかしやや高く浮いてしまう。


 桜選手はその浮き球を見逃さない。力強い踏み込みから、フォアハンドドライブを、私のバックサイドへと叩き込んだ。


 静寂 0 - 3 青木


 あかねさんが、ベンチで祈るように手を組む。


 私は、表情を変えない。だが、思考は高速で回転していた。


 …私のアンチからの返球が甘くなること、それすらも予測済み…。それとも、単純に私のコントロールミスか…?違う…彼女のプレッシャーが、私の精度を狂わせているに違いない…。


 桜選手は、今度は同じモーションから、回転を抑えた速いナックル性のロングサーブを私のフォアミドルへ。


 意表を突く一打。


 私は一瞬反応が遅れたが、咄嗟に裏ソフトでドライブをかけようとする。


 しかし、ボールはラケットの芯を外し、力なくネットにかかった。


 静寂 0 - 4 青木


 …ロングサーブ…。ショートサーブを警戒させておいて、これか…。そして、この質の高さ…、これは、私の作戦メモに記した「要注意サーブ」のパターンの一つ…。ここまで来ると、偶然の一致とは到底思えない…。


 私のサーブ、私はここで初めて、これまでの試合であまり見せていない、YGサーブに近いモーションからの、回転の読みにくい横回転サーブを放つ。


 これは、作戦メモには詳細を記述していない、私自身の「引き出し」の一つだ。


 桜選手は、その初見のサーブに対し、一瞬戸惑いを見せたが、それでも冷静にバックハンドで合わせ、ループドライブで繋いできた。


 ボールは山なりだが、回転は強くかかっている。


 私は、その返球を裏ソフトで捉え、桜選手のバックサイドを狙ってスマッシュを叩き込む。ボールはコートに突き刺さった。


 静寂 1 - 4 青木


 …少しは効果があったようだ…。だが、彼女の対応力はやはり高い。そして、この「読まれている」という不快な感覚は消えない…。


 私のサーブ2本目 。


 私は、再び同じ横回転系のサーブ。


 しかし今度は、回転の方向を微妙に変え、コースも桜選手のフォアミドルを狙う。


 桜選手は、それをフォアハンドでドライブ。強烈な回転がかかったボールが、私のバックサイドを襲う。


 私はアンチラバーでブロックするが、ボールの勢いを殺しきれず、わずかに台の外へと逸れていく。


 静寂 1 - 5 青木

 第1セット序盤、合計6ポイントが終了。


 私は、桜選手の堅実な「王道」の卓球と、そして何よりも「読まれている」というプレッシャーの中で、苦しい立ち上がりを強いられている。

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