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異端の白球使い  作者: R.D
決勝
161/674

男子決勝(17)

 部長 10 - 10 朝倉


(デュース…!またデュースだよぉ…!お願い、部長先輩、ここから2本、集中して…!)

 心臓の音が、さっきよりもっともっと大きく聞こえる。手は汗でびっしょりだ。サーブ権は、まず部長先輩から。

 部長先輩が、ゆっくりとボールをトスした。放たれたのは、力強い回転のかかったYGサーブ!朝倉選手のバックサイド深くへ!

 朝倉選手、これをなんとか低い体勢で拾って、ツッツキで返してきた!ボールは少しだけ山なりに、部長先輩のフォア側へ!

(チャンス!)

 部長先輩は、そのボールを見逃さなかった。鋭く踏み込み、コンパクトなスイングから、フォアハンドで強烈なドライブをストレートへ叩き込んだ!

 朝倉選手、その速いドライブに一歩も動けない!決まった!

「しゃっ…!」思わずガッツポーズが出そうになるのを、ぐっと堪える。よし、ゲームポイント!

 部長 11 - 10 朝倉


(あと一点…!あと一点だよ、部長先輩!)

 今度こそ、このセットを取れる…!私の祈るような視線が、コートに注がれる。次は朝倉選手のサーブ。

 朝倉選手は、少しも表情を変えずに、静かにサーブの構えに入った。彼の集中力も、本当にすごい。

 サーブは、部長先輩のフォア前へ、短く、そしてものすごく切れた下回転!

(うわっ、すごい回転…!)

 部長先輩は、そのサーブに対して、慎重にツッツキで返そうとする。ラケットの面をしっかり合わせて…!

 でも、ボールは、無情にもネットの白い帯に引っかかって、ぽとりと部長先輩のコートに落ちた…。

「あぁぁぁーーーーっっ!」

 今度こそ、声が出ちゃった。頭を抱えそうになるのを必死で我慢する。

 また…またデュースだ…。

 部長 11 - 11 朝倉

(うぅ…本当に、心臓がもたないよぉ…)

 でも、まだ同点。どちらに転ぶか分からない。部長先輩も、朝倉選手も、一歩も引かない。これが、決勝戦なんだ。

 私は、もう一度、強く手を握りしめて、次の1ポイントを見守った。

 頑張って、部長先輩…!


 部長先輩が、深く息を吸って、集中力を高める。トスを上げた!放たれたのは、ものすごく速い、回転の少ないナックルサーブ!朝倉選手のフォアミドルへ、低い弾道で!

 朝倉選手、その速さと球質に一瞬反応が遅れた!なんとかラケットに当てて返球しようとするけど、ボールは勢いを殺しきれず、ポーンと高く浮き上がった!

(チャンスボール!)

 部長先輩は、その甘い浮き球を見逃さない!コート中央に回り込み、フォアハンドで強烈なスマッシュを、朝倉選手のバックサイド、オープンスペースへと叩きつけた!

 ズバァァン!という音がして、ボールがコートに突き刺さる!

 部長 12 - 11 朝倉

「よっし!あと一点!」

 ポイントが決まった瞬間、今度は声が出た!やった、ゲームポイント!部長先輩、すごい!

(あと、あと一点取れば、このセットも取れる…!)

 勝利の女神様、お願い!部長先輩に微笑んで!

 祈るような気持ちで、次のプレーを見守る。サーブ権は、朝倉選手へ。

 朝倉選手は、少しも焦った様子を見せず、静かにサーブの構えに入った。彼の精神力も、本当にすごい…。

 サーブは、部長先輩のバック側へ、低く、そしてものすごく切れた下回転ショートサーブ!

(うわぁ、またエグいサーブ…!)

 部長先輩は、そのサーブに対し、低い体勢から、バックハンドで慎重にツッツキで持ち上げようとする。ボールはネットを越えて、朝倉選手のフォア側へ!

 朝倉選手は、そのボールを回り込んで、フォアハンドで強烈なドライブをかけてきた!ボールは、部長先輩のフォアサイド深く、ラインぎりぎりを襲う!

 部長先輩、懸命に飛びついてラケットを出す!ボールはラケットに当たったけど…!

「ああっ…!」

 無情にも、ボールはネットの白い帯に当たって、そのまま部長先輩のコートに力なく落ちた…。

 また…まただ…。またデュース…。

 部長 12 - 12 朝倉

(うううぅぅぅ…なんで、こうなっちゃうのぉ…。もう、心臓が、本当に、もたないよぉ…!)

 私は、思わず両手で顔を覆ってしまった。でも、すぐに顔を上げる。下を向いてる場合じゃない!部長先輩は、まだ戦ってるんだから!

 頑張って、部長先輩!ここを乗り越えて!

 声にならないエールを、コートへ向かって送り続ける。

(12-12…!またこのスコア!でも、さっきだってここから部長先輩は…!いける、絶対にいける!)

 もう、祈るような気持ちで、私はコートを見つめる。声は、ポイントが決まるまでは出さない。でも、体中が応援してる!

 サーブ権は、部長先輩!

 

 部長先輩が、大きく息を吸い込んだ。その瞳には、もう迷いなんて一切ない。獣みたいな、鋭い光だけが宿ってる!

 放たれたのは、全身全霊を込めたような、超高速パワーサーブ!朝倉選手のフォアサイドぎりぎりを襲う!

 朝倉選手、なんとかそのサーブに食らいついて、ドライブで返してきた!でも、部長先輩はそれを読んでた!一歩も引かずに、さらに力強いフォアハンドドライブを叩き込む!

 激しいラリーの応酬!台の上を、ボールが目にも留まらぬ速さで行き交う!体育館の空気が、ビリビリと震えているみたい!

 朝倉選手も必死にブロックするけど、部長先輩の勢いが止まらない!一球ごとに「うぉぉっ!」って気迫の声を上げながら、まるで獲物を追い詰めるみたいに、連続で強打を叩き込んでいく!

 そして、ついに!部長先輩のフォアハンドクロスへの一撃が、朝倉選手のブロックを弾き飛ばした!

「やったあぁぁー!!部長先輩っ!」

 今度こそ、大声で叫んだ!やった!やったよ!部長先輩、すごい!この勢い、アクセル全開だ!

 部長 13 - 12 朝倉

(あと一点!このまま、この勢いで、突き放して!)

 私の手は、もうぐっしょり汗をかいてる。でも、そんなの気にならないくらい、興奮してる!

 サーブ権は、朝倉選手へ。

 朝倉選手も、このゲームポイントで、鬼気迫る表情。彼のサーブも、今まで以上に鋭く、そしてコースも厳しい!部長先輩のバック深くに、速い下回転サーブ!

 でも、今の部長先輩は、もう止まらない!

「だぁぁっ!」

 短い気合と共に、その下回転サーブを、信じられないようなバックハンドドライブで持ち上げた!ボールは、朝倉選手の意表を突くように、クロスに鋭く飛んでいく!

 朝倉選手、なんとかそのボールに飛びついてブロック!でも、そのブロックが、ほんの少しだけ甘く、高く浮いた!

(チャンスだっ!)

 部長先輩は、その瞬間を見逃さなかった!

「うぉぉぉりゃあああああああっ!!」

 まるでコート全体を揺るがすような雄叫びと共に、部長先輩が台に深く踏み込み、全体重を乗せたフォアハンドスマッシュを、朝倉選手のいないオープンスペースへと、叩きつけた!

 ボールは、閃光のように走り、コートに突き刺さった!

 決まった!勝ったんだ!

「やったぁぁぁぁぁーーーーーーっっっ!!!!部長せんぱーーーーいっっっ!!!!!」

 もう、我慢できなかった。私はベンチから飛び上がって、涙と笑顔でぐちゃぐちゃになりながら、ただただ叫んでいた。

 部長先輩が、この、本当に本当に苦しかった第三セットを、最後は圧倒的な気迫とパワーで、14-12で取りきったんだ!

 第三セット、部長が獲得!セットカウント、部長 3 - 0 朝倉!

 第五中学校、部長猛、県大会優勝!


 喜びと、信じられない気持ちと、そして今までの緊張が一気に解けた安堵感で、私はその場にへなへなと座り込んでしまいそうだった。

 部長先輩が、両手を突き上げて、体育館中に響き渡るような、最高の雄叫びを上げている。

 その姿は、今まで見た中で、一番かっこよかった。

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