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異端の白球使い  作者: R.D
決勝
160/674

男子決勝(16)

(うぅ…2点リードされちゃった…。でも、まだ大丈夫!ここから、ここからだよ、部長先輩!)

 心の中で必死に叫ぶ。隣で見ていたしおりちゃんにもらったアドバイスが書かれたノートを、知らず知らずのうちにぎゅっと握りしめていた。


 部長先輩、集中してる。力強いサーブが朝倉選手のバックを襲う!朝倉選手、なんとか返球するけど、少し甘くなった!そこを部長先輩がフォアハンドで強打!決まった!

「よしっ…!」思わず、小さな声が漏れる。 (部長 6 - 7 朝倉)

 続く部長先輩のサーブ。今度はYGサーブ!朝倉選手、これには完全にタイミングを外されて、ラケットに当てるのがやっと!ボールはあらぬ方向へ飛んで行った!

「いけっ!追いついたぁ!」今度はさっきより大きな声が出ちゃった!やった、同点!

 同点に追いつかれて、朝倉選手の雰囲気がさらに研ぎ澄まされた気がする。静かな構えから、ものすごく速いロングサーブが部長先輩のフォアを強襲!部長先輩、なんとか反応したけど、返球はネットを越えず…。

「あぁっ…!」悔しい…。でも、まだ大丈夫!

 また朝倉選手のサーブ。今度はショートサーブで揺さぶりをかけてきた。部長先輩、これを読んでて、バックハンドで鋭いツッツキ!朝倉選手がドライブで持ち上げてきたボールを、部長先輩がさらに強烈なバックハンドドライブでカウンター!これが決まった!

「よぉぉぉっし!ナイスカウンターです、部長先輩っ!!」

 もう、我慢できない。声が、自然と大きくなる。周りの観客の人も、少しこっちを見てる気がするけど、今はそんなの気にしてられない!

 部長 8 - 8 朝倉

 また同点!そして部長先輩のサーブ!

 パワーサーブで押していく!朝倉選手も、一歩も引かないでドライブで応戦!すごいラリー!でも、最後は朝倉選手のドライブが、部長先輩のコートの隅、ラインぎりぎりに決まってしまった…。

「あぁぁぁーーーーっ!惜しいぃぃぃ!」

 思わずベンチから身を乗り出しそうになる。悔しい!でも、まだいける!

 部長 8 - 9 朝倉

 部長先輩のサーブ。もう一度、パワーサーブ!朝倉選手、これをなんとかブロック!でも、チャンスボールだ!部長先輩、逃さない!

 部長先輩のフォアハンドスマッシュが炸裂した!ボールは、朝倉選手のコートに、まるで雷みたいに突き刺さった! 

 部長 9 - 9 朝倉

「やったぁぁぁぁぁ!!!追いついた!部長先輩、すごいですっ!!」

 もう、涙声だ。嬉しさと興奮と緊張で、ぐちゃぐちゃになりそう。でも、部長先輩は、力強く頷いて、次のポイントに集中している。

 ついに9-9の同点!体育館のボルテージは、もう最高潮!ここからの一点が、本当に、本当に大事になる!

(部長先輩…!頑張って…!)

 私の声援は、もう誰に遠慮することもなく、体育館に響いていた。


(また同点!部長先輩、すごい、本当にすごいけど…お願いだから、ここを取って!)


 心臓が口から飛び出しそう。さっきまでの大声での応援は、ラリーが始まると同時にぐっと喉の奥に押し込める。卓球のルールでは、プレー中に大声を出すのはマナー違反だって、しおりちゃんに教わった。今はっと思い出した。

 作戦ノートを持ち、部長先輩のプレーを見守るしかない。

 

 朝倉選手のサーブ。空気がピリピリしてる。静かなモーションから、部長先輩のバック側へ速くて低いサーブ!部長先輩、これをなんとか低い体勢でブロック!ボールはネットすれすれで相手コートへ!いい返球!

 でも、朝倉選手も素早く反応して、そのブロックボールを回り込んでフォアハンドドライブ!厳しいコース!部長先輩、飛びつくけど、ラケットの先に当たったボールは、惜しくもコートの外へ…。

「ああっ……!」

 声が出そうになるのを、慌てて口元を押さえて堪える。くぅぅ、悔しい!これでゲームポイントを握られた…。

 部長 9 - 10 朝倉

(セットポイント…朝倉選手の…!お願い、部長先輩、ここを凌いで…!)

 心臓が、今度こそ本当に張り裂けそう。声を出したら、プレーの邪魔になるかもしれない。でも、祈らずにはいられない。私は、唇をきつく結んで、コートを見つめた。部長先輩の背中が、いつもより少しだけ小さく見えるのは、きっと気のせいじゃない。

 朝倉選手が、静かにサーブの構えに入る。彼の集中力は、頂点に達しているように見えた。体育館の全ての音が、まるで遠い世界の出来事のように感じられる。

 朝倉選手のサーブ。放たれたのは、ものすごく速い、回転の少ないロングサーブ!部長先輩のフォアサイド、エンドラインぎりぎりを襲う!

「っ…!」

 部長先輩は、その速球に一瞬反応が遅れたように見えたけど、最後の力を振り絞るようにして大きく一歩踏み込み、体を伸ばしてフォアハンドで強引にクロスへ叩き返した!ボールは低い弾道で、朝倉選手のバックサイド深くに突き刺さる!

 朝倉選手は、まさかあの速いサーブをあんな風に強打で返されるとは思っていなかったのかもしれない。なんとかラケットに当てようとするけど、ボールは彼のラケットを弾き、大きくコートの外へ!

 決まった!

「よしっ!!!」

 ポイントが決まった瞬間、今度こそ抑えきれずに叫んでいた。全身の力が抜けて、へなへなと椅子に座り込みそうになるのを、なんとか堪える。

(やった…やったよぉ、部長先輩!あのセットポイントから、追いついた…!)

 涙で視界がぐしゃぐしゃだ。でも、これは嬉し涙。部長先輩は、力強く拳を握りしめ、天を仰いで一度大きく息を吐いた。そして、私の方を見て、ほんの少しだけ、本当にほんの少しだけ、口元を緩めてくれた気がした。

 10-10!ついにデュース!

 まだ試合は終わらない。ここからが、本当の本当の勝負だ!

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