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異端の白球使い  作者: R.D
茜色
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異端者と茜色 (5)

 あかねさんがマネージャーとして加わったことで、卓球部は以前よりも活気づいていた。部員たちの練習に対する真剣さも増したように感じる。それは、市町村大会優勝という具体的な成果が、部全体に良い影響を与えているのだろう。


 都道府県大会に向けた練習は、市町村大会前よりも明らかに厳しさを増していた。顧問の先生は、私のスタイルをさらに磨き上げるための、個別の練習メニューを組んでくれた。


 高性能マシンを使った、持ち替えからの予測不能な球質を打ち分ける反復練習。体躯の不利を補うための、俊敏なフットワーク強化。そして、長時間ラリーを続けるための基礎体力づくり。練習量は、以前にも増して圧倒的だった。


 あかねさんは、そんな私の練習を、真剣な眼差しで見守っていた。マネージャーとして、彼女の仕事は多岐にわたる。ボール拾い、タオル渡し、選手の体調管理。そして、私の練習内容をノートに記録することも、彼女の仕事の一つだった。


 練習の合間に、あかねさんが、記録をつけながら声をかけてくれる。彼女の言葉には、純粋な感心と、私を応援してくれる気持ちが込められている。


 顧問の先生やあかねさんと一緒に考えた名前。技名ができたことで、私の異質なスタイルは、部員たちにとって、そしてあかねさんにとって、具体的な「形」を持ったようだ。


 少し恥ずかしいけど。



 私はマシンの相手にシャドウドライブを放つ、相手に裏面、スーパーアンチで打つフォームを相手に見せながら、直前に、気付かれないように裏ソフトに持ち替えドライブを放つ技だ。


「シャドウドライブ、今のコース、完璧だったよ!」


 あかねさんは、私が狙ったコースや、打球の質にも気づいている。彼女は、卓球の知識はないけれど、見る目が養われ始めている。そして、私の卓球を理解しようと、真剣に学んでいる。


 マネージャーとしてのあかねさんは、私の練習をサポートするだけでなく、部員たちの練習も熱心に見ていた。部員たちが困っていると、声をかけたり、顧問の先生に伝えたりする。部員たちも、あかねさんに信頼を寄せているようだった。



 昼休み。あかねさんは、相変わらず私の隣に座って話しかけてくる。卓球以外の話題も、少しずつ増えてきた。


「今日の給食、美味しかったね」「この間のテレビ番組見た?」


 私からの応答はまだ短いけれど、以前ほどの警戒心はなくなった。あかねさんの悪意のない笑顔と、他者を気遣う優しさは、私の心の壁を、ほんの少しずつ、柔らかくしているようだった。


 …あかねさん…彼女は、私にとって、どのような存在なのだろうか…


 理解できない存在。しかし、彼女がいることで、私の孤独な日常に、温かい光が差し込んでいることは確かだ。悪夢とは異なる種類の、新しい、そして少しだけ心地よい、予感。


 都道府県大会の日程が近づいてくる。部全体の緊張感も高まってきた。私は、自身の内側に、静かな闘志が燃え上がるのを感じる。


 市町村大会優勝は通過点。次の舞台は、さらにレベルが高い。体躯の不利を、知性、技術、そして研ぎ澄まされた精神力で凌駕しなければならない。


 あかねさんは、都道府県大会に向けて、私の体調や、精神状態も気遣ってくれるようになった。


「無理しないでね」「大丈夫?」


 彼女の言葉は、私の心に、微かな温かさを運んでくる。


 私は、一人暮らしの家で、高性能マシンを使った独り練習を続ける。誰にも知られない、私の聖域。しかし、そこにも、あかねさんの存在が影響を与え始めている。彼女に見守られているという意識が、私の練習に新たな意味を与えているのかもしれない。


 …都道府県大会。ここで、私の「異端」が、どこまで通用するのかを証明する。そして勝つ、勝たないと価値がない。


 勝利への渇望。自己肯定感の低さ。過去の影。それは、私の卓球の根源にあるものだ。


 しかし、今は、あかねさんの存在が、その根源に、微かな温かさを加えている。


 私の物語は、都道府県大会という次の舞台へ向かう。異端の白球使いとして、私がこの世界で自身の価値を証明していく物語が。


 あかねさんという存在と共に紡がれる、新たな人間関係が。そして、その輝きが、いつか悪夢へと繋がる物語が。

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

もしこの物語を「また読みたい」「応援したい」と思っていただけましたら、

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