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異端の白球使い  作者: R.D
決勝
158/674

インターバル(2)

「部長先輩、次の第三セット、本当に大事です!朝倉選手も、絶対にこのままでは終わらないはずですから、作戦、確認しましょう!」

 私の言葉に、部長先輩は「おう!」と再び力強く頷き、真剣な表情で椅子に腰を下ろした。

 私は、しおりちゃんから預かっている分厚いノート…通称「しおりちゃんスペシャル・汎用性作戦ノート」を膝の上に広げた。このノートには、しおりちゃんが日頃から色々な選手のデータや戦術パターン、基本的な技術への対処法をびっしりと書き込んでいる。今日の朝倉選手対策の時も、このノートが私たちの大きな助けになったんだ。

(しおりちゃん、本当にありがとう…!このノートの情報が、きっとまた部長先輩を助けてくれるはず…!)

「えっとですね、部長先輩」私はノートの特定のページを指差しながら話し始めた。「第二セットまでの朝倉選手のサーブの傾向なんですけど、いくつか特徴的なパターンが見られました。しおりのノートにも、似たようなサーブへの一般的な対策が載っていて…」

 部長先輩は、真剣な眼差しでノートを覗き込んでくる。

「まず、朝倉選手がよく使ってくる、フォア前に出す、回転が分かりにくいショートサーブ。あれ、結構やっかいですよね。ノートによると、ああいうサーブに対しては、『中途半端に合わせにいくのが一番危険。思い切ってチキータ気味に攻撃的に払うか、あるいは、無理をせず確実にツッツキで相手のバックサイド深くに送り、ラリー戦に持ち込む』のがセオリーみたいです。」

「なるほどな。確かに、中途半端に触ってネットミスってのが一番ダメなパターンだもんな。チキータか、堅実なツッツキか…」

 部長先輩が、腕を組みながら呟く。

「はい。それと、時々混ぜてくる、部長先輩のバック側への速いロングサーブ。あれも、しおりの分析だと、『不意を突かれて強打しにいくと、逆にカウンターを食らいやすい。一度しっかりブロックでコースを突いて相手の体勢を崩し、次のボールから自分の得意な展開に持ち込むのが重要』とあります。特に、部長先輩のパワーなら、ラリー戦になった方が有利なはずですから。」

「ふむ…ブロックで一度受けて、そこからラリーか。確かに、あの速いロングサーブを無理に打ち返すのはリスクが高いな。」

「あと、もう一つ気になるのが、デュースになった時とか、勝負どころで出してくる、あの独特のモーションからのアップダウンサーブです。あれも、ノートには『回転の判別が難しいサーブに対しては、まず第一に、ボールをしっかり台に入れることを最優先。回転量が不明な場合は、軽くラケット面を合わせるようなブロックで、相手に先に攻撃させるのも一つの手』と書かれています。」

 私は、しおりちゃんの緻密な分析と、それを分かりやすく図解しているノートの記述に改めて感心しながら、部長先輩に説明を続ける。

(しおりちゃんのこのノートがあれば、きっと大丈夫…!部長先輩なら、きっとこの情報も力に変えてくれるはず!)

「しおりちゃんのこのノート、何度見ても本当にすごいなぁ…」

 私は、びっしりと情報が書き込まれたページをめくりながら、思わず感嘆の声を漏らした。選手の癖から、サーブの回転、推奨されるレシーブのコース、メンタル面の注意点まで…本当に、しおりちゃんがいなかったら、どうなっていたことか。

「お、おう…。まあ、ありがたいけどよ、ここまで細かいと、逆に頭がパンクしそうだぜ…」

 部長先輩は、少し呆れたように苦笑いしながらも、そのノートの価値を噛み締めているような表情で私の手元を覗き込んでいる。

「私たち、本当にしおりに助けられてますよね!そうだ、部長先輩!しおりなら、今の部長先輩にこう言うかもしれませんよ?」

 私は、いたずらっぽく笑いながら、少し咳払いをして、しおりちゃんが言いそうな分析的でちょっと辛口なセリフを、一生懸命に真似てみることにした。

「えっとですね…『…まあ、部長先輩。セットカウント2-0とリードし、体力でも圧倒的に有利な状況なのですから、次で勝って当たり前と言えば当たり前です。むしろ、これでまたデュースにでもつれ込んだら、私の貴重な応援とデータ収集時間に、さらなる不要なハラハラが混入するところでした。私の心臓のバイタルにも、これ以上の負荷は推奨されませんからっ!』」

 私は、ちょっと顔をしかめて、しおりちゃんが時々見せる難しい顔を真似てみる。

「『それと、部長先輩のその戦い方は、観客席の私たちの心拍数を無駄に上昇させ、ベンチでデータを取っている私の、私のっ!精神的リソースを著しく消費させますっ!もう少し、こう…省エネな勝利パターンをご検討いただけると、チーム全体のパフォーマンス向上に繋がるのですがっ!』」

 ちょっと言葉が上擦っちゃったけど、続けてみる。

「『…そもそも、部長先輩。あなたは、もしかして、全てのゲームをデュースの、それも10点を超えるようなハイスコアにしないと、気が済まないような特殊なご趣味でもおありなのですか?もっとこう、サクッと勝ってください!』…みたいな?」

 言い切った後、自分でちょっと恥ずかしくなって顔を赤らめていると、部長先輩が吹き出した。

「ぶはははっ!なんだよそれ、あかね!全然似てねーし、しおりはそんな『サクッと勝ってください!』なんてカワイイこと言わねーよ!もっとこう…無慈悲な感じで分析結果だけを叩きつけてくるだろ!」

 部長先輩は、お腹を抱えて笑っている。

「あー、おかしい!それ、後で絶対しおり本人に見せてやろうぜ!あいつがどんな顔するか見もんだ!」

 一頻り笑った後、部長先輩は「よしっ!」と気合を入れるように立ち上がった。

「まあ、しおりの分析と、あかねのその…似てないモノマネのおかげで、気合入ったぜ!見てろよ、第三セットでビシッと決めて、お前らをこれ以上ハラハラさせずに勝ってやる!いっちょ決めてくる!」

 そう言って、部長先輩は力強い足取りでコートへと戻っていった。その背中は、さっきまでの疲労を感じさせないくらい、頼もしく見えた。

(うん、部長先輩なら、きっと大丈夫!)

 私も、しおりちゃんのノートを胸に、強く頷いた。

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