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異端の白球使い  作者: R.D
決勝
155/674

男子決勝(12)

 部長 6 - 3 朝倉


 朝倉選手が1ポイント返し、スコアは6-3。彼の瞳には、まだ闘志が宿っている。サーブ権は引き続き朝倉選手。

 朝倉選手は、今度はオーソドックスな下回転ショートサーブを、部長のバック前に丁寧に出してきた。派手さはないが、回転量が豊富で、処理を誤るとネットミスを誘う、質の高いサーブだ。

 部長は、慎重にツッツキで返すが、ややコースが甘くなる。朝倉選手はそれを見逃さず、回り込んでフォアハンドで強烈なループドライブ。回転量の多いボールが、部長のフォアサイドを襲う。部長は懸命にブロックするが、ボールは台の外へと逸れていった。

 部長 6 - 4 朝倉

「…今のショートサーブ、地味ですが非常に効果的でしたね。部長さんのフォアへの意識を逆手に取り、バック側を丁寧に攻めた。そして、甘くなった返球を確実に仕留める。朝倉選手、冷静さを取り戻し、自分のペースに引き込もうとしています。」

 幽基さんが、感心したように呟く。

(確かに、朝倉選手は強い。簡単には崩れない。…ここが踏ん張りどころだ…)

 サーブ権が部長に移る。

 部長は、力強い掛け声とともに、フォアサイドへ速いロングサーブを叩きつけた。朝倉選手の意表を突くサーブ。朝倉選手はなんとか飛びついて返球するが、ボールは山なりになる。

 部長は、そのチャンスボールを逃さず、強烈なスマッシュを相手コートに叩き込み、ポイントを奪い返した。

 部長 7 - 4 朝倉

 続く部長のサーブ。今度は、先ほどのYGサーブのモーションから、スッと手首の角度を変え、ナックル性のショートサーブをフォア前に出した。

 しかし、朝倉選手は今度は惑わされなかった。冷静にボールを見極め、コンパクトなチキータで鋭くクロスに返球。そのボールが、部長のラケットの端をかすめてサイドを抜けていった。

 部長 7 - 5 朝倉

(…朝倉選手、部長のサーブにも対応し始めている。特に、YGサーブの後の変化球には、もう引っかからない…、さすがだ)

 一進一退の攻防。リードはしているものの、部長にとって決して楽な展開ではない。

 朝倉選手は、またしても質の高い下回転ショートサーブを、今度は部長のミドルへ。部長は、それをフリックで攻めようとするが、回転を読み違えたか、ボールはネットにかかってしまう。

 部長 7 - 6 朝倉

 じりじりと点差が縮まっていく。体育館の緊張感が、肌で感じられるほど高まってきた。あかねさんの声援も、心なしか悲鳴に近い響きを帯び始めている。

(部長…苦しい時間帯だけど、ここを乗り越えれば…!)

 朝倉選手は、同じように下回転ショートサーブ。しかし、今度は部長が冷静だった。無理に攻めず、丁寧にツッツキで深く返球。ここから、長いラリー戦が始まった。

 互いにコースを突き、回転をかけ、相手のミスを誘う。一球ごとに、観客席からため息やどよめきが起こる。

 10本以上続いたであろうラリーの末、朝倉選手のバックハンドドライブが、わずかに台の角を捉え、エッジボールとなった。部長は、懸命に手を伸ばすが届かない。

 スコア:部長 7 - 7 朝倉

 ついに、同点に追いつかれた。

(…エッジボールは仕方ない。でも、これで完全に流れが分からなくなってきた。)

 手のひらに、汗が滲む。

 部長は、気合を入れ直すように声を出し、得意のパワーサーブをセンターへ。朝倉選手はそれをブロックするが、少し浮き球になる。部長はすかさず回り込み、フォアハンドで強打!ボールは、朝倉選手のラケットを弾き飛ばさんばかりの勢いでコートに突き刺さった。

 部長 8 - 7 朝倉

 再び部長のサーブ。今度は、YGサーブ。強烈な横回転が朝倉選手を襲う。朝倉選手は、なんとかラケットに当てるが、ボールは大きく打ち上がり、チャンスボールとなる。

(もらった!)誰もがそう思った瞬間、部長がスマッシュを叩き込もうとしたボールが、ネットの白い帯に当たり、無情にも自陣コートにポトリと落ちた。

 スコア:部長 8 - 8 朝倉

(…これでまた同点。本当に、一瞬も目が離せない展開。)

 隣の幽基さんも、固唾を飲んで試合の行方を見守っている。

 朝倉選手は、ここ一番という場面で、サーブトスを高く上げた。そこから放たれたのは、強烈な縦回転のかかったロングサーブ。いわゆる「縦トスサーブ」だ。部長のバックサイド深くに、速いボールが突き刺さる。

 部長は、その速さと回転に対応しきれず、レシーブが大きくオーバーしてしまった。

 スコア:部長 8 - 9 朝倉

 ついに、朝倉選手がこのゲームで初めてリードを奪った。会場の常勝学園応援団から、大きな歓声が上がる。

(まずい…このままでは、第二ゲームを取られてしまう…!)

 朝倉選手は、勢いに乗って、再び同じような縦トスサーブを繰り出す。しかし、今度は部長が読んでいた。一歩早く動き出し、体を預けるようにして、その縦回転サーブを強烈なバックハンドドライブでカウンター!ボールは、矢のような速さで相手コートに突き刺さった!

 部長 9 - 9 朝倉

(部長…!よく返した!あそこで引かなかったのが大きい)

 息をのむような攻防。両者一歩も譲らない。

 サーブ権は部長。9-9。まさにシーソーゲーム。

 部長は、渾身の力を込めて、YGサーブを放った。回転、スピード、コース、全てが一級品。朝倉選手は、懸命に手を伸ばすが、ラケットにかすりもせず、ボールはエースとなった!

 部長 10 - 9 朝倉

 セットポイント!部長が、この激しい競り合いの末、ついにセットポイントを握った!

 あかねさんの絶叫に近い声援が響く。

 会場全体が固唾を飲んで見守る中、部長がサーブを出す。今度は、YGサーブのモーションから、変化をつけたナックル性のサーブ。これで決めに行くかと思われた。

 しかし、朝倉選手は、その変化を完璧に読み切っていた。ネット際に落とされたボールに対し、素早く踏み込み、手首を柔らかく使った絶妙なフリックで、部長のフォアサイド、サイドラインぎりぎりを抜いていった!

 部長 10 - 10 朝倉

 デュース!!

 信じられないような粘りで、朝倉選手がゲームポイントをしのがれ、ついにスコアは10-10のデュースへともつれ込んだ。

 体育館のボルテージは、最高潮に達していた。


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