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異端の白球使い  作者: R.D
県大会 男子決勝

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155/696

YGサーブ vs ハイトスサーブ

 部長 6 - 3 朝倉


 朝倉選手が1ポイント返し、スコアは6-3。


 彼の瞳にはまだ闘志が宿っている。


 サーブ権は引き続き朝倉選手。


 朝倉選手は、今度はオーソドックスな下回転ショートサーブを、部長のバック前に丁寧に出してきた。


 派手さはないが回転量が豊富で、処理を誤るとネットミスを誘う、質の高いサーブだ。


 部長は、慎重にツッツキで返すが、ややコースが甘くなる。


 朝倉選手はそれを見逃さず、回り込んでフォアハンドで強烈なループドライブ。


 回転量の多いボールが、部長のフォアサイドを襲う。


 部長は懸命にブロックするが、ボールは台の外へと逸れていった。


 部長 6 - 4 朝倉


「…今のショートサーブ、地味ですが非常に効果的でしたね。部長さんのフォアへの意識を逆手に取り、バック側を丁寧に攻めた。そして、甘くなった返球を確実に仕留める。朝倉選手、冷静さを取り戻し、自分のペースに引き込もうとしています」


 幽基さんが、感心したように呟く。


 …確かに、朝倉選手は強い。簡単には崩れない。…ここが踏ん張りどころだ…。


 サーブ権が部長に移る。


 部長は、力強い掛け声とともに、フォアサイドへ速いロングサーブを叩きつけた。


 朝倉選手の意表を突くサーブ。朝倉選手はなんとか飛びついて返球するが、ボールは山なりになる。


 部長は、そのチャンスボールを逃さず、強烈なスマッシュを相手コートに叩き込み、ポイントを奪い返した。


 部長 7 - 4 朝倉


 続く部長のサーブ。


 今度は、先ほどのYGサーブのモーションから、スッと手首の角度を変え、ナックル性のショートサーブをフォア前に出した。


 しかし、朝倉選手は今度は惑わされなかった。


 冷静にボールを見極め、コンパクトなチキータで鋭くクロスに返球。


 そのボールが、部長のラケットの端をかすめてサイドを抜けていった。


 部長 7 - 5 朝倉


 …朝倉選手、部長のサーブにも対応し始めている。特に、YGサーブの後の変化球には、もう引っかからない…、さすがだ。


 一進一退の攻防。


 リードはしているものの、部長にとって決して楽な展開ではない。


 朝倉選手は、またしても質の高い下回転ショートサーブを、今度は部長のミドルへ。


 部長は、それをフリックで攻めようとするが、回転を読み違えたか、ボールはネットにかかってしまう。


 部長 7 - 6 朝倉


 じりじりと点差が縮まっていく。


 体育館の緊張感が、肌で感じられるほど高まってきた。


 あかねさんの声援も、心なしか悲鳴に近い響きを帯び始めている。


 部長…苦しい時間帯だけど、ここを乗り越えれば…勝率はかなり上がる。


 朝倉選手は、同じように下回転ショートサーブ。


 しかし、今度は部長が冷静だった。


 無理に攻めず丁寧にツッツキで深く返球、ここから、長いラリー戦へ移行させる。


 互いにコースを突き、回転をかけ、相手のミスを誘う。


 一球ごとに、観客席からどよめきが起こる。


 10本以上続いたであろうラリーの末、朝倉選手のバックハンドドライブが、わずかに台の角を捉え、エッジボールとなった。部長は、懸命に手を伸ばすが届かない。


 スコア:部長 7 - 7 朝倉


 ついに、同点に追いつかれた。


 …エッジボールは仕方ない。でも、これで完全に流れが分からなくなってきた。


 手のひらに、汗が滲む。


 部長は、気合を入れ直すように声を出し、得意のパワーサーブをセンターへ。


 朝倉選手はそれをブロックするが、少し浮き球になる。部長はすかさず回り込み、フォアハンドで強打する。


 ボールは、朝倉選手のラケットを弾き飛ばさんばかりの勢いでコートに突き刺さった。


 部長 8 - 7 朝倉


 再び部長のサーブ。


 今度はYGサーブを放つ。


 強烈な横回転が朝倉選手を襲う。


 朝倉選手は、なんとかラケットに当てるが、ボールは大きく打ち上がり、チャンスボールとなる。


 誰もが部長の得点となる、そう思った瞬間、部長がスマッシュを叩き込もうとしたボールが、ネットの白い帯に当たり、無情にも自陣コートにポトリと落ちた。


 部長 8 - 8 朝倉


 …これでまた同点。本当に、一瞬も目が離せない展開。


 隣の幽基さんも、固唾を飲んで試合の行方を見守っている。


 朝倉選手は、ここ一番という場面で、サーブトスを高く上げた。


 そこから放たれたのは、強烈な縦回転のかかったロングサーブ。


 いわゆる「ハイトスサーブ」だ。


 部長のバックサイド深くに、速いボールが突き刺さる。


 部長は、その速さと回転に対応しきれず、レシーブが大きくオーバーしてしまった。


 部長 8 - 9 朝倉


 ついに、朝倉選手がこのゲームで初めてリードを奪った。


 会場の常勝学園応援団から、大きな歓声が上がる。


 …まずいか…このままでは、第二ゲームを取られてしまう…。


 朝倉選手は、勢いに乗って、再び同じようなハイトスサーブを繰り出す。


 しかし、今度は部長が読んでいた。


 一歩早く動き出し、体を預けるようにして、その縦回転サーブを強烈なバックハンドドライブでカウンター。


 ボールは、矢のような速さで相手コートに突き刺さった。


 部長 9 - 9 朝倉


 息をのむような攻防。両者一歩も譲らない。


 サーブ権は部長、9-9。まさにシーソーゲーム。


 部長は渾身の力を込めて、YGサーブを放った。


 回転、スピード、コース、全てが一級品。


 朝倉選手は、懸命に手を伸ばすが、ラケットにかすりもせず、ボールはエースとなった!


 部長 10 - 9 朝倉


 セットポイント、部長がこの激しい競り合いの末、ついにセットポイントを握った。


 あかねさんの絶叫に近い声援が響く。


 会場全体が固唾を飲んで見守る中、部長がサーブを出す。


 今度は、YGサーブのモーションから、変化をつけたナックル性のサーブ。


 これで決めに行くかと思われた。


 しかし、朝倉選手は、その変化を完璧に読み切る。


 ネット際に落とされたボールに対し、素早く踏み込み、手首を柔らかく使った絶妙なフリックで、部長のフォアサイド、サイドラインぎりぎりを抜いていった。


 部長 10 - 10 朝倉


 デュース。

 信じられないような粘りで、朝倉選手がゲームポイントをしのぎ、ついにスコアは10-10のデュースへともつれ込んだ。


 今日何度目か、体育館のボルテージは、再び最高潮に達していた。

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