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異端の白球使い  作者: R.D
決勝
154/674

男子決勝(11)

 部長 4 - 2 朝倉


 コート上で、部長がサーブの構えに入る。タイムアウト明けの嫌な流れを、先ほどの意外な「ストロベリーフリック」で断ち切った。ここから、さらにリードを広げたいところだ。

 部長は一度、大きく息を吸い込み、そして独特な、少し腰を落とした低い構えを取った。それは、彼の多彩なサーブの中でも、特に変化の大きいサーブを出す時の予備動作。

(…あの構え…!)

 私の脳裏に、過去の練習風景が蘇る。私が体育館の隅で、YGサーブの回転の質…特に、その回転軸を微妙にズラすことや、回転量を調整することで、相手のレシーブをどう惑わせるか、一人で黙々と実験していた時のことだ。あの時、部長が時折、私の練習を遠巻きに見ていたのを思い出す。

 そして今、部長の腕がしなやかに振り抜かれ、ボールは強烈な横回転と前進回転を伴って、朝倉選手のバックサイド深くに鋭く突き刺さった!紛れもない、YGサーブ。しかし、ただのYGサーブではない。私が実験していたように、回転の軸が僅かに揺らぎ、予測しにくい軌道を描いている。

 朝倉選手は、その複雑な回転に一瞬戸惑いながらも、なんとかラケットに当てて返球する。しかし、回転を完全に殺しきれず、ボールはふわりと高く浮いてしまった。

「よしっ!」

 部長は、その甘い返球を見逃さない。予定通りとでも言わんばかりに、素早く回り込み、強烈なフォアハンドでの三球目攻撃を、相手コートに叩きつけた!

 部長 5 - 2 朝倉

「…ナイスサーブ、そして見事な三球目。」

 隣で幽基さんが小さく呟いた。その声には、純粋な称賛の色が浮かんでいる。

(部長…見ていたんだ。そして、ただ見ていただけじゃない。あの時の私の実験の意図を、自分なりに解釈して、自分のものにしている…!)

 驚きと、ほんの少しの誇らしさが、私の胸に込み上げてくる。

 続く部長のサーブ。再び、あの独特なYGサーブのモーションに入る。朝倉選手の脳裏には、先ほどの強烈な横回転が焼き付いていることだろう。

(そして、これも…私が試していた「見せ球」の応用…)

 私がYGサーブの回転量や質を変える実験の中で、同じモーションから全く異なる回転のサーブを出すことで、相手の判断をさらに混乱させられないかと考えていた、あの時の発想。

 今、部長は、YGサーブと全く同じモーションから、インパクトの瞬間にラケットの角度を巧妙に変え、今度は下回転の短いサーブを、朝倉選手のフォア前に静かに落とした!

 意表を突かれた。朝倉選手は、一瞬、体がYGサーブの威力に備えて硬直していたのだろう。慌てて前に踏み込み、その下回転サーブを拾おうとするが、先ほどの強烈な横回転のイメージが邪魔をしたのか、またしても返球が甘く、少し浮き気味になってしまう。

 部長は、それも読んでいた。冷静にその浮き球を捉え、再び強烈な三球目攻撃を叩き込み、連続ポイント。

 部長 6 - 2 朝倉

(…YGサーブの後の、同じモーションからの下回転。これは、相手にYGサーブの残像が強く残っているほど効果を発揮する。部長、完全に試合の流れを掴みつつある。私の断片的な実験が、こんな形で彼の力になっているなんて…)

 部長の戦術的なサーブの組み立てに、私は内心で舌を巻いた。彼が、ただのパワープレイヤーではないことを、改めて証明している。

 だが、それと同時に、私の心の中では、先ほどの幽基さんの言葉と、あの不気味な仮説が、再び鎌首をもたげ始めていた。

 なぜ、私の時だけ、あんなにも執拗に――。

 その思考が、試合の興奮に水を差すように、私の意識を侵食しようとしていた。


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