必勝への布石
部長 13 - 11 朝倉
「っしゃあああああああああああ!!!」
部長先輩の、魂を絞り出すような雄叫びが、まだ体育館の熱気の中に響いている。
さっきの、あの信じられないようなデュースの連続!1ポイント取るたびに、心臓が飛び出しそうだった!
でも、最後は部長先輩の気迫が、常勝学園の朝倉選手を上回ったんだ!
部長先輩が、汗だくの顔に満面の笑みを浮かべて、ベンチに戻ってきた。
「あかね!やったぞ!見たか今の!俺勝ったぞぉぉ!」
その声は、興奮と喜びで震えていて、まるで子供みたいにはしゃいでる。
私も、もう嬉しくて嬉しくて、思わず飛び上がって部長先輩の肩をバンバン叩いちゃった!
「見ました!見ましたよ、部長先輩!本当にかっこよかったです!特にあの、最後のバックハンドスマッシュ!あれ、しおりちゃんみたいでした!」
「だろぉ!?なんか、こう、しおりの奴の変な動きが、乗り移ったみてえだったぜ!」
二人で顔を見合わせて、わははは、と大声で笑い合う。
さっきまでの息詰まるような緊張感が嘘みたいに、今はただ、この勝利の喜びを分かち合っていた。
観客席のしおりちゃんもこっちを見て、ほんの少しだけ微笑んでくれた気がする。
未来さんも、拍手してくれてるみたい。
でも、すぐに私はハッとして、気持ちを切り替える。
まだ、試合は終わったわけじゃない。
これは、まだ第一ゲーム。朝倉選手も、絶対にこのまま黙ってはいないはずだ。
私は、しおりちゃんから預かっていた分厚いノートを開いた。
それは、日頃から様々な選手のデータや、色々な戦術パターン、そして基本的な技術への対処法などを、びっしりと書き込んでいる「汎用性作戦ノート」とも言うべきものだった。
今日の朝倉選手対策も、試合前にこのノートを参考にして、しおりちゃんと部長先輩と三人で確認したんだ。
しおりちゃん、…ありがとう。
あなたのこのノートが、きっと、また部長先輩の力になるはずだから…!
私は、深呼吸を一つして、部長先輩に向き直った。
「部長先輩!本当にすごかったです!でも、朝倉選手、次の第二ゲームは、絶対に戦術を変えてきます。特に、あの質の高い下回転サーブ。あれをどう攻略するかが鍵になりますよね?」
私の言葉に、部長先輩も、興奮を少しだけ抑え、真剣な表情で頷いた。
「しおりちゃんのこのノートにね、一般的な『質の高い下回転サーブ』への対処法が、すごく詳しく書いてあるページがあるんです」
私は、付箋をつけていたページを開き、部長先輩に見せながら説明を始めた。
「まず、相手がロングサーブで、台から出るような下回転サーブを出してきた場合。これは、無理に強打しようとするとネットミスしやすいから、焦らずに、回転量の多いループドライブでしっかり持ち上げて、相手コート深くに返球するのが基本みたい。そうすれば、相手も強打しにくいし、次のボールへの備えもできるって」
「ふむふむ、ループドライブか。確かに、強引に叩きにいってミスするよりはマシだな」
部長先輩が、真剣な眼差しでノートの図解を見つめている。
「ですです!それで問題は、朝倉選手が得意な、台上で止まるような、質の高いショートサーブの場合なんですけど…」
私は、しおりちゃんの独特な文字で書かれた解説を指差す。
「これは、ツッツキで合わせにいくと、相手の思うツボだから、思い切って、チキータ気味に、ボールの側面を捉えて、回転を利用して弾き飛ばすように、攻撃的にレシーブするのが有効だって。しおりちゃんも、よくやるじゃないですか!あの、相手の回転を逆利用するみたいなレシーブ」
「ああ、あのしおりの変なレシーブか!あれ、確かに取りにくいよな。俺もできるか…?」
「部長先輩なら、きっとできますよ!それでね、しおりちゃんが特に、このノートの隅に赤ペンで書き足してたんだけど…」
私は、その小さな文字を読み上げる。
「『部長の場合、その圧倒的な体力とパワーを活かし、どんな形からでもラリー戦に持ち込むことが最も重要。相手が嫌がる泥臭い展開こそ、勝利への最短ルート』…だって!」
私の言葉に、部長先輩の瞳の奥に、再び力強い光が宿った。
「…なるほどな。しおりの奴、そこまで考えてやがったか。よし、あかね!分かったぜ!次のゲーム、見てろよ!俺のパワーと、そして『泥臭い粘り』で、あのスマートな朝倉を、根負けさせてやる!」
部長先輩は力強く拳を握りしめた。
その顔には、もう迷いはない。
インターバル終了を告げるブザーが、間もなく鳴り響く。
部長先輩なら、きっと大丈夫!そして私も、しおりちゃんから託されたこのノートと一緒に、最後まで戦い抜くんだ!
私は、強く心に誓いながら、部長先輩と共に、次の第二ゲームの戦いへと意識を集中させた。




