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異端の白球使い  作者: R.D
県大会 男子決勝

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紙一重

 ついにこの壮絶な第一ゲームのセットポイントを、俺が握ったのだ!


 あと一点。この一点を取ればこの流れを完全に俺のものにできる!


 しかし朝倉陽介という男は、ここで簡単に諦めるような選手ではなかった。


 サーブ権は朝倉へ、彼の1本目。


 彼は深く息を吸い込み、そしてあの強烈な横下回転をかけたショートサーブを、今度は俺のバックサイドネット際に、さらに厳しいコースへと送り込んできた!


 それは彼のプライドを賭けた、まさに魂の一球。


 俺は、そのサーブに対し、懸命にラケットを合わせる。


 しかし、ボールの回転とコースが、本当に紙一重、俺の予測を上回っていた。ラケットに当たったボールは、無情にもネットにかかってしまった…。


 部長 10 - 9 朝倉


 くそっ…!まだ、粘ってきやがるか…!


 だが、まだ俺のゲームポイントだ。


 続く朝倉のサーブ2本目。


 彼は、今度はサーブの狙いを僅かに外し、台上で鋭く横に切れるような、しかし回転量はそれほど多くない、トリッキーな横回転サーブを、俺のフォアサイドへと送ってきた。


 俺は、その変化に対応しようとラケットを出すが、ボールの回転が思ったよりも少なく、レシーブがほんの少しだけ、軽く浮いてしまった!


 しまった!


 朝倉は、その僅かな浮き球を見逃さない!


 彼は、静かに、しかし電光石火の速さで踏み込み、フォアハンドで、俺のバックサイド深くに、強烈なドライブを叩き込んできた!


「うおおおおっ!」


 俺も、負けずにそのボールに食らいつく!


 台から少し距離を取り、持ち前のパワーで、そのドライブを、さらに強烈な回転をかけたカウンタードライブで押し返した!


 ボールは、凄まじい勢いで朝倉のコートへと突き刺さる!


 しかし、朝倉もまた、驚異的な反応速度と体幹の強さで、そのカウンタードライブを、さらに信じられないような角度のブロックで、俺のフォアサイドへと返してきた!


 そこからは、まさに壮絶な打ち合いの応酬!


 互いに一歩も引かず、台の左右を激しく動き回り、ボールは目にも留まらぬ速さでネットの上を往復する!


 体育館の全ての視線が、この一点に注がれている。


 そして、その長い長い、魂を削り合うようなラリーの果て。


 俺のフォアハンドドライブが、ほんの僅かに、本当に紙一重、サイドラインを割ってしまった…。


 部長 10 - 10 朝倉


 デュース。


 この、地獄のような第一ゲームは、まだ終わらない。


 体育館の興奮はもはや爆発寸前だった。俺の心臓も、激しく高鳴り続けている。


 だが不思議と焦りはない、むしろこの状況を楽しんでいる自分がいる。


 面白いじゃねえか、朝倉…!お前との戦い、とことん味わってやるぜ!


  部長 10 - 10 朝倉


 サーブ権は俺。


 デュースに入り、1本ずつの交代となる。


 俺は大きく息を吸い込み、そして、渾身の力を込めた、回転とスピードを両立させたパワーサーブを、朝倉のバックサイド深くへと叩き込んだ!


 朝倉はそのサーブに対し、バックハンドで強引にドライブを試みるが、ボールの威力に押され、ネットを大きく越えてオーバーする。


 部長 11 - 10 朝倉


「っしゃあ!」俺は小さく拳を握る。あと一点!


 サーブ権は朝倉へ。


 朝倉は静かに、そして深く息を吸い込み、集中力を極限まで高める。


 その瞳の奥に、このゲームを絶対に渡さないという、揺るぎない意志が宿っている。


 放たれたサーブは、これまでのどのサーブよりも鋭く、そして回転も複雑だった。


 俺のフォアサイド、ネット際に短く、そして強烈な横下回転がかかった、まさに横回転の真骨頂とも言える一球。


 俺は、そのサーブに対し、全身のバネを使って飛びつくようにしてレシーブを試みる。


 しかし、ボールの回転と低さが絶妙で、俺のラケットに当たったボールは、惜しくもネットを越えない。


 部長 11 - 11 朝倉


 再びデュースとなる。


 まさに魂と魂のぶつかり合い。技術や戦術を超えた、精神力の勝負。


 サーブ権は再び俺。


 …後藤…お前の魂、借りるぜ!


 俺は、脳裏にあの懐かしい記憶を蘇らせながら、静かに構えた。


 そして、ボールをトスし、ラケットを振り抜く。


 それは、いつもの俺のパワーサーブとは、明らかに異なる軌道を描いた。


 放たれたサーブは、低い弾道で朝倉のフォアサイドのネット際に短く、そして、バウンドした瞬間、ありえないほどの急な横回転を見せ、台の外側へと、まるで逃げるようにして鋭く切れ込んでいった!


「なっ…!?」


 朝倉の体が、そのサーブの軌道と回転に、彼のラケットは、ボールを返すことは出来たが、部長にとってのチャンスボールとして帰ってくる。


 ボールは甘く、俺のフォアサイドへと浮き上がる。


 もらった!


 俺は、そのチャンスボールを見逃さない。


 体を大きく使い、渾身のフォアハンドドライブを、朝倉のバックサイド、オープンスペースへと叩き込んだ。


 完璧な三球目攻撃。


 部長 12 - 11 朝倉


 サーブ権は朝倉へ。


 あいつの顔には、さすがに焦りの色が見える。俺の、この予測困難なサーブと、その後の強打に、完全にリズムを崩されている。


 …台上の捌き合いが隙とみた朝倉は、再び下回転のショートサーブから台上の捌き合いへ持ち込もうとするはずだ…!


 俺の脳が、しおりの分析を思い出す。


 朝倉が放ったサーブは、やはり、俺のフォアサイド、ネット際に短く、そして強烈な下回転がかかった、あの得意のショートサーブ。


 俺はそのサーブに対し、今度は冷静に、低い姿勢から、鋭いツッツキで朝倉のバックサイド深くに返球した。


 朝倉も、それをツッツキで返してくる。ここから、再び、息詰まるような台上の捌き合い。


 …しおりの奴が見せる、あのネット際の、相手の回転を利用するような、いやらしい捌き方…あいつのボールに比べれば、朝倉のこの下回転なんて、まだまだぬるすぎるぜ!


 俺は、しおりとの練習の記憶を、そして彼女の「異端」なボールタッチを思い出しながら、朝倉のツッツキの回転とコースを完璧に読み切った。


 そして、朝倉のツッツキが、ほんのわずかに、本当に紙一重、甘く、そして高く浮いた、その瞬間。


 俺は、そのボールに対し、体を素早く反応させ、そして、コンパクトながらも全身のバネを使った、渾身のバックハンドスマッシュを、朝倉のフォアサイド、オープンスペースへと叩き込んだ。


 それは、俺の得意なフォアハンドではなく、あえて相手の予測を裏切る、バックハンドでの強打。


 ボールは、朝倉の反応も虚しく、コートの隅に深々と突き刺さった。


 部長 13 - 11 朝倉 


 セットカウント 部長 1 - 0 朝倉


「っしゃあああああああああああ!!!」


 俺は両手を天に突き上げ、これまでの人生で最大ではないかと思われるほどの、魂の雄叫びを上げた。


 その顔には、汗と、そしてほんの少しの涙が光っているように見えた。


 まさに、壮絶な死闘。


 パワーと変化、そして何よりも精神力がぶつかり合った、この第一ゲーム。


 それを制したのは、最後まで諦めなかった、第五中学校、部長猛だった。


 ベンチのあかねが、飛び上がって喜んでいるのが見える。


 そして、観客席のしおりも、ほんの少しだけ、その口元に笑みを浮かべているような気がした。


 この流れ、絶対に渡さねえ!

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