追い付き引き離され
セットカウント 部長 0 - 0 朝倉
部長 6 - 6 朝倉
サーブ、部長(1本目)部長視点。
まだだ!まだ、このゲーム、諦めるわけにはいかねえんだよ!
ベンチのあかねの笑顔と、観客席のしおりの静かな眼差しが、俺に力をくれる。
この決勝戦、絶対に勝つ!
サーブ権は俺。スコアは6-6。
ここからが、本当の正念場だ。
俺は集中力を高め、ネット際に短く、そして横回転を僅かに加えたショートサーブを、朝倉のフォアサイドへと送り込んだ。
しおりが言っていた、「時には、相手の意表を突く短いストップや、コースを変えるループドライブを織り交ぜる」という言葉が、頭の中で繰り返される。
朝倉はそのサーブに対し、冷静にそして低い体勢から、鋭いツッツキで俺のバックサイド深くに返球してきた。
そのボールは、まるで台の上を滑るかのように、低く、そして速い。
ここから、息詰まるような、細かい台上の技術の応酬が始まる。
俺も朝倉も、ツッツキやストップで相手を揺さぶり、甘いボールが来たらすかさずフリックやドライブで攻める。
一球一球に、ものすごい集中力と神経が使われているのが、自分でも分かる。
そのギリギリの攻防の中で、俺のツッツキが、ほんのわずかに、本当に紙一重、台から高く浮いてしまった。
「ちっ!」
俺はミスを認めてカウンターに備える。
だが朝倉は、鋭いフォアハンドで、俺のフォアサイドを打ち抜いた!
俺はその鋭いドライブに、カウンターのタイミングを逃してしまう。
部長 6 - 7 朝倉
くそっ…!今の、完全に俺のミスだ…!
「まだこれからだよ、部長先輩…!」
後ろから、俺を後押ししてくれる、声援が聞こえる。
そうだ、まだだ。まだ取り返せる。
続く俺のサーブ2本目。
俺はもう一度、同じようなショートサーブを、今度は少しだけ回転を変え、朝倉のバックサイドへと送り込んだ。再び台上の細かい捌き合いを仕掛けるように見せかける。
朝倉は、それを警戒し、先ほどと同じように鋭いツッツキで、俺のフォアサイドへと返球してきた。
…来た!誘い込んだぜ!
俺は、そのツッツキで返ってきたボールに対し、体を素早く反応させ、そして、コンパクトながらも全身のバネを使った、渾身のバックハンドドライブを、朝倉のフォアサイド、オープンスペースへと叩き込んだ!
それは、しおりが時折見せる、あの意表を突くバックハンドの強打。俺も練習で何度も見て、そして自分なりに取り入れようとしてきた技だ!
ボールは、朝倉の反応も虚しく、コートの隅に深々と突き刺さった。
部長 7 - 7 朝倉
「おらあああ!!」
俺は、力強く拳を握りしめる。追いついた!
ベンチのあかねが、嬉しそうに飛び跳ねているのが見えた。
観客席のしおりも、ほんの少しだけ、口元が緩んだような気がした。
サーブ権は朝倉へ
ここからが、本当の勝負だ。
あいつの、あのいやらしい横下回転サーブ。
しおりも、あれを警戒しろと言っていた。
朝倉は静かに構え、そしてやはり、俺のフォアサイドのネット際に短く、そして強烈な横下回転がかかったあの得意のショートサーブを放ってきた。
…来ることは分かってる!だが、それでも、あの回転は…!
俺は、そのサーブに対し、懸命にラケットを合わせようとする。
しかし、ボールの回転が強烈すぎて、ラケットの面から滑るようにして、ネットにかかってしまった…。
部長 7 - 8 朝倉
くそっ…!やはり、あのサーブは一筋縄じゃいかねえ…!
だが、俺は諦めない。次のポイントだ。
続く朝倉のサーブ2本目。
朝倉は再び同じような、しかし今度はほんの少しだけコースを変え、俺のミドル寄りに、あの横下回転ショートサーブを送り込んできた。
俺は今度こそ、その回転とコースを読み切り、体を鋭く台に入れ、フォアハンドで強烈なドライブを、朝倉のバックサイドへと叩き込んだ!
これが、俺の四球目攻撃への布石!
朝倉は、その鋭い攻撃に対し、驚くほどの反応速度で対応し、バックハンドでカット性のブロックで受ける。
ボールは、回転を殺され、しかし高く、俺のフォアサイドへと返ってくる。
想定とは違うが絶好のチャンスボール!
…もらった!
俺はそのボールに対し、体を大きく使い、渾身のフォアハンドドライブを朝倉のバックサイド、オープンスペースへと叩き込んだ!完璧な四球目攻撃!
ボールは、朝倉の反応も虚しく、コートに深々と突き刺さった!
部長 8 - 8 朝倉
再び同点!
この決勝戦、まさに魂と魂のぶつかり合い。どちらも一歩も譲らない、壮絶な戦いだ!
俺の心臓は、激しく高鳴っていた。
しかし不思議と恐怖はない。
ただ、この強敵と戦えることへの喜び、そして仲間たちの応援を力に変えて、絶対に勝つという、強い意志だけが、そこにあった。




