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異端の白球使い  作者: R.D
決勝
144/674

男子決勝(3)

「っしゃあ!」

 部長先輩の気迫のこもったスマッシュが決まって、スコアは1-1のイーブン! さっきまでの重苦しい空気が、少しだけ晴れた気がした。ベンチにいる私のところまで、部長先輩の熱気が伝わってくるみたい。観客席のしおりと未来ちゃんも、きっと今のプレーに何かを感じてくれてるはず!

(よし、ここからだ、部長先輩!)

 私は、ノートに今のポイントの簡単なメモを書き加えながら、心の中で力強くエールを送る。

 サーブ権は、相手の朝倉選手へ。

 彼は、さっき部長先輩にエースを2本も取られたのに、表情一つ変えずに、静かにサーブの構えに入った。なんだか、すごく落ち着いてる…。未来ちゃんが言ってた、「スマートな王道」「現代卓球」っていうのが、こういうことなのかな。

 朝倉選手の1本目のサーブ。

 それは、さっき部長先輩が苦しめられた横回転系のサーブとは違って、もっとシンプルに見える、でもすごく速くて低い、下回転のショートサーブだった。部長先輩のフォアサイド、ネット際に、まるでカミソリみたいにスーッと入ってくる。

「くっ…!」

 部長先輩が、咄嗟にフォアハンドでツッツキ気味にレシーブしようとしたけど、ボールの回転が思ったより強かったみたいで、ラケットの角度が合わなかった。ボールが、ぽとりとネットの真下に落ちちゃった…。

 部長 1 - 2 朝倉

(うぅ…やっぱり、朝倉選手も強い。さっきの部長先輩の勢いを、すぐに断ち切ろうとしてるんだ…。)

 続く朝倉選手のサーブ2本目。

 今度は、同じモーションから、回転の種類をほんの少しだけ変えてきたみたい。部長先輩のバックハンド側に、今度は少しだけ長めの、でもやっぱり強烈な下回転がかかったボールが送り込まれる。

 部長先輩は、それにバックハンドで対応しようとしたけど、これも回転に押されたのか、ボールがラケットの面を滑るようにして、大きくサイドアウトしてしまった。

 部長 1 - 3 朝倉

(まずい…朝倉選手、サーブで完全に部長先輩を翻弄してる。部長先輩の得意なパワープレイに、全然持ち込ませてもらえないよ…。)

 私の胸に、焦りの気持ちが広がっていく。しおりなら、こういう時、冷静に相手のサーブの癖とか回転とかを分析するんだろうな…。私には、ただ「すごいサーブだ」ってことくらいしか分からない。

 サーブ権は部長先輩へ。

 でも、部長先輩の表情には、明らかに焦りと苛立ちの色が浮かんでいる。さっきまでの勢いが、完全に削がれてしまっているみたい。

 しおりがインターバルで言ってた、「体力とパワーで、真正面から、そして確実に、ポイントを一つ一つ重ねていく」っていうアドバイス。それを思い出してほしいんだけど…。

 部長先輩が放つサーブは、力みすぎているのか、回転もコースも少し甘くなっている気がする。朝倉選手は、それを見逃さない。

 部長先輩の甘くなったサーブや、苦し紛れの返球を、朝倉選手は決して力任せに打ち抜こうとはしない。むしろ、そのボールの力を巧みに利用して、さらにいやらしい下回転を加えたり、絶妙なコースへとコントロールされた、低いツッツキやストップで、確実に部長先輩のミスを誘っていく。

 まるで、じわじわと、でも確実に、部長先輩の心を追い詰めていくような、冷徹で、計算され尽くした戦い方…。

 部長 1 - 4 朝倉

 次の部長先輩のサーブも、少し回転が甘かったのか、二球目攻撃をもろにくらってしまった。

 部長 1 - 5 朝倉

 完全に、朝倉選手のペースだ。

 部長先輩の「パワー」が、朝倉選手の巧みな「下回転系の変化」と「戦術」の前に、完全に牙を抜かれてしまっている。

 体育館のどよめきも、次第にため息へと変わっていく。

 私は、思わず立ち上がりそうになるのを、必死で堪えた。ベンチにいる私が慌てちゃダメだ。部長先輩を、信じなきゃ。

 でも、やっぱり心配で、声が出そうになる。

「ぶ、部長先輩…!」

 私が何かを言いかける前に、部長先輩が、汗を拭うふりをして、ほんの一瞬だけ、また私の方を見た。その瞳は、まだ諦めていない。むしろ、「ここからだ」って言ってるみたいだった。

 そうだよね!まだ、始まったばかりだもん!

 私は、両手をメガホンのようにして口元に当て、そして、体育館の喧騒にも負けないくらい、大きな声で叫んだ。

「部長せんぱーーい!頑張れーーーっ!!一本、集中ーーーっ!!!」

 私の声が、コート上の部長先輩に届いたかどうかは分からない。でも、私のこの気持ちは、きっと伝わってるはずだ。

 部長先輩は、朝倉選手の次のサーブを待つ間、ほんの少しだけ、口元に不敵な笑みを浮かべたように見えた。

 ここから、部長先輩の本当の反撃が始まるんだ!

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