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異端の白球使い  作者: R.D
県大会 男子決勝

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パワーと戦術

「っしゃあ!」


 部長先輩の気迫のこもったスマッシュが決まって、スコアは1-1のイーブン!


 さっきまでの重苦しい空気が、少しだけ晴れた気がした。


 ベンチにいる私のところまで、部長先輩の熱気が伝わってくるみたい。観客席のしおりちゃんと未来さんも、きっと今のプレーに何かを感じてくれてるはず!


 …よし、ここからだ、部長先輩!


 私は、ノートに今のポイントの簡単なメモを書き加えながら、心の中で力強くエールを送る。


 サーブ権は、相手の朝倉選手へ。


 彼は、部長先輩の誘い出しからのカウンターを受けたにも関わらず、表情一つ変えずに静かにサーブの構えに入った。


 なんだか、すごく落ち着いてる…。未来さんが言ってた「スマートな王道」「現代卓球」っていうのが、こういうことなのかな。


 朝倉選手の1本目のサーブ。


 それは、さっきの試合で部長先輩が苦しめられた横回転系のサーブとは違って、もっとシンプルに見える、でもすごく速くて低い、下回転のショートサーブだった。


 部長先輩のフォアサイド、ネット際に、まるでカッターみたいにスーッと入ってくる。


「くっ…!」


 部長先輩が、咄嗟にフォアハンドでツッツキ気味にレシーブしようとしたけど、ボールの回転が思ったより強かったみたいで、ラケットの角度が合わなかった。


 ボールが、ぽとりとネットの真下に落ちちゃった…。


 部長 1 - 2 朝倉


 …うぅ…やっぱり、朝倉選手も強い。さっきの部長先輩の勢いを、すぐに断ち切ろうとしてるんだ…。


 続く朝倉選手のサーブ2本目。


 今度は、同じモーションから、回転の種類をほんの少しだけ変えてきたみたい。


 部長先輩のバックハンド側に、今度は少しだけ長めの、でもやっぱり強烈な下回転がかかったボールが送り込まれる。


 部長先輩は、それにバックハンドで対応しようとしたけど、これも回転に押されたのか、ボールがラケットの面を滑るようにして、大きくサイドアウトしてしまった。


 部長 1 - 3 朝倉


 …まずいよ…朝倉選手、サーブで完全に部長先輩を翻弄してる。部長先輩の得意なパワープレイに、全然持ち込ませてもらえないよ…。


 私の胸に、焦りの気持ちが広がっていく。


 しおりちゃんなら、こういう時、冷静に相手のサーブの癖とか回転とかを分析するんだろうな…。


 私には、ただ「すごいサーブだ」ってことくらいしか分からない。


 サーブ権は部長先輩へ。


 でも、部長先輩の表情には、明らかに焦りと苛立ちの色が浮かんでいる。


 さっきの勢いが、完全に削がれてしまっているみたい。


 しおりちゃんが前の試合のインターバルで言ってた、「体力とパワーで、真正面から、そして確実に、ポイントを一つ一つ重ねていく」っていうアドバイス。


 それを思い出してほしいんだけど…。


 部長先輩が放つサーブは、力みすぎているのか、回転もコースも少し甘くなっている気がする。


 朝倉選手は、それを見逃さない。


 部長先輩の甘くなったサーブや、苦し紛れの返球を、朝倉選手は決して力任せに打ち抜こうとはしない。


 むしろ、そのボールの力を巧みに利用して、さらにいやらしい下回転を加えたり、絶妙なコースへとコントロールされた、低いツッツキやストップで、確実に部長先輩のミスを誘っていく。


 まるで、じわじわと、でも確実に、部長先輩の心を追い詰めていくような、冷徹で、計算され尽くした戦い方…。


 部長 1 - 4 朝倉


 次の部長先輩のサーブも、少し回転が甘かったのか、二球目攻撃をもろにくらってしまった。


 部長 1 - 5 朝倉


 完全に、朝倉選手のペースだ。


 部長先輩の「パワー」が、朝倉選手の巧みな「下回転系の変化」と「戦術」の前に、完全に牙を抜かれてしまっている。


 体育館のどよめきも、次第にため息へと変わっていく。


 私は、思わず立ち上がりそうになるのを、必死で堪えた。ベンチにいる私が慌てちゃダメだ。


 部長先輩を、信じなきゃ。


 でも、やっぱり心配で、声が出そうになる。


「ぶ、部長先輩…!」


 私が何かを言いかける前に、部長先輩が、汗を拭うふりをして、ほんの一瞬だけ、また私の方を見た。


 その瞳は、まだ諦めていない。


 むしろ「ここからだ」って言ってるみたいだった。


 そうだよね!まだ、始まったばかりだもん!


 私は、両手をメガホンのようにして口元に当て、そして、体育館の喧騒にも負けないくらい、大きな声で叫んだ。


「部長せんぱーーい!頑張れーーーっ!!一本、集中ーーーっ!!!」


 私の声が、コート上の部長先輩に届いたかどうかは分からない。


 でも、私のこの気持ちは、きっと伝わってるはずだ。


 部長先輩は、朝倉選手の次のサーブを待つ間、ほんの少しだけ、口元に不敵な笑みを浮かべたように見えた。


 ここから、部長先輩の本当の反撃が始まるんだ!

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