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異端の白球使い  作者: R.D
県大会編 準決勝
137/168

茜色に降る異端と異質と熱血漢(2)

 私の「静寂な世界」に、また新たな、そして予測不能な「ノイズ」が混入しようとしていた。

 団体戦のコートから響いた、何かが割れるような不快な音と、一瞬の大きなどよめき。それは、どうやら熱戦の末のラケットの破損か、あるいはそれに近いアクシデントだったようで、すぐに試合は再開された。しかし、その一瞬の出来事は、私たちの間に漂っていた、決勝戦への期待と、そして情報漏洩という「見えない敵」への警戒感を、さらに増幅させたかのようだった。

「…ったく、何なんだよ、今の音は。縁起でもねえな。」

 部長が、苦々しげに呟く。彼は、根っからの卓球好きで、団体戦の熱戦からも目が離せない様子だったが、今はそれ以上に、自分たちの決勝戦のことで頭がいっぱいなのだろう。

 私は、団体戦のコートにはほとんど意識を向けず、あかねさんがまとめてくれた情報と、トーナメント表を交互に見ながら、思考を巡らせていた。

 私の決勝の相手は、やはり常勝学園の青木桜。そして、部長の決勝の相手は、同じく常勝学園のエース、朝倉陽介選手と名前が変わっていた。彼もまた、全国レベルの実力者であることは間違いない。

「…青木桜選手の情報、未来選手が言っていた『精神的な強さ』と『相手の心を折るのが上手い』、そして『本当の全力はまだ誰も見たことがないかもしれない』という点が、やはり最も警戒すべきデータですね。」

 私は、静かに口を開く。

「そして、部長の相手、朝倉陽介選手。彼に関する具体的なデータは、ほとんどありません。常勝学園の選手である以上、高い基本技術と戦術眼を持っていることは予測できますが…。」

「ああ。朝倉とは、1年の頃の個人戦でも一度当たったが、その時は俺がなんとか勝った。だが、あいつ、その後めちゃくちゃ強くなってるって噂だ。正統派のドライブマンだが、とにかくミスが少ねえし、粘り強い。尾ヶ崎とはまた違うタイプのやりにくさがあるぜ。」

 部長が、厳しい表情で補足する。

「うーん…」あかねさんが、ノートと首っ引きになりながら唸っている。「未来選手から聞いた桜さんの情報も、なんだか抽象的で…。朝倉選手の情報は、本当にほとんどないし…。これじゃあ、しおりの分析も、なかなか進まないよね…。」

 彼女の言う通りだった。決勝戦という最高の舞台で戦う相手の情報が、これほどまでに不足しているというのは、大きなハンデだ。作戦メモの情報が漏洩しているかもしれないという疑念も、私たちの戦術選択をより慎重にさせている。

「…もう少し、何か手がかりが欲しいですね。特に、青木桜選手の『隠された何か』と、朝倉選手の具体的な戦術パターンについて…。」

 私がそう呟き、あかねさんが「やっぱり、私、もう一度だけ、誰かに話を聞いてみようかな…!」と、決意を固めたように立ち上がろうとした、その時だった。

「――あの…もし、よかったら、私がお話しできることがあるかもしれません。」

 静かで、しかし芯の通った声。

 振り返ると、そこには、いつの間にか、月影女学院のジャージを纏った、幽基未来選手が立っていた。その表情は、先ほど私に謝罪した時のような痛々しさは薄れ、代わりに、どこか吹っ切れたような、そして私たちに対する、ほんのわずかな信頼の色を浮かべているように見えた。

「未来選手…!?」あかねさんが、驚きの声を上げる。部長も、意外な人物の登場に、少し目を見開いている。

「先ほどの話…少しだけ、聞こえてしまいました。」未来選手は、私たちに一礼すると、静かに続けた。「常勝学園の、青木桜選手と、朝倉陽介選手のことですよね?私、桜さんとは何度か練習試合をさせてもらったことがありますし、朝倉選手の試合も、地区の大会で何度か見ています。そして…彼らの卓球について、私なりに分析したデータもあります。」

 その言葉は、まさに暗闇の中に差し込んだ一筋の光だった。

 彼女は、一体何を、そしてどこまで知っているのだろうか。

 そして、なぜ、私たちに手を差し伸べようとしてくれているのだろうか。

 私の「異端の白球」は、この思いがけない協力者の出現によって、新たな局面を迎えようとしていた。

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