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異端の白球使い  作者: R.D
県大会編 準決勝
128/674

タイムアウト(2)

「タイムアウト!」

 相手ベンチから、尾ヶ崎選手のコーチの鋭い声が、体育館に響き渡った。

 この勝負どころでタイムアウトを要求してきたのだ。

 審判が両者にタイムアウトを告げ、尾ヶ崎選手が足早に自陣ベンチへ戻っていく。部長もゆっくりとタオルとドリンクを取りにベンチへ向かった。その背中に、ベンチで冷静に戦況を見つめていたしおりが、落ち着いたトーンで声をかける。

「部長。…また、競った展開になりましたね。ここが正念場です、一気に引き離すべきかと」

 感情を抑えた、分析的な目で部長を見つめる。部長はドリンクを静かに一口飲むと、額の汗をタオルで拭い、低く応じた。

「……ああ。相手も、相当粘り強い。思うような展開に持ち込ませてもらえないな」

 その口調は、先ほどまでの焦りこそ消えつつあるものの、まだ完全な余裕を取り戻したとは言えない、集中力を研ぎ澄ませているような響きがあった。しおりは小さく頷き、淡々と続ける。

「相手コーチ、かなり切羽詰まっている様子でした。このタイミングでのタイムアウト、考えられる意図は主に三つです」

「三つ…」

「はい。第一に、尾ヶ崎選手への休息指示。体力的な消耗は明らかですから。第二に、戦術の再確認、あるいは変更。この拮抗した流れを一度リセットしたいのでしょう」

 部長は黙ってしおりの言葉に耳を傾け、次の言葉を待つ。

「そして第三に、最も警戒すべきは…戦術的な『賭け』です。尾ヶ崎選手自身がまだ習熟していない可能性のある、リスクを伴うサーブやショットを、この局面で投入してくるかもしれません」

「……賭け、か」

「ええ。もし、尾ヶ崎選手に普段と異なるモーションや、意図の読みにくい不慣れな様子のボールが見られた場合、それは相手にとっての勝負手である可能性が高い。そこを確実に見極め、カウンターで相手の戦意を削ぐべきです」

 しおりの冷静な分析に、部長の目が再びコートの向こう、相手ベンチへと向けられる。

 タイムアウト終了を告げるブザーが、間もなく体育館に鳴り響こうとしていた。しおりは最後に、表情を変えずに付け加える。

「…デュースに持ち込ませる必要はありません。この流れで、確実に仕留めてください」

「フッ…任せろ」

 部長は短く、しかし力強くそう応えると、ラケットを握り直し、再びコートへと向かっていった。その背中には、勝利への確固たる意志が宿っているように見えた。


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