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異端の白球使い  作者: R.D
県大会編 準決勝
127/674

熱血漢vs変化球(11)

 サーブ権は尾ヶ崎選手。彼の2本目。

 その構えは、先ほどYGサーブに近い変化サーブでポイントを取った時と同じ、体を大きく使ったもの。部長の体が、再びあの鋭いサーブを警戒し、ほんのわずかに強張るのが見て取れた。

 しかし、尾ヶ崎選手がそこから放ったのは、ロングサーブではない。

 モーションとは裏腹に、ネット際に短く、そして強烈な横下回転がかかった、まさに「オフチャロフサーブ」の基本形とも言える、いやらしいショートサーブだった。

 部長は、ロングサーブを警戒してやや後方に意識がいっていたため、その短いサーブへの反応が一瞬遅れた。咄嗟にフォアハンドで合わせようとするが、強烈な横下回転にラケット面を合わせきれず、ボールはネットにかかってしまう。

 部長 4 - 2 尾ヶ崎

(…フェイント。ロングサーブのモーションからの、ショートサーブ。そして、あの回転量。尾ヶ崎選手、明らかにギアを上げてきている。部長の思考の隙を的確に突いてきた。)

 私の脳は、瞬時に相手の戦術変更を分析する。

 サーブ権は部長へ。スコアは4-2。

 部長は、ここで流れを渡すまいと、強烈なトップスピンサーブを尾ヶ崎選手のミドルへ。尾ヶ崎選手はなんとかブロックするが、ボールは甘く浮き、部長がそれをフォアハンドスマッシュで叩き込みポイント。

 部長 5 - 2 尾ヶ崎

 部長のサーブ2本目。

 今度は、回転を重視した横回転サーブをフォアサイドへ。尾ヶ崎選手は、それを巧みなバックハンドのカウンタードライブで、部長のバックサイドを鋭く抜き去る!

 部長 5 - 3 尾ヶ崎

(…尾ヶ崎選手のカウンタードライブの精度が上がっている。部長のサーブのコースが、少し単調になっているか…?いや、それ以上に、尾ヶ崎選手が、部長のパワーボールに慣れ、それを逆用する術を身につけ始めている。)

 私の分析は、さらに厳しいものとなる。

 サーブ権は再び尾ヶ崎選手へ。

 彼は、ここからさらにその「変化」のギアを上げる。独特のバックハンドサーブから、強烈な横下回転と、ナックルを巧みに織り交ぜ、部長のレシーブミスを誘う。

 そして、ラリーになれば、粘り強いブロックと、予測不能なタイミングでのカウンター、さらにはネット際のいやらしいストップも混ぜてくる。

 部長 5 - 4 尾ヶ崎

 部長 5 - 5 尾ヶ崎

(…まずい。完全に尾ヶ崎選手のペースだ。部長の「パワー」が、彼の「変化」と「戦術」に、再び封じ込められようとしている。だけど、お互い体力が、このシーソーゲームで確実に削られているはず…。)

 私の脳裏に、第一ゲーム、第二ゲームの激闘が蘇る。あの時のように、部長はここから粘りを見せられるのか。しかし、相手はあの時よりもさらに手強い。

 サーブ権は部長へ。スコアは5-5。

 部長は、ここで大きく息を吸い込み、そして、しおりのアドバイス「体力勝負ならあなたが圧倒的有利」という言葉を思い出したかのように、原点回帰のパワフルな卓球を展開する。

 力強いサーブで尾ヶ崎選手を台から下げさせ、甘くなった返球を、フォアハンドドライブで広角に打ち分け、ポイントを奪取!

 部長 6 - 5 尾ヶ崎

 続く部長のサーブ。今度は、先ほどのパワーサーブとは対照的に、ネット際に短く、しかし回転量の多い下回転サーブ。

 尾ヶ崎選手は、それをツッツキで返すが、ボールは僅かに浮き上がる。

 そこを、部長は見逃さない!一歩踏み込み、フォアハンドで、強烈なスマッシュを叩き込んだ!

 部長 7 - 5 尾ヶ崎

(…部長、持ち直した。彼の「パワー」と、そしてそれを支える「精神力」。そして、私の分析とアドバイスが、ほんの少しでも彼の力になっているのなら…。)

 しかし、尾ヶ崎選手の瞳の奥の光は、まだ少しも揺らいでいない。この第三ゲーム、まだまだ予दानを許さない展開が続きそうだ。

 部長が再びリードを奪い返したものの、尾ヶ崎選手も驚異的な粘りを見せ、互いに一歩も譲らない。ポイントは、どちらに転んでもおかしくない状況で、息詰まる攻防が続く。部長がパワーで押せば、尾ヶ崎選手は変化でかわし、カウンターを狙う。その応酬が、観客を魅了する。

 そして、スコアが部長 7 - 7 尾ヶ崎 と、詰め寄られた、まさにその時だった。

「タイムアウト!」

 相手ベンチから、尾ヶ崎選手のコーチの鋭い声が、体育館に響き渡った。

 東雲中学校側が、この勝負どころでタイムアウトを要求してきたのだ。

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