表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端の白球使い  作者: R.D
県大会 男子準決勝

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

127/694

一進一退

 サーブ権は尾ヶ崎選手、彼の2本目。


 その構えは、先ほどYGサーブに近い変化サーブでポイントを取った時と同じ、体を大きく使ったもの。


 部長の体が、再びあの鋭いサーブを警戒し、ほんのわずかに強張るのが見て取れた。


 しかし、尾ヶ崎選手がそこから放ったのは、ロングサーブではない。


 モーションとは裏腹に、ネット際に短く、そして強烈な横下回転がかかった、まさにオフチャロフサーブの基本形とも言える、いやらしいショートサーブだった。


 部長は、ロングサーブを警戒してやや後方に意識がいっていたため、その短いサーブへの反応が一瞬遅れた。


 咄嗟にフォアハンドで合わせようとするが、強烈な横下回転にラケット面を合わせきれず、ボールはネットにかかってしまう。


 部長 4 - 2 尾ヶ崎


 …フェイント。ロングサーブのモーションからの、ショートサーブ。そして、あの回転量。尾ヶ崎選手、明らかにギアを上げてきている。部長の思考の隙を的確に突いてきた。


 私の脳は、瞬時に相手の戦術変更を分析する。


 サーブ権は部長へ。スコアは4-2。


 部長は、ここで流れを渡すまいと、強烈なトップスピンサーブを尾ヶ崎選手のミドルへ。尾ヶ崎選手はなんとかブロックするが、ボールは甘く浮き、部長がそれをフォアハンドスマッシュで叩き込みポイント。


 部長 5 - 2 尾ヶ崎


 部長のサーブ2本目。


 今度は、回転を重視した横回転サーブをフォアサイドへ。尾ヶ崎選手は、それを巧みなバックハンドのカウンタードライブで、部長のバックサイドを鋭く抜き去る。


 部長 5 - 3 尾ヶ崎


 …尾ヶ崎選手のカウンタードライブの精度が上がっている。部長のサーブのコースが、少し単調になっているか…?いや、それ以上に、尾ヶ崎選手が、部長のパワーボールに慣れ、それを逆用する術を身につけ始めている。


 私の分析は、さらに厳しいものとなる。


 サーブ権は再び尾ヶ崎選手へ。


 彼は、ここからさらにその「変化」のギアを上げる。独特のバックハンドサーブから、強烈な横下回転と、ナックルを巧みに織り交ぜ、部長のレシーブミスを誘う。


 そしてラリーになれば、粘り強いブロックと、予測不能なタイミングでのカウンター、さらにはネット際のいやらしいストップも混ぜてくる。


 部長 5 - 4 尾ヶ崎


 部長 5 - 5 尾ヶ崎


 …まずい。完全に尾ヶ崎選手のペースだ。部長の「パワー」が、彼の「変化」と「戦術」に、再び封じ込められようとしている。だけど、お互い体力が、このシーソーゲームで確実に削られているはず…。


 私の脳裏に、第一ゲーム、第二ゲームの激闘が蘇る。


 あの時のように、部長はここから粘りを見せられるのか。


 しかし、相手はあの時よりもさらに手強い。


 サーブ権は部長へ、スコアは5-5。


 部長は、ここで大きく息を吸い込み、そして、しおりのアドバイス「体力勝負ならあなたが圧倒的有利」という言葉を思い出したかのように、原点回帰のパワフルな卓球を展開する。


 力強いサーブで尾ヶ崎選手を台から下げさせ、甘くなった返球を、フォアハンドドライブで広角に打ち分け、ポイントを奪取。


 部長 6 - 5 尾ヶ崎


 続く部長のサーブ。


 今度は、先ほどのパワーサーブとは対照的に、ネット際に短く、しかし回転量の多い下回転サーブ。


 尾ヶ崎選手は、それをツッツキで返すが、ボールは僅かに浮き上がる。


 そこを、部長は見逃さない!一歩踏み込み、フォアハンドで、強烈なスマッシュを叩き込んだ!


 部長 7 - 5 尾ヶ崎


 …部長、持ち直した。彼の「パワー」と、そしてそれを支える「精神力」。そして、私の分析とアドバイスが、ほんの少しでも彼の力になっているのなら…。


 そんな都合の言い話があるわけないだろう。


 しかし、尾ヶ崎選手の瞳の奥の光は、まだ少しも揺らいでいない。


 この第三ゲーム、まだまだ予断を許さない展開が続きそうだ。


 部長が再びリードを奪い返したものの、尾ヶ崎選手も驚異的な粘りを見せ、互いに一歩も譲らない。


 ポイントは、どちらに転んでもおかしくない状況で、息詰まる攻防が続く。


 部長がパワーで押せば、尾ヶ崎選手は変化でかわし、カウンターを狙う。その応酬が、観客を魅了する。


 そして、スコアが部長 7 - 7 尾ヶ崎 と、詰め寄られた、まさにその時だった。


「タイムアウト!」


 相手ベンチから、尾ヶ崎選手のコーチの鋭い声が、体育館に響き渡った。


 東雲中学校側が、この勝負どころでタイムアウトを要求してきたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ