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異端の白球使い  作者: R.D
県大会 男子準決勝
123/674

意志 vs 意地

  部長 10 - 10 尾ヶ崎


 デュース。


 体育館の興奮は、再び最高潮に達しようとしていた。


 壮絶な戦いが続く。


 サーブ権は尾ヶ崎選手。


 デュースに入り、サーブ権は1本ずつの交代となる。


 彼は静かに、そして深く息を吸い込み、集中力を極限まで高める。


 その瞳の奥に、このゲームを絶対に渡さないという、揺るぎない意志が宿っている。


 放たれたサーブは、これまでのどのサーブよりも鋭く、そして回転も複雑だった。


 部長のフォアサイド、ネット際に短く、そして強烈な横下回転がかかった、まさに横回転の真骨頂とも言える一球。


「うおおっ!」


 部長は、そのサーブに対し、全身のバネを使って飛びつくようにしてレシーブを試みる。


 しかし、ボールの回転と低さが絶妙で、彼のラケットに当たったボールは、惜しくもネットを越えない。


 部長 10 - 11 尾ヶ崎


(…やはり、一筋縄ではいかない。あのサーブの質、そしてこの土壇場での集中力、まさに意地だ。尾ヶ崎選手、底が知れない…)


 私の分析が、再び警鐘を鳴らす。


 しかし、部長の瞳の炎は、まだ消えていない。


 サーブ権は部長へ。


 スコアは10-11、相手のゲームポイント。


 絶体絶命のピンチ。


 しかし、部長の表情には、不思議なほどの落ち着きと、そしてそれを上回る闘志が漲っていた。


「私の玉を思い出して」という言葉が、彼の心の中で、まだ熱く燃え続けているかのようだ。


 部長は、大きく息を吸い込み、そして、渾身の力を込めた、回転とスピードを両立させたロングサーブを、尾ヶ崎選手のバックサイド深くに叩き込んだ!


 尾ヶ崎選手は、それをバックハンドで強引にドライブしてきたが、ボールはネットを大きく越え、オーバーする。


 部長 11 - 11 尾ヶ崎


 再びデュース。体育館のボルテージは、もはや限界を超えている。


 ここからは、まさに魂と魂のぶつかり合い。技術や戦術を超えた、精神力の勝負。


 サーブ権は尾ヶ崎選手。


 彼は、先ほどと同じような、鋭い横下回転サーブを狙ってくる。しかし、部長は、今度はそれを読んでいた。


 体を僅かに早く動かし、そのサーブを、フォアハンドで、台から出るか出ないかの絶妙なタイミングでフリック!


 ボールは、尾ヶ崎選手の予測を外し、ミドルへと鋭く突き刺さる!


 部長 12 - 11 尾ヶ崎


 ついに、部長がゲームポイントを握った!


 観客席のあかねさんが、立ち上がり、祈るように手を組んでいるのが見える。


 彼は、勝利への渇望を全身にみなぎらせ、集中力を高める。


 しかし、尾ヶ崎選手もまた、驚異的な粘りを見せる。


 部長のサーブからの3球目攻撃を、信じられないようなブロックで返し、逆に部長の体勢を崩す。


 長いラリーの末、尾ヶ崎選手がポイントを取り返し、再びデュース!


 部長 12 - 12 尾ヶ崎


 一進一退。まさに死闘。


 ポイントは、どちらに転んでもおかしくない状況で、13-12、13-13 14-13 と、息詰まる攻防が続く。


 互いに持ち味を出し切り、会場の誰もが固唾をのんでその行方を見守っている。


 部長の額からは滝のような汗が流れ、尾ヶ崎選手の表情も、さすがに疲労の色が見え始めていた。


 そして、スコアは部長 15 - 14 尾ヶ崎。部長、4度目のゲームポイント。


 サーブ権は、部長。


 体育館の全ての視線が、部長の右腕に注がれている。


 彼は、大きく息を吸い込み、そして、これまでの全ての思いを込めるかのように、ボールをトスした。


 放たれたのは、彼の代名詞とも言える、唸りを上げるような、強烈なトップスピンサーブ!


 コースは、尾ヶ崎選手のフォアサイド深く、エンドラインぎりぎり!


 尾ヶ崎選手は、そのサーブに必死に食らいつく。


 しかし、ボールの威力と回転は、彼の想像を遥かに超えていた。


 彼のラケットに当たったボールは、大きく弾かれ、天井近くまで舞い上がり、そして、コートの外へと力なく落ちていった。


 ………静寂。


 部長 16 - 14 尾ヶ崎


 セットカウント 部長 2 - 0 尾ヶ崎


「おらあああああああああああ!!!」


 部長は、両手を天に突き上げ、これまでの人生で最大ではないかと思われるほどの、魂の雄叫びを上げた。


 その顔には、汗と、そしてほんの少しの涙が光っているように見えた。


 まさに、壮絶な死闘。


 パワーと変化、そして何よりも精神力がぶつかり合った、第一ゲーム。それを制したのは、最後まで諦めなかった、第五中学校、部長猛だった。


 私は、ベンチで、その光景を静かに見つめていた。彼の王道の強さ。


 そして、私の「異端」な言葉が、ほんの少しでも、彼の力になったのだとしたら…。


 私の「静寂な世界」に、また一つ、温かく、そして力強い「熱」が流れ込んでくるのを感じていた。

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