不合理への抵抗
部長 4 - 8 尾ヶ崎
この第二ゲーム、まだ終わってはいない。
部長のサーブ。
彼は、先ほどの連続ポイントで完全に流れを掴んでいた。
放たれるサーブは、強烈なトップスピンと、鋭いコース取りが融合した、まさに「パワー」と「戦術」の結晶。
尾ヶ崎選手は、そのサーブに対し、必死に食らいつく。
しかし、部長の気迫と、そして何よりも、先ほどの「ありえない軌道のレシーブ」の残像が、彼の精密なコントロールを微妙に狂わせている。
その甘い返球に、部長は三球目攻撃を華麗に決める。
部長 5 - 8 尾ヶ崎
続く部長のサーブ2本目。
今度は、回転を重視した、横回転系のサーブ。
尾ヶ崎選手は、それをなんとかレシーブするが、ボールは甘く浮き上がる。
そこを、部長は見逃さない!フォアハンドで、コートの隅を正確に射抜く、強烈なドライブ!
部長 6 - 8 尾ヶ崎
彼の表情には、明らかに動揺の色が見える。彼が信じていた「変化」と「戦術」が、部長の純粋なまでの「パワー」によって少しずつ、しかし確実に打ち破られようとしていた。
尾ヶ崎選手は、それでも、その独特のモーションから、回転の読みにくいサーブを繰り出す。
だが、部長は、もはやその変化に惑わされない。私の言葉を信じ、自分の「パワー」と「直感」を信じ、強気なレシーブで応戦する!
ここから、再び壮絶なラリー戦が展開される。
尾ヶ崎選手の粘り強いブロックと、いやらしいコース取り。
それに対し、部長は、持ち前のパワーで押し込み、そして、時にはしおりを彷彿とさせるような、意表を突くネット際のストップや、コースを変えるループドライブを織り交ぜていく。
部長 7 - 9 尾ヶ崎
気迫のフォアハンド連打でポイントし、また、サーブを読んで強烈なチキータレシーブの二球目攻撃を決める。
部長 8 - 9 尾ヶ崎
ついに1点差!体育館のボルテージは最高潮に達し、観客席のあかねさんの応援にも、ますます熱がこもる。
私は、ベンチで、ノートにペンを走らせながらも、その目は部長の一挙手一投足から離せない。
…部長、完全にゾーンに入っている。
尾ヶ崎選手の「変化」のパターンを、私の分析以上に、彼自身の「直感」で捉え始めている。そして、その「直感」を、彼の「パワー」が最大限に活かしている。
サーブ権は尾ヶ崎選手。彼の2本目。
ここでポイントを取れば、尾ヶ崎選手がゲームポイントを握る。
しかし、今の部長の勢いは、それを許さない。
尾ヶ崎選手のサーブは短く、そして鋭い横下回転。
部長はそれを、まるで予測していたかのように、一歩踏み込み、バックハンドで、強烈なフリックを叩き込んだ!
ボールは、尾ヶ崎選手の反応も虚しく、コートに突き刺さる!
部長 9 - 9 尾ヶ崎
ついに同点、そして、サーブ権は部長。
形勢は完全に逆転した、尾ヶ崎選手からしてみれば、なんて不合理なのだろう、しかし、卓球というスポーツは、その不合理が起きる競技なのだ。
部長のサーブ、部長は大きく息を吸い込み、そしてこのゲームを決定づけるであろう、渾身のサーブを放った。
それは、力強いトップスピンサーブ。
尾ヶ崎選手は、なんとかそれをレシーブするが、ボールは高く浮き上がる。
部長は、そのチャンスボールを、見逃さない!
コート全体に響き渡るような雄叫びと共に、フォアハンドスマッシュを叩き込み、ついに逆転した。
部長 10 - 9 尾ヶ崎
しかし、尾ヶ崎選手もまた、ここで諦めるような男ではない。
部長のゲームポイントでのサーブ。
彼は、それを、信じられないほどの集中力でレシーブし、逆に部長の体勢を崩す。
そして、続くラリーを、不合理を、冷静にそして的確に制し、ポイントを取り返した。
部長 10 - 10 尾ヶ崎
デュース。
この第二ゲーム、どちらが取るのか、全く予測できない、まさに死闘。
体育館の興奮は、もはや爆発寸前だった。




