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異端の白球使い  作者: R.D
県大会 男子準決勝
119/674

翻弄

 私の脳裏に警鐘が鳴り響く。


 このままでは、第二ゲームを一方的に取られてしまう可能性が高い。


 部長の「パワー」と尾ヶ崎選手の「変化」その戦いは、今、完全に尾ヶ崎選手に傾いていた。


 サーブ権は尾ヶ崎選手、彼の1本目。


 その構えは、先ほどまでと変わらず、ラケットを体の中心近くに隠すようにしている。


 そこから放たれるのは強烈な横回転を帯び、部長のフォアサイド、ネット際に短く、そして台の外側へと鋭く逃げていくYGサーブに近い軌道のボール。


 第一ゲームでも部長を苦しめた、あの厄介なサーブだ。


「くそっ、またか!」


 部長は、そのサーブに対し、懸命にラケットを合わせようとする。


 しかし、ボールの回転とコースが絶妙で、彼のレシーブは、またしても僅かに浮き上がり、ネットを越えたものの、尾ヶ崎選手にとって絶好のチャンスボールとなってしまった。


 尾ヶ崎選手は、そのボールを冷静に見極め、コンパクトなスイングのバックハンドで、部長のバックサイド深くに、コントロールされたドライブを送り込む。


 部長 0 - 5 尾ヶ崎


 続く尾ヶ崎選手のサーブ2本目。


 今度は同じモーションから、回転の種類を微妙に変え、部長のバックハンド側に、今度は少し長めの、しかし横回転が強くかかったボールを送り込んできた。


 部長は、その横回転に対応しようとラケットの角度を調整するが、ボールはラケットの面を滑るようにして、大きくサイドアウト。


 部長 0 - 6 尾ヶ崎


(…尾ヶ崎選手のサーブ、そしてレシーブ。その全てに、巧妙な横回転系の変化が織り交ぜられている。部長は、その回転の変化に完全に翻弄され、自分の得意な強打の体勢に持ち込めていない。そして、焦りから、強引な攻撃を試みては、相手の術中に嵌っている)


 私の分析は、厳しい現実を示していた。


 サーブ権は部長へ。


 しかし、部長の表情には、明らかに焦りと苛立ちの色が浮かんでいる。


 アドバイスも、今の彼には届いていないかのようだ。


 彼が放つサーブは、力みからか、回転もコースも甘くなり、尾ヶ崎選手にとっては格好の的となる。


 尾ヶ崎選手は、部長の甘くなったサーブや、苦し紛れの返球を、決して力任せに打ち抜こうとはしない。


 むしろ、そのボールの力を利用し、さらにいやらしい横回転を加えたり、絶妙なコースへとコントロールしたりして、確実にポイントを重ねていく。


 それは、まるで熟練の狩人が、獲物をじわじわと追い詰めていくかのような、冷徹で、そして計算され尽くした戦い方だった。


 部長のサーブは、力強いが、単調になってしまっている、尾ヶ崎がその隙を逃さず鋭い横回転レシーブで得点を獲得する。


 部長 0 - 7 尾ヶ崎


   尾ヶ崎の粘り強いブロックからの、意表を突くカウンターに反応できず失点してしまった。


 部長 0 - 8 尾ヶ崎


 もはや、一方的な展開と言ってよかった。


 部長の「パワー」は、尾ヶ崎選手の巧みな「変化」と「戦術」の前に、完全にその牙を抜かれてしまっている。


 特に、横回転系のボールに対する対応が、全くできていない。


 体育館のどよめきも、次第にため息へと変わっていく。


 第五中学校のベンチは、重苦しい沈黙に包まれていた。


 私は、ベンチで打開策を考えながら、この絶望的な状況を打開するための方策を、必死で思考し続けていた。


 …このままでは、このゲームは終わる。そして、流れは完全に相手に渡ってしまう。何か、何か部長の意識を、そして相手の予測を、根底から覆すような「一手」が必要だ…!


「…タイムアウト、お願いします」


 私は、タイムアウトを要請した。

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