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異端の白球使い  作者: R.D
県大会 男子準決勝

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115/696

デュース

  部長 10 - 10 尾ヶ崎


 体育館の興奮は、まさに最高潮に達しようとしていた。


 この第一ゲーム、どちらが取るのか全く予測できない、壮絶な戦いが続く。


 サーブ権は部長。デュースに入り、1本ずつの交代となる。


 絶体絶命のピンチから、同点に追いついた部長の瞳には、もはや迷いの色は一切ない。


 あるのは、目の前の強敵を打ち破るという、純粋で強靭な闘志のみ。


 部長は、大きく息を吸い込み、そして、渾身の力を込めた、回転とスピードを両立させたロングサーブを尾ヶ崎選手のバックサイド深くに叩き込んだ!


 尾ヶ崎選手は、それをバックハンドで強引にドライブしてきたが、ボールはネットを大きく越え、オーバーする


 部長 11 - 10 尾ヶ崎


 ついに、部長がセットポイントを握った!


 しかし、サーブ権は尾ヶ崎選手へ。


 彼は静かに、そして深く息を吸い込み、集中力を極限まで高める。その瞳の奥に、このゲームを絶対に渡さないという、揺るぎない意志が宿っている。


 放たれたサーブは、これまでのどのサーブよりも鋭く、そして回転も複雑だった。


 部長のフォアサイド、ネット際に短く、そして強烈な横下回転がかかった、まさに変化球の真骨頂とも言える一球。


「うおおっ!」


 部長はそのサーブに対し、全身のバネを使って飛びつくようにしてレシーブを試みる。


 しかし、ボールの回転と低さが絶妙で、彼のラケットに当たったボールは、惜しくもネットを越えない。


 部長 11 - 11 尾ヶ崎


 再びデュース。体育館のボルテージはもはや限界を超えている。 


 ここからは、まさに魂と魂のぶつかり合い。


 技術や戦術を超えた、精神力の勝負。


 サーブ権は部長へ。


 彼は、先ほどの失点を引きずることなく、すぐに気持ちを切り替える。


 その瞳は、ますますその輝きを増していた。


 部長が放ったのは、彼の得意とする、強烈なトップスピンサーブ。


 しかしコースは、これまでのバックサイドではなく、尾ヶ崎選手のフォアミドルを鋭く突く。


 尾ヶ崎選手は、そのコース変更に一瞬反応が遅れた。


 咄嗟にフォアハンドで合わせようとするが、体勢が不十分で、ボールは甘く浮き上がる。


 部長は、そのチャンスボールを見逃さない!一歩踏み込み、フォアハンドで、体育館の空気を震わせるかのような、強烈なスマッシュを叩き込んだ! 


 部長 12 - 11 尾ヶ崎


 サーブ権は尾ヶ崎選手。


 彼は、静かに構える。


 その表情からは焦りの色は見えない。だが、その握りしめられたラケットからは、尋常ではないプレッシャーが伝わってくる。


 そして、彼が選択したのは同じモーションから、回転をかけずにただ短く、そして低く、部長のフォア前に「置く」ような、完全なナックルサーブだった。先ほど、部長を苦しめたサーブ。


 しかし、部長は、今度はそのサーブの軌道を完璧に読んでいた!


「見えてるぜ!」


 彼は力強く前に踏み込み、そのナックルサーブを、低い体勢から、まるで掬い上げるかのような、絶妙なタッチのフォアハンドフリックで、尾ヶ崎選手のバックサイド、オープンスペースへと流し込んだ!


 尾ヶ崎選手は、その完璧なレシーブに、ラケットを合わせようとするが、その軌道は虚しく空を切る。


 部長 13 - 11 尾ヶ崎


 ………静寂。


 そして、少しした後、割れんばかりの歓声と拍手によって、すぐにかき消された。


 セットカウント 部長 1 - 0 尾ヶ崎


「っしゃあああああああああああ!!!」


 部長は、両手を天に突き上げ、これまでの人生で最大ではないかと思われるほどの、魂の雄叫びを上げた。


 その顔には、汗と、そしてほんの少しの涙が光っているように見えた。 


 まさに絶な死闘、パワーと変化、そして何よりも精神力がぶつかり合った、第一ゲーム。


 それを制したのは、最後まで諦めなかった、第五中学校、部長猛だった。


 私は、ベンチで、その光景を静かに見つめていた。彼の強さ。そして、私の言葉が、ほんの少しでも、彼の力になったのだとしたら…。


 私の「静寂な世界」に、また一つ、温かく、そして力強い「熱」が流れ込んでくるのを感じていた。

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