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異端の白球使い  作者: R.D
県大会準決勝
107/674

異端vs異質(14)

 私の連続エースでスコアは3-1。私が主導権を握ったかに思えた。しかし、彼女の纏う雰囲気は変わらない。むしろ、その静けさの奥に、新たな戦略を練り上げているかのような、底知れない圧力を感じる。

 セットカウントは2-1で私がリードしているとはいえ、この第四ゲームを落とせば、試合の流れは一気に変わる。

 彼女は、先ほどの私の「異端」なサーブにも表情一つ変えず、静かに、そしてどこか湖の底を思わせるプレッシャーを放ちながら、サーブの構えに入る。その瞳は、私の僅かな動き、呼吸のリズムさえも見逃すまいと、鋭く私を捉えている。

 彼女から放たれたサーブは、強い下回転を伴い、私のバックサイド深くに突き刺さる。私がYGサーブで狙ったコースの逆。まるで私の思考を読み、そこを的確に突いてくるかのような、質の高いサーブ。私はドライブで持ち上げようとするが、回転量が多く、ボールはネットを越えない。

 静寂 3 - 2 幽基未来

(…やはり、簡単には流れを渡してくれない。私のサーブで得たアドバンテージが、早くも削られる。)

 続く未来選手のサーブ。今度はフォアサイドへ、短く、しかし鋭く横に切れるサーブ。私は素早く踏み込みフリックで対応するが、回転の変化にラケット角度が合わず、ボールはサイドを切れてアウト。

 静寂 3 - 3 幽基未来

(…追いつかれた。彼女のサーブもまた、単調ではない。私の分析を上回る多様性を見せ始めている。そして、その後のラリーでのカットの安定感は、私の攻撃的なレシーブすらも確実に受け止める。)

 サーブ権は私へ。スコアは3-3。ここが最初の正念場だ。

 私は再び集中力を高め、ハイトスサーブのモーションから、今度は回転を変化させたナックル性のサーブを放つ。未来選手は回転を読み誤ったか、カットが浮き、チャンスボール。私はそれを逃さず、フォアハンドで相手コートに叩き込んだ!

 静寂 4 - 3 幽基未来

 続く私のサーブ。今度は巻き込みサーブのモーションから、YGサーブとは逆回転の、強い横上回転サーブを彼女のミドルへ。未来選手は体勢を崩しながらもカットで拾おうとするが、ボールはラケットのフレームを掠め、大きく弾かれた。

 エース!

 静寂 5 - 3 幽基未来

(…よし、再びリード。私のサーブはまだ通用する。だが、油断はできない。)

 サーブ権は再び未来選手へ。スコアは5-3、私がリード。

 しかし、ここから未来選手の「カット戦」が真価を発揮し始める。彼女のサーブからの展開は、決して派手ではない。だが、確実に私のミスを誘う。彼女のカットは、まるで生きているかのように、回転量とコースを微妙に変化させながら、私のコートに返ってくる。私が強打を狙えば狙うほど、彼女の守備範囲は広がり、そして返球はより厳しくなる。長いラリーの末、私のドライブがネットにかかる。

 静寂 5 - 4 幽基未来

(…これが彼女の得意とする「カット戦」。粘り強く拾い、相手の集中力を削り、そして反撃の隙を待つ。私の「異端」な攻撃も、この粘りの前には、時に無力化される。)

 未来選手の次のサーブ。私はレシーブから積極的に攻めるが、彼女はそれを予測していたかのように、バックハンドのカットで深く、そして低く返球。私が打ちあぐねたボールを、未来選手は冷静にフォアハンドで私のオープンスペースへ。ポイントは未来選手。

 …いや、待て。今のレシーブ、私の得意な逆横回転フリックだったはずが、未来選手は完璧なタイミングで読んでいた。まるで、私の思考の癖までも見抜いているような……。

 だが、私は攻め手を変え、今度は厳しいコースへスマッシュを叩き込む!未来選手は驚異的な反応でそれをカット。しかし、ボールはわずかに浅くなった。私はそのチャンスボールを、今度は逆サイドへ鋭く打ち抜いた!

 静寂 6 - 4 幽基未来

 サーブ権は私。スコアは6-4。

(彼女のカットは確かに厄介だ。だが、私のサーブで主導権を握れば…!)

 私は再び得意のハイトスサーブ。強烈な下回転をかけ、ネット際に落とす。未来選手は懸命に拾おうとするが、ボールはネットを越えず、コートに落ちた。

 エース!

 静寂 7 - 4 幽基未来

 しかし、未来選手は少しも動じない。次の私のサーブからのラリーでは、彼女はさらに守備範囲を広げ、どんな強打も拾い続けた。体育館に、カン、カン、というボールをカットする乾いた音が響き渡る。その粘りに、私の方が先に根負けし、フォアハンドがオーバー。

 静寂 7 - 5 幽基未来

(…まただ。この執拗なまでのカット。私の体力が、そして集中力が、少しずつ削られていくのを感じる。)

 サーブ権は未来選手へ。スコアは7-5。

 未来選手は、静かに、しかし確実にポイントを重ねてくる。彼女のサーブは、決してエースを狙うものではない。しかし、私のレシーブを甘くさせ、そこからのカットの展開で、じわじわと私を追い詰める。ラリーが長引けば長引くほど、彼女の領域へと引き込まれていく。ついに、私のフォアハンドがネットにかかり、ポイントは未来へ。

 静寂 7 - 6 幽基未来

(…一点差。彼女のプレッシャーが、すぐ背後に迫っている。この「カット戦」の迷宮から、どう抜け出す…?)

 続く未来選手のサーブ。私は、これまでの展開を読み、あえて強打ではなく、彼女のフォア前に緩いボールを送る。意表を突かれたか、未来選手のカットが少し山なりになった。私はすかさず回り込み、フォアハンドで強烈なドライブを叩き込む!ボールは彼女のラケットを弾き飛ばし、コートに突き刺さった!

 静寂 8 - 6 幽基未来

(…思考の逆を突く。単純な手だが、今の彼女には効いたはずだ。)

 サーブ権は私。スコアは8-6。

(あと3点。このゲーム、絶対に取る!)

 私は渾身の力を込めて、巻き込みサーブを放つ。ボールは鋭く曲がりながら未来選手のバックサイドを襲う。エース!

 静寂 9 - 6 幽基未来

 あと2点。だが、未来選手の目は死んでいない。次の私のサーブからのラリー、私は勝利を焦ったか、強引な攻めが目立ち始める。未来選手はその隙を見逃さず、的確なカットで私のミスを誘う。私のスマッシュが、無情にもネットにかかった。

 静寂 9 - 7 幽基未来

(…9-7。ゲームポイントまで、あと2つ。しかし、未来選手のあの瞳…。まだ何かを隠している。私の「異端」も、彼女の「異質さ」の前では、常に試され続けている。この第四ゲーム、予断は許さない…!)

 体育館の緊張感が、最高潮に達しようとしていた。


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