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異端の白球使い  作者: R.D
県大会編 準決勝
100/674

異端vs異質(8)

(…幽基未来。彼女は、第二ゲームの敗因を分析し、私が奇策で彼女の思考を揺さぶってきたと結論付けただろう。そして、彼女が最も信頼し、最も得意とするであろう、純粋なカットマンとしての戦い方に回帰してくる可能性が高い。私の作戦メモの情報も、一度リセットし、目の前の私のプレイそのものに集中してくるはずだ。ならば、こちらも、その彼女の「原点回帰」の、さらに裏をかく。)

 私のサーブ。

 私は、あえて、第二ゲームで見せた「裏ソフトのみでの構え」ではなく、普段通りの、アンチラバーと裏ソフトを頻繁に持ち替えることを予感させる、ニュートラルな構えを取った。

 そして、放ったのは――高坂選手との試合で見せた、あの「カットのモーションからのドライブ」を彷彿とさせるような、大きなテイクバックから繰り出される、しかし実際には回転量の少ないナックルロングサーブ。コースは、未来選手のフォアサイド深く。

 それは、彼女の思考を再び揺さぶるための、計算された「ノイズ」。そして、彼女が「カットマンとしての戦い方」に集中しようとする、その出鼻を挫く一打。

 未来選手は、そのサーブに対し、表情一つ変えず、しかしその瞳の奥には、私のあらゆる変化に対応しようという、研ぎ澄まされた集中力と、ほんのわずかな警戒の色が浮かんでいた。

 彼女は、無理に攻撃的なレシーブは選択しない。体をしなやかに使い、フォアハンドで、極めて質の高い、そして回転量の読みにくい、深い下回転カットを、私のバックサイドへと返球してきた。それは、第二ゲームでは鳴りを潜めていた、彼女本来の「変幻自在のカット」の片鱗。そのボールは、私の予測よりも僅かに低く、そして鋭い。

(…やはり、来た。カット主戦。そして、この回転量と深さ。第二ゲームの動揺からは、完全に立ち直っている。そして、私のあの奇襲サーブに対しても、完璧な対応。)

 私は、その深いカットに対し、ラケットをスーパーアンチの面に持ち替え、ボールの威力を吸収するように、しかしコースを厳しく突き、未来選手のフォア前に、ふわりと短いナックル性のボールを落とす。私の得意とする「デッドストップ」。

 しかし、未来選手は、そのボールの変化にも全く動じない。彼女の足は、まるで床を滑るかのように静かに、そして正確にボールの落下点へと移動し、そのナックルボールを、今度は信じられないほど低い弾道で、ネットすれすれを通過する、超高速のプッシュで、私のフォアサイド、サイドラインぎりぎりへと打ち込んできた!

 それは、第一ゲームでも私を苦しめた、彼女の「異質」な攻撃的プッシュ。

「なっ…!?」

 私は、その予測不能なタイミングと、あまりの速さに、反応が一瞬遅れた。咄嗟に裏ソフトの面でラケットを出すが、ボールは既に私の脇を抜け、コートの外へと消えていた。

 静寂 0 - 1 幽基

(…やはり、彼女のカットマンとしての地力は本物。そして、私の「異端」な変化球に対する対応力も、このインターバルでさらに向上している。作戦メモの情報に頼らずとも、彼女自身の分析と技術で、私を攻略しようという意志が見える。)

 私のサーブ2本目。

 私は、再び同じような、しかし今度は僅かに回転の種類を変えたナックル性のロングサーブを、未来選手のバックミドルへと送り込む。

 未来選手は、今度も冷静に、そして的確に、深い下回転カットで返球してきた。そのボールは、まるで意思を持っているかのように、私のバックサイドの最も打ちにくいコースへと、低い弾道で沈んでいく。

 ここから、息詰まるようなカットラリーが始まった。

 未来選手は、徹底して私の強打を誘い、そしてそれを彼女の「変幻自在のカット」で拾い上げ、私のミスを待つという、カットマンの王道とも言える戦術を展開してくる。彼女のカットは、単に下回転が強いだけでなく、時には僅かな横回転が混じり、時にはボールが不規則に揺れ、そして時には、まるで台の上で一度止まるかのような、極端に短いカットも織り交ぜてくる。それが、彼女の「生きているようなボール」の正体なのか。

 私は、その変化に必死に食らいつく。ラケットを巧みに持ち替え、アンチラバーで回転を殺し、裏ソフトでコースを突く。しかし、未来選手の守備範囲は驚くほど広く、そしてその返球は常に厳しい。

 私の体力は、この神経をすり減らすようなカットラリーの中で、確実に削られていくのが分かった。額からは、再び玉のような汗が噴き出し、呼吸も徐々に荒くなっていく。

(…まずい。完全に彼女のペースだ。このままでは、私の体力が先に限界を迎える。どこかで、この流れを断ち切らなければ…!)

 数本続いたラリーの後、未来選手のカットが、ほんのわずかに、私のフォアサイドに浅く入った。それは、常人なら見逃してしまうほどの、微細な変化。

 しかし、私のはその瞬間を見逃さない。

(…来た!)

 私は、その浅いカットに対し、全ての力を右腕に込め、そして、コート全体に響き渡るかのような、雷鳴にも似た打球音と共に、渾身のフォアハンドスマッシュを、未来選手のフォアサイド、オープンスペースへと叩き込んだ!

 ボールは、相手コートに突き刺さり、そして誰にも触れられることなく、体育館の壁へと消えていった。

本日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!早いもので、この作品も100話目に入りました。


そして、とっても嬉しいご報告です…!

なんと、この物語に初めてのブックマークをいただきました!

最初に応援のしるしを送ってくださった読者様、心から感謝申し上げます。飛び上がるほど嬉しいです!


この最初の一歩が、作者にとって、本当に大きな、大きな励みになります。

もし、他にもこの物語を「面白いかも」「続きが気になるな」と感じてくださっている方がいらっしゃいましたら、

ぜひブックマークや、ページ下の【☆☆☆☆☆】での評価で応援していただけると、すごく嬉しいです。


これからも『異端の白球使い』を頑張って紡いでいきますので、

どうぞよろしくお願いいたします!

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