異端者 (10)
第2セットも終盤に差し掛かり、スコアは10-10のジュースとなった。セットポイントをどちらが取るか。緊迫したラリーが続く。
相手選手の強打に対し、私はスーパーアンチで必死にブロックする。返球されたボールは、ネット際ギリギリに落ちた。相手選手は、慌てて台に近づき、チキータで攻撃してきた。鋭い回転とスピードを持つ打球。
私は、そのチキータに対し、素早くラケットを持ち替え、裏ソフトで、相手のバックサイド深くへカウンタードライブを放った。ギュン!という打球音。相手選手は、反応が遅れ、返球がアウトになった。
セットポイント。私のポイントだ。会場から、大きなため息と、拍手が起こった。
そして、第2セット、最後のポイント。私のサーブ。短い下回転サーブからの展開。相手選手は、慎重にレシーブ。ラリーが続く。お互いに、一球も気を抜けない。相手選手の強打。私のスーパーアンチでのブロック。相手の繋ぎ。私の裏ソフトでのドライブ。
相手選手が、体勢を崩した瞬間、私は迷わず、持ち替えからの裏ソフトで、意表を突くストレートへ、これまでで一番強いドライブを打ち込んだ。ギュン!という打球音。相手選手は、反応できなかった。
第2セットも、私のポイント。セットカウントは2-0となった。
第3セット。相手選手は、後がなくなった。彼女は、これまで以上に積極的に攻撃を仕掛けてくる。強力なフォアハンドドライブを連打してきた。私のスーパーアンチのブロックに対し、回転を読みにくいナックルや、鋭い角度の打球を織り交ぜてくる。
…彼女は、全ての力を使ってきている。ならば、こちらも全ての力で応える。
体躯の不利が、攻撃的な相手に対してより顕著になる。相手の強打に追いつくのが難しい。
しかし、私はフットワークを最大限に活かし、体勢を低く保つ。スーパーアンチで相手の強打をいなし、チャンスがあれば、裏ソフトで攻撃に転じる。
ラリーが続く。一球一球が、重い。体力的な消耗も感じ始める。しかし、勝利への意志が、私を突き動かす。
試合終盤、スコアは10-8。マッチポイント。私のサーブだ。短い下回転サーブからの展開。相手選手は、必死に食らいついてくる。ラリーが続く。
お互いに、一球も気を抜けない。相手選手の強打。私のスーパーアンチでのブロック。相手の繋ぎ。私の裏ソフトでのドライブ。
相手選手が、体勢を崩した瞬間、私は迷わず、持ち替えからの裏ソフトで、意表を突くストレートへ、これまでで一番強いドライブを打ち込んだ。ギュン!という打球音。相手選手は、反応できなかった。
そして、白球がコートに突き刺さる。
試合終了。
市町村大会女子シングルス決勝戦。私の勝利。セットカウント3-0。
私は、感情を表に出さずに、相手選手に歩み寄った。「…ありがとうございました。」全力を出し切った相手に対する、敬意を込めた言葉だった。
相手選手は、呆然とした様子で台を見つめている。そして、ゆっくりとラケットを下ろした。彼女の顔には、敗北の悔しさよりも、目の前で起こったことが理解できない、そして私の卓球に対する、圧倒されたような表情が浮かんでいた。
会場から、大きな拍手と、どよめきが起こった。顧問の先生や部員たちが、私の元へ駆け寄ってくる。
顧問は、興奮した様子で私の手を握り、「優勝だ! おめでとう、静寂! 本当にすごい!」と声をかけてくれた。部員たちも、私を称賛する言葉を口々にしている。彼らの顔には、喜びと、私の実力に対する、明確な驚きと尊敬の念が浮かんでいた。
周囲の他の学校の選手や観客からも、大きな拍手が送られる。その中には、私の卓球を初めて見たのであろう、驚きと困惑の表情を浮かべた者も多くいた。「あのスタイルで…」「中学一年生なのに…」「異端だ…」といった声が聞こえる。私は、その全ての視線とざわめきを、冷静に受け止めた。
…証明した。市町村大会優勝という結果で、私の異質さが、この舞台で頂点に立てることを。そして、勝利という形で、私の価値を。
市町村大会優勝。それは、私の卓球人生における、最初の大きな、そして重要な一歩となった。しかし、これは通過点に過ぎない。全国優勝という頂点への道のりは、まだ始まったばかりだ。
表彰式を終え、優勝トロフィーを手に、私は顧問や部員たちと一緒に会場を出た。夕暮れの色に染まり始めた空の下、私の心は静かだった。
市町村大会という小さな舞台での勝利。しかし、それは、私の存在を、「異端の白球使い」として、この地域の卓球界に確かに刻み込んだ出来事だった。
…次の舞台は、都道府県大会。よりレベルの高い戦いが待っているだろう。さらに強くないと。
静かな闘志が、内側で再び燃え上がる。私の物語は、市町村大会優勝を経て、さらに加速していく。異端の白球使いとして、私がこの世界で自身の価値を証明していく物語が。そして、その輝きが、いつか悪夢へと繋がる物語が。
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