好奇心はネコを増やす
夏のホラー2024投稿用。
どこにホラーを感じるかは、読者様次第です。
ここは国の首都にある大きな駅。
その駅の端も端。
普通の駅利用者なら誰も目に留めない、使わないであろうトイレがあった。
そのトイレは男女の区別がなく、いわゆる障害者向けトイレと言われる種類のトイレ1つだけがポツンと存在している。
だがそこにあっても当の利用者となる層すら、そこへ寄る機会は皆無であるような、そんな謎のトイレである。
ネットでもその駅の清掃係が「そのトイレは何もしなくて良い。 掃除しに入る必要は無い」と指示されたと真偽不明な書き込みが見られる位に謎の存在であった。
「でもダークウェブで真相っぽい話を見てしまったから、調べない理由には行かないよなぁ」
呟いた男が見たのは、そのトイレについて。
サイトには、こうあった。
◯◯駅構内の端に1つだけある障害者向けトイレには、午後10時過ぎから多数の男が集まる。
ここはいわゆるハッテン場ではないので安心してほしい。
集まっている男に「未来の世界にお呼ばれしました」と言う合言葉をかけると、今までの嫌いだった自分から変われる。
ここは願いを叶える場所である。
あまりにも信用できない、あまりにも怪しい文言であった。
が、この男は「嫌いだった自分から変われる」のワードに強く惹かれてしまった。
そしてページのリロードをしたら、そのページ自体が閲覧不可能になっていた。
こんな怪奇現象に出会ってしまい、事実かを確かめるのも兼ねて、現場へ踏み込もうとしている。
「未来の世界にお呼ばれしました」
トイレ内部の入口に近い所に立っていた男へそう告げると、ニッコリ笑顔をされた。
「ようこそ、未来の世界へ」
しかもこんな返事を、紙と同時に返された。
その紙を見てみると、同意書とあった。
【この場所で起きた事の責任は同意署名者にあります。 そしてこの場所で起きた事を外部にいかなる手段であっても秘密にする守秘義務が発生しますが、署名者はそれに承諾し同意します。】
あまりにも怪しい。
怪しいが、あのダークウェブはホンモノだったらしい。
本物であると確認できたならば、あとはもう1つも事実なのかを知りたくなる。
「あの……嫌いな自分から変われるってのは、本当でしょうか?」
この質問に対して入口近くの男は、無言の営業スマイルで返答した。
なにも返答は無いが、まあそれは当たり前だろう。
なにせ守秘義務を課す同意書を求めてくる位のモノなのだ。 それなのに未承諾で「YES」と答えられる方が、むしろ怪しい。
なのでもう、この変われると言うのも真なのだろう。
真と判断するより他に無いと決めつけた。
なので、署名をする所に……。
署名…………。
「あの、ペンはありますか?」
署名も済み、トイレの奥へ向かうと次の男が待っていた。
「ここのトイレは魔改造済みで、内部は完全防音であり、長時間このトイレに入っていたら事務室へ連絡が行くシステムと連動した監視カメラも無効化しております」
待っていた男はそんな、知っている人の方が少ないだろう障害者向けトイレの知識を披露しながら、水が入っているメーカー物の小さいペットボトルと錠剤をいくつか渡してくる。
明らかに、この錠剤を飲めと言外に言っているのだろう。
そしてもしかしたら、その披露した知識は利用者がICレコーダー等の録音装置を起動させていた時に対する、カモフラージュの為かも知れない。
「………………」
水と錠剤を受け取った彼が、男の前で錠剤を飲んでみせると、男が満足そうにひとつ頷いてから洋式トイレへ座るよう誘導する。
するとトイレの便座に腰掛けた彼は程なく意識を失い、やがて意識を取り戻した彼女だが、障害者向けトイレから出る頃にはすっかり身も心も服装も戸籍も女性のモノに変わっていた。
変わった姿を報告しに実家へ帰ると両親に驚かれ、トイレを出る時に渡された書類を全て見せたら両親が慌てて外へ飛び出し、しばらくしたら肩を落として帰ってきて元男の顔を見て溜め息を吐かれ、最後には変化を受け入れてくれた。
らしい。
〜〜〜〜〜〜
以下、真相。 真相に興味が無い方やここまでで十分と思われておられる方はここで戻ってくださいませ。
真相。
国家主導の、手術ではない完全に別の性別へ安全に変化する試薬の投薬試験。
堂々と試験するには影響力含めてちょっとアレな薬品なので、こうしてひっそりと試験している。
投薬量はトイレの入口に隠されている体重計やセンサーにより精確な体重を計測し、適切な量を算出している。 が、技術的にどうしても完璧には出来ないので多少のムラはある。
この試験の結果、投薬量のミスにより第3の性別とか言うふた◯りが日本で突然発生して話題になり、社会が少しだけ変わったとかなんとか。
被験者には万全なアフターケア体制で臨んでおり、性別が変わった者への教育やアドバイスやカウンセリング、給付する衣装や試験参加による謝礼金もバッチリ。
それにもし、教育やカウンセリング等では効果が無い被験者用に年齢制限的な意識クーデターの用意も……あるのかは読者様がたの妄想にお任せします。
両親へ渡した書類の中には、守秘義務の書類や何かあったら各地の市役所の専門部署へ相談に来るよう指示する書類も、あったとか無かったとか。
それで両親は市役所の専門部署に口止め料をもらって、変化を認める事となったらしい。
これが真相と言いたいが、実はこれは一側面。
これはあくまでも作者の用意した真相であり、これに納得がいかないならば、読者様がこれが真相だと妄想すれば、ソレもまたひとつの正解でしょう。