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4.入寮ミサ

 エマは、説明が終わったらすぐに教室を出られるように、配られた書類や荷物をスクールバッグに入れた。それは今朝開けたばかりなので、まだ少し硬く、汚れ一つない純白だ。エマは、身に着けるもの全てが白いことにうんざりしていた。しかし、気品や、清楚であることを重んじるこの学院において、汚れが目立つ白を身に着けさせるのは理にかなっている。おかげさまで、汚さずに使わなければならないからね、とエマは声に出さずに呟いた。

 数分経つと、教室から寄宿生以外がいなくなった。すると当然、教室に残っているのは寄宿生だということになるのだが……。


「二人とも寄宿生だったんだ! よろしくね」


 絶望。エマの脳内を支配する感情は、まさに絶望だった。そう言っても全く過言ではなかった。伊東に解散と言われても、絢とゆりは帰る素振りを見せなかったので、もしや、とは思っていたのだが。ただ、この絶望の中にもまだ希望がある。カラニットの寄宿寮は七棟。そして、一年A組にはまだ四人、寄宿生がいるようだ。C組までの全三クラスに、あとどれだけの寄宿生がいるわかからないが、まさか二人両方と寮が一緒になるなんてことはないだろう。それには、エマの心からの願望が含まれていた。この二人と三年間の共同生活なんてできるわけがない。

 ゆりは絢を無視していたが、エマは口先だけの「よろしく」を返した。


「では寄宿生の皆さん。この後、十四時からチャペルで行われる入寮ミサに参加していただきます。説明が終わったら、各自昼食を取っていただく自由時間なりますが、必ず十分前にはチャペルにいてください。入学式と同じように、理事長も参加される伝統的な行事ですので、必ずねー」


 隣で絢が元気よく返事をした。エマは入寮ミサをさぼるか、きちんと参加するかで迷っていた。


「えー次に、皆さんも既にご存じだとは思いますが、決まりなので<姉妹(シスター)>の説明をさせていただきます。本校の寄宿寮には<姉妹(シスター)>と言う制度があります」


 <姉妹(シスター)>とは、入寮したての一年生を<妹>として、それぞれに一人の<姉>が付き、寮での最初の一年間の生活をサポートするという制度である。<姉>は二年生が務め、素行の面での教育係も兼ねているらしい。<姉妹>は学校側が決め、滅多なことがない限り、<姉妹>である一年間は同室で過ごさなければならない。しかし、三年生になれば個室が待っているようだ。

 伊東が<姉妹>の説明をしている間、絢がずっとうずうずしているのが感じられた。どんな人が自分の<姉妹>になるのか、楽しみで仕方がないようだ。エマからは見えないが、ゆりはきっとまた髪か爪でもいじってるのだろう。かくいうエマも、伊東の話はあまり聞いていない。窓の外から聞こえてくる生徒やその親の会話に気を取られていた。


「皆さんが入ることになる寮と、皆さんの<姉妹>の発表も入寮ミサで行われます。お楽しみに」


 自分の寮くらいはここで発表されると思ったが、どうやら違うらしい。エマは入寮ミサをさぼることができなくなった。


「はい、では説明は以上です。何か不明な点はありますか。無ければミサまでの間は自由時間となります」


「はい! チャペルってどこですか!」


「食堂の隣です。今皆さんがいる教室棟を裏から出ればわかります。校内マップに書いてあるので、それを見てください」


 絢の質問に伊東が淡々と答え、再び絢が元気に返事をする。

 他に質問は出てこなかったので、寄宿生の説明会は終了となった。それと同時に、エマはまとめておいたバッグを持って急いで教室を出た。絢が「おべんと……」と言いかけているのが聞こえた気がしたが、気のせいだと思うことにした。一年生は、四階建ての教室棟の四階。そこから中央の階段を使って一階に降りた。丁度、わかりやすいところに校内マップがあったので食堂の位置を確認する。一階には、職員室や応接室、そして保健室などがあるようだ。

 教室棟を裏の扉から出ると、春の陽気を全身で感じた。ゆるい風が吹き、散った桜が舞う。空を見ると、エマの心模様とは裏腹に、気持ちが良いほどの晴天だった。

 右の方に緩やかな階段があり、それを辿ると丘の上に食堂らしき建物が見える。朝から何も食べていないので、エマはやや急いでそこに向かった。階段には屋根がついていて、雨の日でも傘を持たずに移動することができるみたいだ。

 エマは食堂に入った。先に席を確保する必要はなさそうだ。すぐ近くにメニュー表があった。サラダやヘルシーな料理が多い、女子校らしいメニューだ。そこで一分ほど悩んだ末に、「ほうれん草の豆乳クリームパスタ」に決め、注文する。

 端の方の空いている席で、パスタに舌鼓を打っていると、席を探している二人組が近づいてきた。一人は、ブロンドの髪で明らかに日本人ではない顔立ちだ。もう一人は長い前髪とマスクでほとんど顔が見えない。ちぐはぐな二人組だな、とパスタに視線を落とした時だった。


「ソレ! 制服戦士のkey chain!」

・吸血鬼 vampire

遥か昔から存在している、人間に最も近い生物。処女の生き血を吸い続ければ半永久的に生きながらえることができる。害獣の扱いをされてきたが、近年は吸血鬼を保護し、共存を目指すべきだと訴える人間も多く出てきている。


・ヴァンパイアハンター

吸血鬼を駆除する者たちのこと。肌や髪、目の色などが極めて白に近い。


・<姉妹(シスター)

カラニット女学院高等学校寄宿寮に存在する制度。一年生の<妹>に二年生の<姉>が付き、マンツーマンで寮生活を一年間サポートする。


・各務エマ Kakumu Ema

本作の主人公。カラニット女学院高等学校一年A組。宗教を毛嫌いしている。

祖母と母もカラニット出身である。


・来栖景 Kurusu Kei

カラニット女学院高等学校二年生。白く長い髪に灰色の瞳を持つが、顔立ちは日本人。

ヴァンパイアハンター。


・和泉絢 Izumi Aya

エマのクラスメイト。友好的で天真爛漫。吸血鬼迫害を疑問視している。


・今見ゆり Imami Yuri

エマのクラスメイト。入学早々、校則で禁じられているカラコンやメイク、染髪をしてくる不良少女。


・伊東蘭花 Itou Ranka

一年A組の担任教師の女性。担当科目は地理歴史。


・箱田メアリ Hakoda Mary

カラニット女学院理事長。若々しく美しい黒髪の女性。

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