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トイロ。  作者: みつ
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5

これまで絵本創作において、収入があることは皆無だった。

僕の創作作品は全く商品化されていないのだから当たり前である。

アパートで一人暮らし。普通に日頃は労働に従事していることで僕は賃金を得て生活できていた。


最後に映画館に映画を観に行ったのは、

一年前くらいだった。

最近、本当に映画館まで行って、鑑賞料を払い、

観てみよう!と思う映画が、まず無くて、

一年前に観た映画も最初から最後まで映画館で鑑賞したが、さほど良い映画だと思わなかった。

その映画の感想を強調したいのではない。


普段、仕事をしていて、それにおいて、

生活できており、たまの休みに

(気になっていた映画…観に行くか!)と僕は、お洒落をしてバスと電車を乗り継ぎ、映画館に行き、

観たかった映画を観る…。

その後、

(今月の給料も入ったし、好きなラーメン、大盛りで食べるか♪)と行きつけのラーメン屋に。

そして、その通り、ラーメンを御店にて食べる…。


もう、それ自体が幸福なのだ。

幸せなんだ。

僕は何とか、そう思える己でいるような、

ある種の『境地』までは歳月を経て、

辿り着いていた…。



『白い馬』が書店にて発売される前日になった。


()は完全に落ちていて、

アパートで一人、寛いでいた。

一人暮らしの特権というか(僕は、そう思うが)、

まず一人で部屋にいて、

どう過ごそうとも誰にも(とが)められることはない。

だが当然だけど己で洗濯しないと汚れたままの服は溜まっていき、己で御飯をこしらえないと空腹のままであり、ゴミを指定日に外に出さないと部屋に、そのままゴミがストックされていく一方である。

そういったことのないような一人暮らしを僕は何とか出来ていた。

 今、こたつに入り座って目の前のテレビは番組を放映しているが僕は、それを特に見ておらず、ぼんやりしていた…。だが、ただ、ぼんやりしていたわけではい。

考え事をしていた…。


僕は英語が学生の時から好きな科目で、

お気に入りのフレーズに『Easy come,Easy go!』がある。僕はホント最近まで、それを、

『気楽に来なよ、みんな楽しく、やろうぜ!』という意味だと思っていた…。

ある時テレビを見て知った僕には衝撃の事実だったが、

正しい訳は『簡単に手に入るものは、簡単に出ていく』であった。日本語の類似の諺では、

『悪銭、身に付かず』がニュアンス的には近いと僕はテレビで聞く…。

 

 もう(こだわ)っていては、いけない!

そんな時期(とき)ではない!と僕は思った。

()も、文も双方を己で創った絵本でないと、

納得がいかない!!…等と出版社に言ったりするのは、

もう、決して、そんな時期(とき)ではない!と僕は思った…。

出版社が制作を推してくれ明日、御店に置かれる【トッキー】さんが絵、僕の文の『白い馬』は、

大人の僕が見て読んで、やはり作品としてハイクオリティーであり多くの人にウケる出来映えであった…。

(『売る』というのは、こういうことなんだなぁ…。)


部屋に一人の僕は、一つ大きなタメ息をついた。


すると、その時マイスマホが鳴る。

母からの電話だった。


僕はテレビを消して、

電話に出た。

僕が先に話す。

「読んでくれた!?」

実家に、出版社がくれた製本と、

僕の創作した原本を一冊ずつ郵送していた。

これが、

こう、

世に出る!を両親に一目瞭然させるためであった。


「トシ、本当に、おめでとう♪」

母の言葉に僕は返す。

「明日のことなんて分かんない生活は続くけどピース、ピース!

あ、でも本当に僕、地に足つけて生活したいとは思ってるからさ!!」


自然に僕の口から出た言葉だった。


電話での、母の応答がない…。


「あの、母さん、聞いてる?」


「…あのね、母さん、『白い馬』、ちゃんと読んだんだけど、あなたが絵も描いた方のが断然、良かったかな♪

お父さんも同じだって…。」


「…そう、まぁ、父さんと母さんが、そう言うなら、そうかなぁ……


あ、お客さんだわ!


また、電話するよ!」


僕は、そう言って電話を切った。

お客さんなんて来てはいない。


一人、僕はアパートの一室で声をあげて泣いた…

いつまでも、泣き続けていた…。




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