3
『エピソード』といえば、
誰もが1つは持っていると思う……これは、僕が非正規の仕事において週に三回、決まった御得意様の倉庫にトラックで荷物を運び、納入するという仕事をしていた時の話である…。
定期的に僕は、それをしていて、そこの社長が、ある時から納入完了後に事務所で御茶を出してくれ、小話するのが常と自然になっていった。
事務所の応接間で、ソファーに座り対面になった社長さんが僕に言う。
「君、子供は、いるのかね?」
僕は、笑いながら、
「子供どころか、結婚もしていないし、今のところ、その結婚相手もいません。」と返した。
その後に、
社長が僕に熱弁したことが印象的である。
社長には、男女二人のお子さんがいたが、
『男の子は、優しい。』ということだった…。
社長は己の子供たちと、それまで歩んできた人生において、それを僕に気さくに話してくださった。
そのとき、僕は、ひたすら聞き手に徹していた。
僕は、その話をしっかり聞いて、いつしか、
トラックで帰社する。
家に帰り、僕は一人、部屋で考える…。
(社長が言いたかったことは分からないでもない…実際、僕の周りでも優しい男の子はいたし、成人してからも大人の優しい男性も見てきた……女性においてはサバサバしているな、何かと割りきって生きているな…という女性を僕自身、見てきたので社長の言うことに、ある程度の納得はいくのだ……だけど、僕は男の子で、それはもう悪ガキも見てきたし、僕は大人になってから、大人の男性に、それは酷な仕打ちをされてきたこともあった……女性についての僕なりの見解は、女の子でも成人女性でも優しいヒト、思いやりのあるヒトは、間違いなくいる…。)
僕は僕なりに人生経験があり、
それが全てとは決して思わないが、
誰かの話を聞くとき、
一度、己の中で吟味するというか、
鵜呑みにはしないよう心掛けていた。
決して、僕が人の話、言うことをきかないというわけではない…。
なんとなく世の中が見えてきた時に、
僕の絵本作家になりたい、情熱は
日増しに強くなっていた。
普段は肉体労働をしており、
それらの仕事が終え、帰宅したら
作家活動をしていた。
もちろん、休日には、
より一層、作家活動に励む。
そんな、生活の中で、
僕は、僕なりの見解で、
夢を実現しようとするヒントを得る…。
僕は昔から洋楽が好きで、オールジャンルを聴いていたが、
あるとき、『ice』という洋楽ロックバンドの虜になった…。
洋楽アルバムは、日本版という形で、リリースされることが多々あるが、
『ice』も、そのようだった。
つまり、
商業的に、日本で売れると見込まれ、
そのようにリリースされるわけである。
口説くなるが、日本版でリリースされるということは
『ice』が、それなりに日本で支持されているという現れであった…。
その日本の支持者の一人が僕だった。
日本版のアルバムは全て購入して、
対訳ノーツを見ながら、僕は、
ひたすら彼らの音楽を聴きまくった。
イイよ、これ!イイ!!熱いぜ!!!と…。
そのノーツに、
『ice』のインタビュー記事が載っていた。
僕は隅々まで読む。
そこで、
彼らは、こんな発言をしていた。
インタビュー者に、
『最近の音楽は、どんなを聴く?』と、問われ、
『ice』の楽曲者は、
『聞かない。今、流行っている音楽は一切、聴かない。俺達は、俺達の内から出る、俺達がカッコいいと思うことをただプレイしている。』というようなことだった。
僕の中で、『流行りは追わない』というスタイルが、それとなく芽生えた。
それは、絵本に限ってだったが…。
様々なエンターテイメントには触れる…
でも、
書店に行って絵本コーナーを、
片っ端から見て、読むのだけ、
僕は、やらなくなった。
『ice』のノーツを僕はあくまで、僕の解釈として己で取り入れた行動であった…。
それが正解か、不正解かは、
まさに知る良しもないまま、
僕は、
己の絵本創作に無我夢中になった。
それが事実である…。
時間というのは、
皆に平等に流れる。
僕も歳を重ねていった…。
その過程で、
全く、絵本のアイデアが出なくなったのである。
もう、いい歳になっていた…。
僕が応募する絵本コンテストで、
僕は何の賞も取れずにいた。
その日、
今まで、己が製作した絵本原画を整理していた。
50冊ほど、あった…。
もう、僕は絵本は製作できなくなっていた。
僕は、空っぽに、なったのである…。
今まで作ってきた絵本をゆっくり、ゆっくり僕はアパートの一室で一人、読んでいた。
そして、
(禁を破る…、といえばオーバーだが、今時の絵本を書店に見に行くか…!何も今まで悪さをしていたわけではないが…。)と僕は自嘲気味に笑い、立ち上がった。
その時、僕のマイスマホに着信があり、
僕は、それに出た。
すると……。