表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導士と水火恋煩い  作者: 暁光翔
一章 花と怪物
6/9

一章「花と怪物」 2話:首から下げた月明かり

 やっと四限が終わった。

 涙斗(るいと)との待ち合わせには十分間に合うな。

「緋崎君、今帰り?」

「あぁ」

 声がしたと思ったら風見か。一体どうした。

「よかったら、今から皆でボウリング行かない?」

「悪りい。今日は別の大学の奴と会う約束があんだ」

「その人も連れてきて大丈夫だよ。ねね、一緒に行こうよ」

 腕を引っ張られる。

「久しぶりに会うから、ゆっくり二人きりで話してぇんだ」

 “こっち”では久しぶりに会う。嘘はついてねぇ。

 納得してくりゃいいが。

「そっか、それじゃあ仕方ないね」

「あぁ。そろそろ時間だ、また今度誘ってくれ。じゃあな」

「うん、また明日ね」

 若干駆け足で駅に向かう。

 シフト、まだ提出してなかったな。次のボウリングの為に一応増やしておくか。明日店長にLINEだな。

 さて、今日はどうすっか。

 まず約束のタピオカ行って、その後は……決まってねぇな。

 予定を決めとくはずが、金銭とか時間とかなんだかんだあってなんもしてねぇ。

 取り敢えず、ボウリングは無し。

 夕飯は中華街で喰うとして、問題はその前だ。

 まぁ、タピりながらゆっくり話し合うか。

 駅に着いた。涙斗は……いた、そこか。

「待ったか?」

「あ、(れい)。ううん、俺もさっき来たとこ」

「よかった、それじゃあ行くか」

 一歩踏み出す。涙斗が動く気配が無え。

 何か鼻をヒクヒクと動かしている。

 俺、汗くせぇのか? 

「零、今日、香水か何か付けてる? ほんのり甘い匂いするけど」

 そんな匂いすんのか。気にも留めてなかったな。

「いや。てか、そんなもん付けたこと無えよ。加減が分かんねぇからな」

「じゃぁ何処で?」

「多分、女友達と話した時。まぁ気にせず行こうぜ」

「うん、行こう行こう!」

 何でいきなりこんなこと聞いてきたのかは気になる。

 まぁ他意は無えんだろ。

 さーて、何飲むかぁ。


 カフェに着いた。

 メニューが多くて悩むな。

 王道のミルクティーかコーヒーか。ジュース系も捨てがたい。

 期間限定でイチゴミルクがあんのか。これにするか。

 会計を済ませて、タピオカ受け取って席に着く。

「あ、それにしたんだ。それも美味しそうだったし、メチャクチャ悩んだんだよねー」

 ココアを持ちながら、俺のイチゴミルクをじっと見つめている。

「……んな目で見るな。一口やるから」

「えっ、いいの? やった、ありがとう」

「その代わり、お前のココア一口よこせ」

「いいよー。はい」

「ありがとな」

 うん、チョコが強めで程良い甘さだ。美味い。

 上の生クリーム溶かしたらさらに美味くなんだろうが、流石に人のでやるのはまずい。

 次はこれにするか。

「甘酸っぱくておいしー。そっちは?」

「美味い。そろそろ返すな」

「うん、こっちも返すね」

 帰ってきたイチゴミルクに口を付ける。うん、美味い。

「ねぇ、最近どう?」

「こっちでは特に変わったことは無えよ。授業受けて、サッカーやって、バイトの繰り返しだ」

「俺もそんな感じ」

「あっちじゃ心休まらねぇからな」

 絶対今言う話じゃねぇけど、吐き出さねぇと変なタイミングで爆発しそうだからな。

 人が少ねぇ時間帯だからか、周りから不審がられることも無え。

 コイツになら打ち明けられる。

海華(みはな)ちゃんが来てから一ヵ月くらい経ったけど、不安?」

「あぁ。今回は薬が届いたからなんとかなったが、これからを考えるとな」

 どうなるか全く予想がつかねぇ。

 どうにかアイツを別の大学に編入させてぇ。

「いっそアイツが不良ならなぁ、退学するから大学で会わずに済む」

「あの子が犯罪に手を出すなんて、天地がひっくり返ってもありえないよ。品行方正、運動以外は優等生だもん」

 運動以外に習字も苦手だけどな、アイツ。

 いや、んなこたぁどうでもいいんだよ。

 あの真面目ちゃんを遠ざける方法なぁ。

「あとは別の大学の編入させるくらいしか無えな」

 俺が編入するべきなんだろうが、こんな化物何処も願い下げだ。

「うーん、どうなんだろう。他に異世界人を受け入れてくれる大学があるのか分かんないし、ちゃんとした理由も無しに上が編入を許してくれるかな?」

 正論。アイツ自身に問題は無い。

 それに、あと一ヵ月で編入させるなんて不可能だ。

「まだ時間はあるよ。俺も一緒に考えるから」

「あぁ、ありがとな」

 応急処置だけでも思いつけば万々歳だ。

「悪かったな、愚痴を聞かせちまって」

「ううん、大丈夫。とりあえず、今日はパーっと楽しもう。今のままじゃ、思いつくものも思いつかないし」

「それもそうだな。お前、どっか行きたいところあるか?」

「俺、服とかアクセ見たいな」

「了解。まずは近くの店に寄ってみるか」

 残りのイチゴミルクを飲み干して立ち上がる。

 急な風が身体を撫でる。

 目の前の景色はカフェから寮の部屋に変わった。

 マジかよ……。いくら何でも早すぎるだろ。

 窓の向こうには夜空が広がっている。月は……三日月だ、これなら問題無い。

 何故か厄災が起きた時のここの空は、止まった時刻の空と同じにならない。

 法則がありゃぁ、いちいち慌てなくて済むんだけどな。

「零、大丈夫?」

「大丈夫だ。学園長のとこ行くぞ」

 ったく、涙斗と遊びに行くの久しぶりだったのによ。

 厄災が落ち着いたら、夏休みにどっか行くか。なんなら何処かに泊まるか?

 とりあえず、穴埋めの為にバイト増やすか。


 学園長がいる談話室に着いた。

 寮生全員とローズさんが集合している。

「皆さん災難でしたね。まさか、こんなすぐ厄災が起こるなんて思いもしませんでしたよ」

 本当にそうだ。いつもは三ヶ月くらい間が空く。これ異常事態だぞ。

「早速ですが、魔物退治お願いします」

 海華のヤツ、大丈夫か?

 授業と実戦は別物だ。

 プログラムされた行動と取る練習相手と違って、魔物は知性も狡猾さもある。

 絶対不意打ちとか騙し討ちに遭うな。コイツ、ぽけーっとしてるし。

 一緒にいた--いや、駄目だ。危ねぇ、これ一番考えたら駄目なヤツだ。

 側にいたら、欲しくなる。

 嫌われる方法を考える気が失せる。

 欲しいと願うほど、今以上の関係になりたいと思うほど、海華を危険に晒すことになる。

 冷たくなったアイツが俺の腕の中にいる結末なんざお断りだ。

 今の関係が丁度良い。

沫雪(あわゆき)さんは今回が初めてなので、誰かと一緒にいた方がいいですね。今回はグループを作りましょう。一グループ四人くらいで、能力がなるべく均等になるように」

 能力が均等になるように、ね。

 一年と(しょう)先輩と(ひびき)先輩はあらかた把握してるが、それ以外の先輩方が全く分からん。

「沫雪さんは物理戦闘に不安があるので物理戦闘が得意な人と組んだ方がいいですね。緋崎(ひさき)君か八代(やつしろ)君か漆川(うるしがわ)君あたりが妥当ですかね」

 おいバカラス。事情知ってんのに俺を候補に出すんじゃねぇ。

 てか、なんでそこで響先輩をハブるんだ。やっぱり知り合って日が浅いからか?

 とにかく、どうにかして一緒にならないようにしねぇと。

「物理戦闘に関しては、俺と翔先輩より涙斗の方が攻守のバランスが取れてる」

「その通りですね。そこは確定しても良いでしょう。次は回復担当とサポート担当を一人ずつ割り振りましょう」

 これでよし。

 俺は回復もサポートどっちも他の奴らに劣る、なんなら海華の方がその点に関して強え。

 これで海華と組める可能性は無くなった。

 あとは適当に見守っとくか。


 よし、これで最後の一体。

 今回も無事に終わった。

 いつもより強そうな怪物も、サポートでどうにか倒せた。

 もうここにいる必要は無い、帰るか。

 呪文を唱えて戻る。談話室の着いた。

「ただいま」

「おかえりなさい。……これで全員揃いましたね」

 任務前と同じように全員集合している。

 これから何か話すのか?

「お疲れのところ申し訳ないのですが、ちょっと提案したいことがあります。聞いてくれますね?」

 黙って頷く。

 こういう時の学園長はマトモにだから真面目に耳を傾ける。

「今回はいつもより怪物が強くなっているという報告を受けました。組織の一般戦闘員では、一人で倒せないものもいるようです。そこで、これからはさっきみたいに複数人で行動するべきだと思うのですが、どうでしょう?」

「俺は賛成! そっちの方が安全だろ?」

「私も響君と同じです。得られる恩恵が大きい。連携も今回の戦闘を見た限り、問題無さそうです。訓練と実戦でいくらでも向上できると思います」

 怪物に殺される可能性を考えたら、響先輩や月村(つきむら)さんの言う通りだと思う。

 強い怪物を殺せるようになるから、厄災の被害を抑えられる。

「反対意見ある人いますか?」

 全員黙って首を振る。

 俺もグループを組むこと自体には賛成だ。

 ただ、これから任務の度に、何かしらの理由をつけて海華と別のグループになる必要がある。

 いっそここで反論すれば良いんだろうが、納得できる根拠が無え。

 俺一人の我儘で全員に迷惑を掛けるわけにもいかねぇ。

 どうするか。

「無いようなのでこれからはグループにしましょう。まぁ、時と場合によってはまた一人で任務を行なってもらう必要もありますが。話は以上です、お疲れ様でした」

 徐々に皆帰っていく。

 俺も部屋に戻って一回落ち着くか? 

「れーい、どうしたの? しかめっ面して。まぁ、理由はなんとなく分かるけど」

「涙斗。まぁ、その、なぁ」

「話なら聞くよ? 移動しよっか。博物館でいい?」

「あぁ。……ありがとな」

 博物館なら誰かに知られる心配が無え。エレベーターの方に向かう。

 コイツ、海華がこっち来てから、やけに相談に乗ってくれるな。

 どうしてこんなどうしようもない俺の話に耳を傾けてくれるんだ?

 惚れた女への未練をいつまでも断ち切れずにいる不甲斐ない俺なのに。

 エレベーターに乗り込む。俺達以外に人はいない。

 多分、話しても大丈夫なんだろうが、途中で誰か乗る可能性もある。一応口を閉じたままにする。

 エレベーターは一度も止まらず目的地に着いた。

「悩んでることってのはグループについてだ」

「やっぱりね。海華ちゃんと組まないようにする方法を頑張って考えたけど、思いつかないって感じだね」

 なんで分かんだよ。コイツエスパーか?

 いや、あんだけ愚痴ってたら察しがつくか。

「あぁ。役割が似ていたら、組む可能性も下がるんだろうが、実際は物理接近アタッカーと遠距離魔法使いだからな。タイプが全然違う」

 RPGでパーティを編成する時、パーティ全員似たような職業にするなんてまずありえねぇ。

 基本今回のアタッカー二人、回復一人、サポート一人みたいな組み合わせになるはずだ。

「海華ちゃん、接近物理戦闘以外なら基本なんでもできるからなー。攻撃魔法の火力は誰よりも高いし、銃の扱いも上手いし。まだ実戦で使えないレベルだけど、攻撃以外の魔法もスクスクと成長しているし」

 本当に異世界来たばっかか? 

 本格的に始めたのは最近とはいえ、戦闘訓練を積んできた俺達と同レベルに動けんのかよ。

 でもこっち来てから誰よりも早く真実である証明(クリスタシュネージュ)生み出したしな。

 学園長も認める天才ちゃんなら、普通の魔法の扱いなんざ楽勝か。

「一緒になる確率高いかも? あ、でも……」

 なんか言い淀んでいる。

「でも? どうしたんだ?」

「えっと、海華ちゃんがね、『私が攻撃されそうになる度に、八代君や皆に庇ってもらっている。またグループで戦う時、皆の足を引っ張って、上手く連携が取れないかもしれない。特に緋崎には今まで迷惑掛けてばかりだったから、彼の負担にはなりたくない』みたいなこと言ってて、その……」

「アイツの方から断る可能性もあるってことか?」

「そういうこと。勿論、君やあの子の意見がいつでも通るってわけじゃない。でも、二人の仲が悪いって皆が思ったら、連携のことを考えて、なるべく別のグループにすると思う」

 海華のこと、迷惑だとか、負担だとか思ったことは一度も無え。

 むしろ俺の方がアイツに頼りっきりだった。

 何でも知ってて、その手や声で沢山のことを表現できる凄え奴。

 そんなアイツに何か頼まれる度に、俺でも力になれることがあるって思えて、嬉しかった。

 アイツの方から離れてもらって、頭を悩ます必要が無くなったのに、気分が晴れねぇ。

 まだまだ問題が山積みだからか?

 アイツに気を使わせてるからか?

 優しさの塊みたいなアイツは人の為にひたすら耐える。

 心の底から嫌われれば、俺なんかの為に無理をさせずに済む。

 嫌われれば、俺に何かあっても俺を助けようとしねぇはずだ。

 でもどうやって?

 何度作品を壊されても、何事も無かったかのように性悪女達と友達でい続けていた奴だ。

 今までの中途半端な振る舞いなんかでどうこうできるわけがねえ。

 いっそ一緒に戦いに行って、わざと怪我させるか?

 ……そんなの無理だ。加減をミスればアイツが死ぬ。

 わざわざ自分から殺しにいきたくねぇ。

 軽傷でも望んだ結果にはならねぇ。

 自分が上手く立ち回れなかったから、って自分の所為にする海華が目に浮かぶ。

 俺を避けはするだろうが。

 嫌われるには、俺を見捨てさせるには何が最善なんだ?

「そうか。とりあえず、戦闘の時は問題無いな。あとはこっちでの生活だけだな」

 これが一番の問題だけどな。

「やっぱり、薬を定期的に分けてもらうしか無いよ」

「そんなん無理だ。学園長曰く、他の患者の分や、研究の分があるから、こっちにはなかなか回せないそうだ。材料も採取しにくい場所にあるしな。一応組織が代わりになる素材を錬金しているらしいが」

「なら、その研究の手伝いをしてみたら? もしかしたら、材料貰えるかも」

「どうだろうな? 霧野(きりの)さんや天王寺(てんのうじ)達みたいに錬金術や魔法薬学に詳しけりゃぁ、助手になれるかもしれねぇけど。それに、助手になれたとして、素材を分けてもらえる保証は無え」

「それもそうだね、ごめん」

「お前が謝る必要は無え。俺がアホなのが悪い」

「でも--」

「まだ時間はあるんだろ? その間に何か閃けば良い。だからそんな顔すんな」

「……うん、ありがとう」

 俺がもっとちゃんとしねぇと。

 望みは薄いが、編入の線で行ってみるか。

 まずは情報収集だ。


 今回の任務も無事終了。今回も海華と組まなかった。

 何度か任務に出ているが、一度も一緒になってねぇ。月村さん達に感謝しねぇとな。

 ……腕が重い。

 こっちも人数いるとはいえ、あの数を相手にしたんだ。流石に休まねぇと身体が保たねぇ。

 さっさと部屋戻って寝るか。

 あ、先に錬金部屋に寄るか。剣が錆びてきたしな。

 はぁー、背中も脚も痛え。施設と寮の間を歩くのもめんどくせぇ。

 その辺で横になったら、外でも爆睡できる。やったら他人の邪魔になるからやらねぇけど。

 なんか、今までと比べて、怪物の数も強さも増してる。下手したら死ぬんじゃねぇのか?

 この世界の外で何が起きてんだ?

 まぁ、俺達学生に知る術は無えけどな、厄災の原因がいる世界に行けねぇし。

 お、ようやく着いた。

 疲れているだけで、こんなに時間掛かるのか。鍛えねぇとな。

 図書室に入って階段で三階に行く。

 なんか、錬金部屋の隣が騒がしいな。

 ドアがバン、て音を立てた。蝶番は無事か?

 海華が勢い良く飛び出してきた。

 黒を基調としたオフショルのマーメイドドレスを着てる。多分防具の試作品。

「こーら、海月(くらげ)! まだ終わってないのに外出ちゃダメじゃん。まだまだドレスもアクセもいっぱいあるんだから」

「こんなに長い間着せ替え人形になってたら、逃げ出したくもなりますよ! それに似合ってないし……トバリ先輩も何とか言ってやってください!」

「そこでアタシに助け求めんの? 言っとくけど、アタシは着せ替えファッションショー賛成派。なんで、モデルにいなくなられると困るんだよね」

「そんな。(しき)、キャロ!」

「残念だけど、僕らも賛成派。勿論、(みこと)さんもローズさんもね。あと、めちゃくちゃ似合ってるから、ガッツリ着こなしてるから。というわけで、引き続きよろしくー」

「え、ちょっと、うわっ!」

 御神楽みかぐら達によって海華は部屋の中に引き摺り込まれた。

 なんだろうな、拉致の現場を見た気分だ。

 用事済ますか。

 剣を腰から外して、その他諸々と一緒に錬金釜の中にぶち込む。

 これで次起きた頃には新品みたくなってるだろ。

 さて、帰って寝るか。自分の部屋に向かう。

 ……さっきの海華の姿が脳裏から離れねぇ。

 顔面全体が熱い。

 アイツの綺麗な体型を目立たせるドレス。フリルのような白い襟から覗く首元。

 なんつーか、物凄く、エロい。噛みつきたくなる。

 って馬鹿野郎、何考えてんだ。俺は変態か?

 自分のほっぺにビンタを喰らわす。

 さっさと忘れろ、俺。

 中庭に出る。風が少し涼しい、これで頭を冷やすか。

 男子寮の近くに人影が見える。あ、森の方に逃げた。

 怪しさしか感じねぇ。追いかける。

 遠いから断定できねぇけど、寮生じゃねぇ。

 女性陣はさっきの拉致事件起こしてたから違う。

 涙斗達はまだ施設の方にいるはずだ。

 用を済ませた可能性もあるが、森に入る理由が分からねぇ。

 実験の材料なら植物園に全部揃ってるし、森に目ぼしいものは無え。

 多分不審者だな。こんなところに何しに来たかは知らねーけど。

 俺も森の中に足を踏み入れた。

 不審者の姿は影も形も無え。

 逃げたか?

 ……何かの気配、左後ろからか!

 回避すると、見知らぬ女性が微笑んでいるのが目に映った。

 中世の貴婦人が着ていそうな服装をしている。

 後ろからか赤黒い尻尾のような物が覗いている。先端がハートになっていて、いかにも悪魔の尻尾って感じだ。

 もしかしてあれが俺を狙ったのか?

「私の尻尾から逃げられるなんて、流石ね」

「お前は誰だ」

「私はディメーナ・フォーリー。貴方達に用があって此処に立ち寄らせてもらったわ」

「俺達に?」

「そう。貴方は面白い力を持っている。目的の為に私に協力してもらおうかと思って」

「協力ねぇ……どうせ碌なことじゃねぇんだろ?」

 まともな目的を持っている奴は、いきなり襲ってこない。

「貴方達からしたらそうかもしれないわね。でもそんなのどうでもいいの。で、私に--」

「協力なんかするわけねぇだろ」

「そう答えると思ったわ。でも、そんなのどうだっていいの」

 ディメーナはブツブツと何かを呟く。

 火の玉やら水流やら雷やらが一斉に現れて俺の方に向かってきた。

 力ずくで従わせる気か。想定内だ。

 ただこっちは丸腰、あっちはアホみたいに強え。

 あの短い呪文であんだけの攻撃、コイツ、そこいらの魔導士じゃねぇ。

 俺一人でどうにかできる問題じゃねぇ。

 学園長呼ばねぇと他の奴らも巻き込まれる。

 チッ……風やら蔦やらを躱すのがやっとだ、テレパシー使う余裕が無え。

 そろそろ体力が、まずい。

 いろんな属性の魔法弾が降りかかる。

 避けきれず、何発か身体を掠める。

 少ししか当たってねぇのに、フラつく。

 目の前にさっきの弾よりデカい氷の塊が向かってくる。

 まずい、反応が遅れた。

 モロに食らって吹っ飛ばされる。

 早く、立て直させぇと。

 急に何かが巻き付く感触がして、飛ばされた方向と逆の方向に引っ張られる。

「ふーん。一パーセントも本気出してないけど、ここまで私の攻撃を回避できるなんて素晴らしいわ。一矢報いていたらもっと良かったけど、普通は回避すら出来ないし……文句言うのはここまでにしましょう」

 俺の目の前にはディメーナがいて、くだらねぇことを言っている。

 早く、逃げねぇと。

 もがいても、絡みついた尻尾はびくともしねぇ。

「さてと、早速貴方に働いてもらうわね、貴方の一番大切な女の子のことを調べる為に。あぁ、そうそう。先に報酬を渡すわね。きっと貴方に似合うわ」

 白い光を放つ石がついたネックレスが近づいてくる。

 この光は、まずい。

 このままじゃアイツが危ない。

 クソっ……。

 手が首に触れる。

「これで良し。たまには我慢せずに、自分の心のままに動いてみたら? あの子の優しさに甘えちゃいなさい。それじゃあ、観察させてもらうわね、ごきげんよう」

 解放される。もう、遅い。

 両手を金具の方に回す。

 早くはずさねぇ、と。なるべく、遠くに行か、ねぇ、と。

 せめ、て、部屋まで。

 

 アイツハ、ミハナハドコダ?

 アイツノ、ソバニイテェ、ハナレタクネェ。

 サガサネェト、ツカマエネェトトジコメネェト。

 ズットキレイナママデ、ダレニモキズツケラレネェヨウニ。

 ホカノオトコドモノトコロニ、イカネェヨウニ。

 ズット、オレノソバニイロ。

 オマエハ、オレノオンナダ。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ