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魔導士と水火恋煩い  作者: 暁光翔
プロローグ
2/9

プロローグ2 Not to Do

緋崎零視点。

零はある悩みから幼馴染みの海華に自分の本心を伝えられない。

自分は彼女の側にいてはいけない、でも恋心を諦めきれずに苦悩する。

 海華(みはな)を部屋に送り届けた後、駆け足で談話室に戻る。

 あのクソ鴉、余計なことしやがって……マジで一発喰らわす。

 扉を吹っ飛ばす勢いで押す。

「どういうことか説明しろ、この馬鹿タレェ!」

「仮にも教師である私に馬鹿なんて……酷いですよ。あと扉に乱暴しないでください」

「うるせぇ! 何でアイツにあんなことを言った。テメェは俺の事情を誰よりも知っている筈だ、アイツとのことも何度も相談してきた。なのにだ」

 俺は化物だ。アイツの側にいたら、アイツを傷つけるどころか最悪殺す可能性がある。

 それなのにアイツとの接触を促すような真似……正気じゃねぇ。

「君の病のことは把握しています、君が彼女にそのことを知られたくないのも。ですが彼女には彼女の選択があります。病のことを彼女に伝えれば恐らく学校に通う道は選ばないと思いますが、私には君の気持ちも彼女の意志も蔑ろにできなかった」

 あれが最善策とでも言いてぇのかよ。

 まぁ、此処での大学生活を始める欠点を並べるにしても、アイツにとってのデメリットは戦闘訓練くらいしかない。

 それにアイツは自分に力があることを知らされている。アイツのことだ、魔法を習得して俺達の活動に参加しようと考えてんな。

 多分何を言っても、あの正義感が人一倍強え真面目ちゃんが折れることは無えだろうな。

 はぁ……アイツが魔法は何処で教わるかを聞いた辺りからこうなることは分かっていたけどよ。

「君が本当に彼女に疎まれることで彼女を遠ざけようとしたのなら、彼女を守ろうとしたのなら、無視以上の行為をしなければならなかったのではないのでしょうか? それなのに君はそれを行わなかった。いや、できなかったのではないのですか?」

 コイツの言い分は正しい。アイツに俺の顔を見たくないくらいに嫌われるには、陰口なりアイツの作品を壊すなり、手段は腐るほどあった筈だ。

 でも、俺にはその覚悟が無かった。

 陰口ならまだしも、アイツの絵や物語を破くような真似はできねぇ。実際、クラスの女子に絵が紙切れ同然になるくらいにバラバラにされた時、絵の前で崩れ落ちて泣いていた。

 あれ以上の困った顔や傷ついた顔はさせたくねぇ。あの時嫌がらせに気付いて止めることができなかった俺が、その涙を拭うことができなかった俺が言えた台詞じゃねぇが。

 自分が化物と分かっていながら、アイツが隣で笑っていることを望んでいる。

 結局俺はアイツのことを守りたいと言いながら、誰よりもアイツの側にいたかった我儘な奴だ。

「いっそ全てを打ち明けてしまった方が君も楽に--」

「冗談じゃねぇ! んなことするくらいならこのままの方がマシだ」

「そうですか。それなら君がこれから何をすべきかをじっくりと考えるべきです。私も相談に乗ったり、病を抑える方法を模索したり、協力は続けますので」

「分かってる……ありがとな」

 これ以上話すことは無え。部屋を後にする。

 握り拳の行き先は消えた。




 俺がすべきこと、そんなの最初っから分かりきっている。

 それからもアイツとの接触を極力避ける、それだけだ。

 普通の人間に戻れたらなんて考えんな、そんな日は来ねぇ。

 仮に来たとしても、その頃にはアイツの隣には他の男がいるだろうよ。俺は幼馴染以上の関係には進めねぇ。

 全部理解はしているが、なんか心に霧が掛かったような気分だ。

 植物園で散歩でもすっか。少しは気が紛れる筈だ。

 ん? あそこにいるのは……涙斗(るいと)か。

「よぉ、何やってんだ?」

「あ、(れい)。今暇だから水族館フロアとか植物園とか、なんか展示系の場所に行こうかなーって考えてたとこ。そっちは?」

「俺も暇で植物園散歩しようとしてたとこだ。一緒に行くか?」

「行く行く!」

 男二人で施設の外に出る。

 青空が眼前に広がっている。今の世界では空の色は変わらねぇ。時間が止まってから再び動き出すまで、日光か星灯りのどっちかを浴び続ける。

「今回日差しキツくない? これ寝れるかな?」

「これより強え奴でもグースカ寝てただろ。大丈夫だ」

 満月の日じゃなければな。その言葉を飲み込む。わざわざ場を暗くする必要は無え。

 ガラス張りの扉に手を掛けて花だらけの空間に足を踏み入れる。

 アイツ、この場所好きそうだなぁ、よく花とかの自然物をモチーフにして作っていたし。

 てか、この施設にある展示品やインテリア、此処の街並み全部アイツの好みに合いそうだ。落ち着いたらきっと、この世界を全身で味わって体験した感覚や感情を作品に込めてくんだろうな。

 またアイツの本、読んでみてぇな……って何考えてんだ。そんなん、夢のまた夢だ。

「お前、アイツと知り合いだったんだな」

「うん、高一と高三のクラスが同じでね。てか、あの子と知り合いだったんだね」

「あぁ、幼稚園くらいからの腐れ縁だ。家も近いから昔はよく遊んでた」

 今は避けるべき存在になっちまったけど。

「もしかして、君がよく相談してたことって……」

「アイツのことだ。アイツの想像力は強い、こっち側に来ることは目に見えてた。俺がアイツを傷つける前に、此処に来る前に治療法やら対策やらが思いつけば良かったんだが……もうどうしようもねぇな」

「あの子のことだから正直に話しても拒絶はされないよ。多分一緒にどうすれば良いか悩んでくれる」

「それは分かっちゃいるけどなぁ、やっぱり無理なもんは無理だ。アイツに何をするか想像もつかねぇ」

 涙斗の言う通りにした方が俺もアイツも傷つかずに済む。

 だけど最悪の未来を実現させない為にはこうするしか無え。

 場の空気が重くなる。流石にこの状態が続くのは辛え。

「そういえば、高校時代のアイツってどんな感じだったんだ?」

 何口走ってんだ俺は。情報増やしてアイツのことがさらに気になったらどうすんだ。

「うーん、最初は冗談にマジレスしたり天然発言したりする不思議な子っていう印象だったよ。でも創作している姿や作品、困っている人を助けてる姿とか色々見て、自分の世界と芯を持っている優しい子だってわかったんだ。あと頭めちゃめちゃ良い、学年上位五位には絶対入ってた」

 まぁ、旧帝大レベルのとこに進学するような奴だからな、首席取っててもおかしくねぇ。

 聞いてみた感じ、あの頃と同じだな。

「創作してたの見てたって言ったよな。物語の相談とかされてたのか?」

「それもあったけど、服を縫ってたのをよく見てたよ。家庭科室で遅くまでやってたなぁ」

「服作ってたのか? あとなんでお前そこにいたんだ」

「最初はデザイン部の側で偶々見掛けただけだったんだ。その時作ってたのが凄すぎて、部活の邪魔になるからって出て行こうとするのを部員全員で引き止めてた。一部の人からはアドバイスを求められてたなぁ。上手く言えないけど、作っている姿があまりにも綺麗だから、もっと眺めてたいなって。危ない人みたいだけど本当にそう思ったんだ」

 新しい物にも手を付けたか。

 良い人達や環境にも出会えたんだな。

 中学の時は、俺の友達に作品が褒められたら即一部の性悪女子に盗られてたからな。できるだけ壊される前に取り返してこっそり戻していたが、間に合わなかったのもある。その度にアイツは何を思っていたのか、どれだけ苦しんでいたのか見当もつかねぇ。

 根本を叩けばアイツは必要以上に涙を枯らさずに済んだのかもしれねぇ。自分の立場とか保身の為に何もできなかった俺は、臆病で馬鹿な野郎だ。

 とにかく、アイツが歪まずにいてくれて、アイツを受け入れてくれた場所があって、本当によかった。

「それをきっかけにクラスとかでも喋るようになったり、バスケ部の無い日に作ってるのを見に行ったりするようになったんだ。偶然って凄いね」

「本当だな。デザイン部ってことはお前も服縫って、出来上がったのを見せあったりしたのか?」

「ううん、俺はモデルだったから何もしないでただ近くにいただけだよ」

「そうか。たしかにバスケと兼部ってなると作るのは難しいな。てかなんでモデルやってたんだ?」

「先輩に、背が高いからモデルやって、って頼まれたから。両立できそうだったから引き受けただけ」

 コイツ、百九十近くあるからな。顔も良いし優良物件だな。

 コイツを見るとマジでこの世の不公平を感じる。何食えば巨人になれるんだ。

「……そろそろかな」

「どうかしたのか?」

「ごめん、この後ちょっと予定があるから行くね」

「そうか。人を待たせてるんだったら早く行ってやれ」

「うん。じゃ、お疲れー」

 涙斗は小走りで出口に向かった。

 ……アイツは俺が知らない海華の側にいた。きっと海華の相談にも乗ったこともある筈だ。

 気のせいかもしれねぇが、涙斗と話してた海華の顔は俺といた時よりも楽しそうに映った。もしかしたら、アイツは涙斗のことが好きなのか……いや、いくらなんでも妄想がすぎる。

 アイツらの心情はどうなのか全く分からねぇが、これだけははっきりしている。

 俺より涙斗の方が、アイツの隣に相応しい奴だって。

 もしアイツらが相思相愛なら俺はその助けをするべきだが、それは不確かだ。いっそそうだったらアイツのことを諦められたのかもしれねぇ。

 いつまで経ってもアイツへの気持ちは消えてくれねぇ。寧ろ、どんどん増していく。

 偶然見掛けただけでも脈は速くなる、今回みたく会話すれば大量の言葉と想いが頭ん中で渦を巻く。粘り気のある何かが喉から込み上げてきそうで、抑える為に必死で口を閉じる。

 アイツの表情を目にするだけじゃ、アイツの声を聞くだけじゃ足りねぇ。作品を味わうだけじゃ満足できねぇ。

 ただの幼馴染以上の関係が欲しい。アイツの唇に触れたくてたまらねぇ。

 だけど化物がそんなことしたら、アイツの彫刻並みに整った顔がぐちゃぐちゃ以上に酷えことになる。

 アイツのヒーローにも悪役にもなれねぇ俺は、アイツを避けることくらいしかできることが無え。

 今まで抱えてきた重い言葉を吐き出すな。アイツを俺のモノにしようとするな。

 俺は俺の本音に従うな。

 俺を生かすな。





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