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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
倉庫業と遺跡発掘業

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98話「魔物の国の多様性」


「スライムってこんな強くなるの?」

 日が暮れたので俺たちは山賊を背負い、詰め所に持っていく。

 基本的には俺とアラクネさんで罠を張り動きを止めて、スライムたちが倒すというわかりやすい捕まえ方をした。

 23名の山賊を倒したスライムは何度か鞄に入れて眠らせ着実にレベルを上げていた。


 報酬と珍味が大量に入った大きな袋を担いで辺境へと戻る。


「また来てくれ。久々のレギュラーだからさ」

 アラクネ商会は黄金沼のレギュラーになった。まだまだ山賊はいるが、他のレギュラーがどうにかするだろう。

 衛兵のセイレーンおばさんだが、尋問中に暴れた山賊を歌で眠らせていた。本人は山に登りたくないと言っていたが、沼近くだとかなりの実力者だということが判明した。


「川や沼に引きずり込んでしまえばいいからね。水辺で私やサハギンに喧嘩売る奴はいないよ。だから市場が大きくなったんじゃないか」

 ものすごく納得した。


 行きと同じように山の中を通って辺境へ向かう。活躍したスライムたちは鞄の中で眠っている。


「色もどんどん変わっていったけど、ちゃんと掃除してくれるかな?」

「さすがに掃除してくれないと困るよな。初日にいろいろ毒とか洗剤を与えすぎたかもしれないね」

 山賊を詰所に持って行く度に、各種毒と石鹸・洗剤を飲ませ続けたので、混ぜ過ぎた絵の具のように茶色と灰色になってしまった。茶色が毒スライム、灰色が洗浄スライムとしている。山賊たちの毒を食らっているのに、身体がピカピカに洗われていく姿は結構面白かった。


「山賊って暴力で生計を立てているのに、油断しすぎじゃない?」

「あ、アラクネさんも気づいた? そうなんだよ。彼らは暴力で奪うことを商売にしているのに、守りが甘いんだ。攻められたら逃げの一手なんだよ。リスクとリターンが割に合ってないんだよね」

「確かに……。だったら闘技場で稼いだり衛兵になるまで鍛えたりした方がいいよね?」

「そうすると暴力から武術になるからね。やっぱり、いい教官に出会えるかどうかなのかな」

「ああ、それはそうかもね」

「だったらマッチングサービスがあった方がいいよな」

「また何かの商売?」

「うん。魔物はこれだけ種族が違うと、学べるものと学んでもしょうがないものがあるでしょ。ツボッカとか身体の動かし方よりも魔力の動かし方を学んだ方がいいしさ」

「だから中央の学校があるのよ」

「そうか」

「ある分野に特化したかったら、南部の群島にいるんだけどね」

「群島ってそういう場所なの?」

「いろんな研究をしている魔物がいて、それぞれの島で研究を深めているね。魔王の友達が爆発物の研究がしたいから誰にも邪魔されない静かな場所を用意してくれないかって言って始まったことなんだけど。定期便で各島には食料を届けていて、研究結果を売って生計を立てているみたいよ。学校を卒業するときに選択肢として提案されることなんだけどコタローは自分から辞めちゃったから知らなかった?」

「そうだね。辺境で倉庫をやるって決まってたから」

 だから群島にスライムの研究者がいるかもしれないってことだったのか。


「でも、そういうシステムがあるなら、各島で何を研究しているかのリストみたいなものはあるのかな?」

「解析屋がいるわね。研究者には研究に専念してもらって、研究を解析して一般的な魔物にもわかるように説明する講演があるの」

「じゃあ、成果が出ない研究をしてたら講演ができないとかもあるのかな?」

「いや、解析屋が講演ができないからってダメってわけじゃないけど、ダメな研究者でも2年くらいは島にいられるはず。壮大な実験をしているなら過程を説明して滞在期間も伸ばせるし。群島は島が多いからね。追い出される魔物はほとんどいないよ。家族を連れていく魔物は多いし」

「魔物って進んでるなぁ」

「でもそれは魔王が本当に懸念していたことで、人間の知性に追いつきたいっていう魔物の劣等感があったからだと思うよ。南部は人間への劣等感が強いって聞いたことがあるから」

「そうなんだ。種族だけでなく土地によっても特性があるのかぁ」

「気候や住む場所で肌の色や角の位置も変わるから、似ているけど別の種族っていうことは多いわ。ゴブリンだって北の方にいるのは毛深いし」

「なるほどね」

 異世界の魔物は多様性があって、しかも面白い。


「解析屋かぁ。そういう人って呼べないのかな」

「本になってることが多いから、本を売ってる行商人が来ると思うよ」

「物流やっていてよかったぁ」


 温泉に行くとすっかりお客はいなくなっていた。エキドナが掃除をしているところだ。


「スライム取ってきたよー」

「ああ、おかえり。一応、穴は掘ってお湯は張ってあるけど使う?」

「使うよ」

「だいぶ山賊を倒してきたから」

「スライムでしょ?」

「後半は本当レベルが上がってたと思う」

「スライムが?」

「毒も強いし、洗浄しようとして拘束するからね。番犬じゃないけど、結構盗賊対策にはなりそうだよ」

「スライムなのに?」

 エキドナはスライムの実力を侮っている。

 気にせず鞄からスライムを出して、できたばかりの湯船に突っ込んでやった。


「すごい色しているよ。スライムってもっと透明じゃなかった?」

「エキドナはいいリアクションするなぁ。結構、こっちの感情とかは読み取ってくれるし、指示も聞いてくれるんだよ。意外だろ?」

「意外。スライムに知能あるの?」

「スキルを使えるんだから知能はあるだろ」

「ええ? そうなの。なんか私のスライムの概念が崩壊するんだけど……。あれ? お湯なくなってない?」


 すっかりスライムたちが飲み干してしまったらしい。


「まだ、お湯ほしい?」

 エキドナが聞くと、スライムたちは餅のようにぎゅんと伸びた。

「どっち?」

「欲しいってことだろう。要らなかったら、反応しないさ」

「なるほどね」

 エキドナは温泉のお湯を引いてあげていた。

 のん気に俺とアラクネさんも温泉に入って汗を流し、エキドナと一緒に桶や洗い場を掃除する。


「山賊はそんなに強くなかったの?」

「そうだね。強い山賊がいたら、市場とか襲われてるんじゃないかな? ほとんど喋ってたよね」

「うん。ずっとコタローが変な話をしていたよ」

「なに? 下ネタ?」

「近いかな」

「闘技場ができたら、何が売れるかって話だよね」

「全然違うじゃないか」

「精力剤と惚れ薬に使う珍味を仕入れて来たから、闘技場のチャンピオンとかランキングができたら、酒場に売りに行こう」

「どういう流れ?」

 

 エキドナにはアラクネさんが流れを説明していた。

 その間にスライムたちが湯船から這い出てきた。


 飲んだ温泉の水質のせいなのか濁っていて、ピンクっぽいスライムとパステルカラーの青いスライムが出てきた。どちらも中にある核が見えない。


「またレベルが上がったらしいな。とりあえず、大きい湯舟からお湯を抜くから中を洗ってみてくれ」


 スライムたちは指示したように動いてくれる。いつの間にか俺の使役スキルのレベルが『使役スキル中』に上がっていた。魔力も結構取られる。あまりレベルを上げ過ぎない方がいいかもしれない。


 害虫などは青い毒スライムが一掃し、ピンクのスライムで洗浄。短時間で湯船の清掃が終わった。


「どうだ?」

「便利だね! え、思ってた以上に早いわ」

「じゃあ、倉庫でも使ってみるか」


 倉庫では夜になったというのに、ターウとツボッカが帰らずにホールの真ん中で寝っ転がっていた。


「ただいま。何してんの?」

「今、魔力切れ中です」

「社長、ツボッカの防御力上げときましたよ」

「ターウの根性もつけておきました。すぐ諦める癖があるから」

「そうか。とりあえず汗臭いし砂まみれだから洗われてみるか?」

「「え?」」


 2人とも洗浄スライムに洗われて、つるつるの光沢ある肌になっていた。


「死ぬかと思った」

「ただすごく気持ちいいです」

「新しい従業員だから、仲良くね。レベルは上げておいたから」

「わかりました」

「俺たちよりも強いんじゃないですか?」

「そうかもね。スライムに負けるなよ。奥にベッドあるから風邪ひかないようにな」

「はい。え? 帰るんですか?」

「うん。これお土産の珍味ね。まぁ、動く壺とケンタウロスだから大丈夫だと思う!」


 俺とアラクネさんは外に出た。


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