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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
倉庫業と遺跡発掘業

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89/226

89話「奈落の遺跡探索の先遣隊」


 倉庫にはすでにセイキさんと元冒険者夫婦が待っていた。


「さっき、役所の前にいませんでした?」

「うん、そのままここにきた」

 元冒険者夫婦は楽しそうにしている。


「午前中は『奈落の遺跡』の探索をしますんで、待機ですよ。温泉に入っていた方がいいんじゃないですか?」

「やっぱりか。じゃないとレベル50まで上げないもんな」

「先遣隊でしょ。私たちはホールで後方支援するからこれだけ持っておいて」


 魔法使いの婆さんから鈴を持たされた。


「通常は鳴らないけど魔力を込めると、私が持ってる鈴が鳴る」

「なるほど緊急用ですね」

「回復薬も解毒薬も解呪の風呂敷も揃えてあるんだ。どんな毒や呪いにかかっても俺たちでどうにかできる。思いっきり奥まで行ってきてくれ」

「どうしてそんなに良くしてくれるんです?」

「私たちは引退したって冒険者よ。未知へ赴く挑戦者を応援しないわけないでしょ」

「勇者もいない時代だ。挑戦する者の背中を押せることこそ楽しみなんだよ」

「それにしても装備が少なくないか?」

 セイキさんが俺の持ち物を見ていた。


 アイテム採取用の革袋とどこにでもあるようなナイフ、小さな薬草袋がひとつだけ。竹の水筒だけは腰にぶら下げている。

 ポケットにはアラクネの紐と蜘蛛の巣玉などがいつでも取り出せるように入っていた。

 

「探索がメインですから、よほどのことでなければすぐに帰ってきます」

「マッピングって感じかな?」

「そうですね。魔物が出たら、戦力だけ探って戦闘は極力避けます」

「わかってるならいいけど、コタローくんなら弱点を見極めそうだけどね。でも火炎竜のマントくらいは持っていったら?」

「誰でも揃えられる物で探索することで、『奈落の遺跡』の必需品がわかるじゃないですか? 『奈落の遺跡』を解放する時に基本セットがあると便利なんで、それも含めた実験です」

「なるほどね。もう探索商売を考えてるんだ」

「事業にすると町や中央からの意見や規制を受けないといけなくなりそうなんで、完全に商売として遺跡の探索をするつもりです」

「ということは『奈落の遺跡』発掘業者のギルドを作るのか。そのための基本セット。面白いね。冒険者ギルドよりも充実している」

「魔物の国ではレベル50以上じゃないと入れないって言われている場所ですから。セイキさん、そうですよね?」

「そうだ。冒険者よりも経験も積んでいる者が多いだろうからな。自分のスタイルを確立している。余計なものは運んでいられないが、それでも最低限のアイテムは持っておいた方がいいってことだろう?」

「そうです。あとは軍手は持って行くとして、小さいピッケルってどう思います?」

「持って行く方がいいぞ」

「手で掴まない方がいいものもあるわ」

 元冒険者の夫婦は経験豊富なので、助かる。

 ピッケルを腰に差し、準備完了。ホールの入り口から向かって右側の鍵を開けた。

 

 真っ暗な通路が伸びている。リッチを倒したのがかなり昔のように感じた。


「コタロー、魔石ランプって使わないの?」

 アラクネさんが声をかけてきた。そういえば明かりを頼りにしてもいいのかとこの時ようやく気付いた。『魔力探知』もあるし聴覚も嗅覚もあるので、隠れるときに心臓を止めるような魔物でない限り気づく。


「うん。大丈夫。適当にお茶でもしながら待っていてください。いってきます」

「いってらっしゃい」


 アラクネさんと爺さんたちに見送られ、俺は『奈落の遺跡』へと向かった。


 真っ暗だが、前に入った時よりも壁の位置や汚れの匂いなどがわかった。足音の反響だけで広さもわかる。逆に目を頼りにしていたら、時間がかかり過ぎていたかもしれない。


 自分で仕掛けた罠を補修しながら、リッチが座っていた場所まで辿り着いた。

 ここからは大きな螺旋階段を下りていく。


 カサカサ……。


 階下から虫の足音が聞こえてくる。ここからは『忍び足』を使う。

 螺旋階段には底があり、部屋と通路が広がっているらしい。造りとしては『闘竜門』のようになっているようだ。


 岩の地面にはムカデが這っている。ムカデの行く先を目で追っていると、明りが灯った。触れると光るスズランの花のような形の植物が壁から生えていた。僅かな振動でも警戒して光るらしい。『魔力探知』で見ると、壁にはかなりの量が生えている。採取しておいた。


 通路にはアラクネの紐を仕掛け、先へ進んだ。


 小部屋に辿り着くと壁際に大きなムカデが動かずじっとしている。リッチを倒したときに地下から現れた魔物だ。ピッケルで頭部を突き刺し、ナイフで斬り落とす。個体で見るとそれほど強くはないらしい。体液があふれ出てきたので、そっと床に落とした。


 ガサッ。


 仲間のムカデが死んで、他のムカデが動き出す。振動によって、スズラン型の植物が明るく光った。


 トトトン。


 見えているムカデは蜘蛛の巣玉で壁に張り付けて拘束。すべて頭を斬り落としていった。表皮は固いが、防具として使えるのかわからない。体液の毒は酸っぱい臭いがするので酸性だろうか。ひとまずムカデの死体は放っておいて、先へ進んだ。


 細い通路があり、罠も仕掛け放題。スズラン型の明りもある。試しに逃げる準備をしてから思い切り叫んでみた。


「わぁ!」


 奥から巨大ムカデがわらわらとこちらに向かってくる。あっさりと罠にかかっていた。酸の体液を吐いてアラクネの紐を溶かそうとしていたが、一瞬でも止まると隙が生まれる。

 できるだけ巨大ムカデを倒してから、先へ進んだ。


 地下には地下の生態系があるようで、背中に苔が生えたナメクジや目が発光するトカゲなども見た。どれも強いかと言われると、そんなことはなく弱点はいくらでも見つけられる。なぜそれほど魔王が恐れたのかわからない。もしかしたら自分のように強くなる者を生み出したくなかったのか。


 そんなことを考えていたら、床や壁から枯れ草が生えている地区に辿り着いていた。大きな部屋には毛が針のように尖った狼の群れが潜んでいる。通路に罠を仕掛けて誘ってみても、まるで動かない。統率が取れているらしい。つまりボスがいるということだ。


 多数には勝てない。連携を使われると捌ききれないからだ。

 俺は踵を返し戻ろうとしたら、狼が別ルートから回り込んできているのが見えた。『魔力探知』がなかったら気づかなかったかもしれない。


 俺はとにかく走って逃げた。ただ、向こうは四足歩行で種族的にもスピードでは勝てない。速度を落とし罠を仕掛けながら逃げることにした。スズラン型の植物を採取して闇に紛れ、臭いのあるムカデの体液や他の魔物の血を壁や天井にぶつける。

 服を脱いで枯れ葉で身体をこすり、地面を転がった。


 臭いが消えたので、狼たちも走る速度が落ちた。そのまま帰ってくれればいいが、獲物として認識されてしまったらしく、そこら中にいる。狼たちがこの階層の主だったらしくトカゲたちもムカデも逃げ惑っていた。探索に来たのに、こちらが探索される側になってしまった。焦ると汗に出てしまうので、心を落ち着けることに集中。蜘蛛の巣玉で自分を天井に張り付けて、じっとタイミングを待った。


 俺の下を狼の群れが通り過ぎていく。降りてきた階段付近に一頭伝令役なのか待機していた。アラクネの紐は鋭い毛で斬られてしまったか。


 狼の群れが遠くまで行ったのを確認し、俺は床に下りた。まっすぐ階段へ走り抜ける。振動を受けてスズラン型の明りが灯った。

 俺はポケットのベトベト玉を用意。狼が見えたら床に投げた。


 んおう?


 狼の足がベトベトした粘着性の高い床に捕らえられた。ナイフをまっすぐぶつける。

 狼はナイフに噛みつき俺を睨んだ。

 攻撃を防いだと思った一瞬を逃してはいけない。


 俺はピッケルで狼の後頭部と首の付け根を狙う。狼は身体のコントロールを失った。


 ガウッ!


 頭だけで噛みついてくる。


「すげぇな」

 思わず声に出ていた。


 俺は床に落ちていたナイフで、狼の首を斬り落とし、魔石と皮を回収。その間も狼は吠えて仲間たちを呼んでいた。


 ただ、一頭やられているので狼たちも迂闊にこちらには近づかない。罠もあるので、じっと息を潜めているようだ。


 俺は皮と魔石をアイテム袋に入れ、吠える狼の頭部をアラクネの紐でぐるぐる巻きにしてから階段を駆けあがった。


「お、帰ってきたな。酷い血だらけじゃないか!」

 セイキさんが笑いながら迎えてくれた。

「俺の血じゃないです。これ一階層にいた狼の頭です。毛が棘のようになっているでしょう? まだ動くから気をつけて」

「わかった。もう昼過ぎよ」


 高レベルの元冒険者や魔物たちが集まっている。


「どうだった? 『奈落の遺跡』は」

 魔法使いの婆さんが手拭いを渡してきた。血を拭いておく。


「それぞれ個体のレベルはそれほど高くないです。ただ連携を使ってくる。しかも向こうは地の利があるのでちょっと一人じゃ無理ですね。相当準備が必要です」

「弱くても人数がいる方が厄介だな。弱点だと思っていた相手が罠だったりするから」

 剣士の爺さんはわかっているらしい。


「なるほど慎重じゃないと生き残れないか。ここまで生き残っている俺たち向けじゃないか」

 他の冒険者たちも『奈落の遺跡』に潜るつもりだ。


「死なれても困るので、ゆっくり情報を共有しながら攻略していきましょう」

「「おお」」


 なぜかわからないが、皆ものすごく協力的だ。

 魔法使いの婆さんに聞いてみた。


「棺桶に片足突っ込んでも、皆冒険には飢えてるのよ。攻略されてないダンジョンなんて最高じゃない? しかもレベル制限があるんでしょ」

「早いところツアーを組んでくれ。温泉に入って調子がいいんだ」

「これ皮と魔石か? 冒険者ギルドまで持っていって鑑定してもいいか?」

「お願いします」

「新種の魔物なら、古い馴染みの魔物学者を呼んでやるよ」

「アラクネちゃん、やっぱりまじないの天才を呼んだ方がいいんじゃないか? この頭、呪いが罹ってまだ動き続けてるぞ」

 セイキさんが言っているまじないの先輩ってクイネさんだろうか。


「あの先輩は今大渓谷にいるんで、もう少ししたら呼びます。ひとまず、コタロー。生きて帰ってきてくれてよかったわ」

「レベルが高くても死にそうになるもんだね」


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