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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
倉庫業と遺跡発掘業

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87話「アラクネ商会の役割、社長知らず」


 夕方になり、老人たちを温泉へ見送り、アラクネさんも遺跡探索の冒険者を募集しに町へと向かう。入れ替わりでゴーレムたちが木箱を担いでやってきた。


「あの後、レベルは上がったのか?」

 岩石地帯では闘技場を荒らしたため、ちょっと有名になっていたらしい。一度辺境まできたからかマシン族の喉についている発声の補助器具もつけていた。ただ、ジェスチャーも交えている。俺もゴーレム族と話すときは、ボディランゲージが多めになってしまう。


「ああ、ちゃんと52まで上げたよ」

 ゴーレムたちは身体をのけぞらせて笑い、手を叩いて祝福してくれた。

 部屋まで案内して木箱ごと保管。背負子だけ外していた。


「保管料はいくらなんだ?」

 ゴーレムたちは普通に払おうとしてきた。

「いらないよ。災害の補助金が役所から出るからさ」

「そういうわけにもいかないだろ」

「俺が二重取りするとアラクネ商会の評判が落ちるだろ。勘弁してくれ。まだできたばっかりなんだからさ」

「どうせ稼ぐだろ?」

「いや、まだまだだ。そんな足を掬われないようにしないとな」


 ゴーレムたちは冒険者ギルドの宿に泊まるという。前は街外れで寝泊まりしていたが、冒険者ギルドも魔物たちのニーズに合わせて部屋を増設してくれている最中だ。おそらく冒険者ギルドがゴーレムたちに宿の使い勝手などを聞くことになるだろう。


 辺境の町も徐々に人間と魔物が共存していっている。


 夜は通路に罠を大量に仕掛け、鍵をかけて札を貼り帰宅。常駐の警備員はまだ雇えない。


「レベル高い者たちは賃金も高いよなぁ」


 自分でやっていくしかなさそうだ。最悪、ホールのカウンター裏に寝袋を敷いて寝るしかない。スタートアップっぽくなってきた。


 アラクネさんの家まで戻ると、ターウが「足痛いよぅ」と泣いていた。

 ロベルト教官にだいぶ走らされたらしい。


「ケンタウロスなのに舐めてんのかって……」

 思わず笑ってしまった。さすがロベルトさんだ。歩くのも辛そうなので回復薬を足に塗り込んでやる。

「あとでアラクネさんからマッサージを受けるといい。筋肉ぶちぎれてるから肉か豆を食べよう」

 干し肉はまだあるので夕食まで食べさせた。


 アラクネさんとエキドナが帰ってきた。エキドナは泊りのセットを持ってきている。


「ただいま」

「おかえり。エキドナ、今日は泊まるの?」

「疲れて、町まで帰る元気がないんだよ」

「なんかあった?」

「高レベルの爺さんたちにコタローが何か吹き込んだでしょ」

「夕方まで戦闘に関する意見交換してたんだ」

「だからか。後半、一斉にやってきて掃除からなにまで全部やってくれたんだけどね。指示くれってそこら中から来て疲れちゃった。コタローのせいなんだから泊めてくれ」

「俺に言われてもさ」

 俺はアラクネさんを見た。


「いいよ。そこら辺に毛皮敷いて寝てなよ。豆のスープを買ってきた。ターウ、訓練で身体が動かないんじゃないかと思って」

「その通りです! 社長!」

「社長はコタローよ」

「名前だけのね」


 暖炉でスープを温め直して、皆で夕飯。暖炉の前の絨毯で車座だ。


「このスープ美味いね。ミノタウロスさんのところ?」

「そう。あそこの屋台、料金設定とか無茶苦茶だけど、味は美味しいのよ。人間の舌に合わせた料理を高くし過ぎなのよね」

「言ってあげれば?」

「周りも言っているんだけど、本人の思いこみが激しいから時間がかかるみたいよ」

「そうなんだ」

「コタロー、私たちにも戦い方を教えてくれよ」

 エキドナが口を開いた。

 ターウはスープを食べながら寝そうになっている。よほど疲れているのだろう。そのまま絨毯で寝てもいい。


「いいけど、まともな戦い方じゃないかもしれないよ」

「そうなの? ラミアとリザードマンがコタローの塾に入るつもりでいるよ」

「私塾? そんなものは作るつもりはないよ。早く強くなりたかったら中央に行くといい。俺と一緒に旅した仲間がいるから、彼らの方が教えるのは上手いと思う」

「ツアーはやらないの?」

「やるけど、野生種の情報がないと出来ないしなぁ。秋までに中央の図書館で調べられればやるけど、ちょっと忙しそうだよね?」

 アラクネさんも唸るように考えていた。


「従業員が足りないのよ。取り寄せる連絡だけでも使役スキルがいるし、信用できる関係性を作らないといけないし、できたばかりだからそれを作らないといけないのよね」

「一つずつ一つずつちゃんと仕事をしていけばいいことはわかってるんだけど、予想できることってすぐ解決しちゃいたくなるよな。でも、急いで大きくしても初期衝動とか仕事の動機とか定まらなくなっちゃって企画が潰れちゃうことがあるから、これもタイミングなんだよね」

「仕事の関係性かぁ……」

「やれるルートはわかっているけれど、じゃあ本業はどうなるんだ? ってなると、疎かに出来ないわけで、信用のおける者に任せるしかなくなる。今は本業が営業し始めたばかりだから、一番お客さんを呼び込んで名前を広げていかないといけない時期でしょ。しかもアラクネ商会って名前がついているから、魔物間なら大渓谷みたいなアラクネの情報局があるってことは知られているけど、人間の社会では知られてない」

「確かにそうだね」

「人間には隠していたようなことだからね」

「当然辺境の町で人間と一緒に暮らしているわけだから、情報の最前線にいる」

「その通り」

「俺たちのやる役割は、今まで密売で成り立っていた商売を正規のルートに変えることができるってことでもあるでしょ?」

「そうだね。そう考えると失敗できないね」

「でもね、町からすれば、というか人間と魔物が敵対していた歴史があるから、俺たちみたいな会社がたくさん出てきて、何回か失敗するのは大事なんだよね。方法論として蓄積されていくから。どこで、どうやったから失敗するのかとかさ」

「失敗が大事なんだ」

「わかっていることが成功するのって当り前だけど、人間と魔物の町を作るような、まだどうなるかわからないことは学びが多いんだよ。成功するにせよ失敗するにせよ、どこに問題が発生したのか、どうやって解決したのか、解決できなかったのかがわかるからさ」

「じゃあ、新しい橋の建設に教会の僧侶たちが要望を言っているのって危ないってこと?」

「何の要望を言ってるの?」

「辺境でなら売れるだろうって、呪物が結構入り込んでいるらしいのよ。だから、教会としてはそんなものを町に入れると混乱の元になるようなものを入れないように、せっかく作り変えるなら橋の下に解呪のまじないを施すようにしたいって言ってるし、役所にも要望を出しているのね」

「ああ、そうなんだ。ダメなの?」

 教会が正しいように見えるけど。


「吸血鬼って言ってしまえば血の呪いを受けた者たちだから、通れなくなっちゃうでしょ。で、言ってなかったけど吸血鬼って人間の国に結構入り込んでいて、病気でどうにも助からないけど生きてないと困るような人を眷属というか同胞にしてたのよ」

「ああ、そういうことあるんだ。じゃあ、教会の要望は通しちゃダメじゃない?」

「うん、そうなんだけど……。どうやって反論すればいいのかわからずに、とりあえず魔物たちが役所を止めている段階なんだって」

「教会は呪いから民を救うためにあるんだろうし……、大変だね。そもそも魔物って人間の国に入れるの?」

 俺は異世界人だから人間社会のことも知らない。

「入れる場所と、見つかったら問答無用で切り捨てられる場所があるわ。辺境の近くは大丈夫だって言われているけど、荷運びぐらいしか行ってないのが現状かな」

「難しい時代だったんだなぁ」


 ある程度正直に話すしかないし、辺境の町では改善していくほかないだろう。


「アラクネ商会の役割重いね」

「今さら」

「自分で言ってたのに」


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