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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
旅の後半戦

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79話「古龍の番人」


 二階層に辿り着くと、床に魔法陣が描かれていた。罠のようなので避けて通る。ガス系の罠が多く見た目は遺跡だが、水溜りに毒が仕掛けられたり、生えていたキノコから炎が噴射したりとアトラクションとしては楽しめる作りになっていた。


「魔物も普通に魔法を使ってくるね」

 ロサリオがゴブリンを弾き飛ばしていた。

ゴブリンは歌で攻撃力を上げているようで、勢いよく飛び掛かってくる。タイミングよく殴ると壁まで飛んでいった。


「いや闘竜門にゴブリンって……、なぁ」

 リオは納得がいかないらしい。

「おかしいのか?」

「一応、ドラゴンの領地では差別はなくそうとしているから、奴隷は禁止にしているんだ。でも、ここではそのルールが適応されない。各地から能力のある魔物を半ば奴隷のようにスカウトしてきて戦わせている。そうやってレベル至上主義や実力主義を熟成させているのさ」

 オークやハーピーなどもいたし、スキルも使ってくる。氷魔法や回復魔法、毒、何でも使ってくるので、確かに強いように見える。ただ、使えるというだけで当たらない。


「戦いの中で使うことに慣れてないのか?」

「いや、そもそも見えてないんだよ」

「精度も同じだ」


 精度とタイミングを集中して伸ばしていた俺たちからすると、何の意味もない攻撃がひたすら繰り出されていた。アラクネの紐を補充しておいてよかった。縛って戦闘不能にできる。


「野生種かどうかを判断するの難しいな」

「殺さなければいいって、今は実力差があるからいいけど……」

「戦闘の実力が拮抗した相手と戦う時は運次第かな」


 声が出なくなる呪いのお札をたくさん使ってしまった。また大森林で補充しないといけなくなるか。


 二階層の階層主はエルフで、常にちょっとだけ宙に浮いていた。部下はいない。罠でも仕掛けているのだろうか。何の意味があるのか目を布で隠している。ハンデかな。


 リオは「あれが闇のエルフだ」と説明していた。

 バトルジャンキーが過ぎて故郷を追放され、攻撃魔法をずっと研究し続けているらしい。もっと深い階層にも行けるらしいが、本人の希望で序盤に出てくるのだとか。

 ドラゴン族の中では有名なエルフで、それほど実力があるわけではないが、古龍に媚びているのだろうという噂だ。


「ここまで来るとはそれなりにできる者だろう? どうだ? 一対一で戦うというのは?」

 目を隠したままの

「あ、はい。いいですよ」

「では、2人のうちどちらが行く?」

 俺とリオは互いに見合わせた。


「いや、3人目がすでに飛び出しています」

「なんだとっ!」


 目を隠していたからロサリオの動きが見えなかったのだろうか。ロサリオはすでに跳躍して天井に張り付いている。


 エルフが一斉に魔法で水球を大量に出した。いつでもロサリオの攻撃を迎撃できるようにしているのだろう。水球一つ一つにそれほど魔力は込められていない。水球に当たれば、何か魔法を放つということだろう。


「どうした? 多重魔法を見るのは初めてか?」


 女のエルフは、ころころと揶揄うように喋るが、ロサリオを認識できていないからか頭を動かしている。


「目隠しを取った方がいいと思いますよ。どっちにしろ動きは捉えられないと思うので」

 リオがアドバイスを送っていた。

「なにを!? これを外せばいかなる幻惑魔法が出るかもわからぬ小僧どもが……」


 エルフは怒っているものの、目隠しを外していた。


「じゃあ、いきまーす」


 天井の岩を掴んでいたロサリオが軽い口調で宣言。宙に浮かんでいた水球が次々に壊れ始めた。


 パシャン! パシャン! パシャン!


「何が起こっている!?」

 エルフが戸惑っているが、俺とリオも槍の先だけしか目で追えない。

 天井と床を高速で行き来しながら、全ての水球を割っているのだろう。


 ヒュピィイイイ!


 ロサリオの口笛が部屋中に鳴り響いた。


 エルフは咄嗟に両手で耳を塞いでいる。足は宙に浮いたまま。

 終わりだ。

 ロサリオの槍の柄がエルフのみぞおちを捉えていた。


「ガハッ!」


 壁に叩きつけられたエルフの口から護符のようなものが吐き出される。

 水浸しだった部屋が急激に冷え、凍った。


「よし、こっからだな!」

 俺もリオも戦闘態勢に入ったが、エルフはそれ以上動かなくなった。


 パリンッ!


 ロサリオがつららを割っていたが、特に罠が発動するということもない。


「終わりでいいのか?」

「いいだろう。毛布だけ掛けてやろう」

 ロサリオは最後まで優しかった。闇のエルフに毛布を掛けて、俺たちは奥の階段を下りていった。



 3階層でようやく大きなドラゴンが現れた。ただ、リオの動きを日頃見ている俺たちにはブレスも尻尾の攻撃も当たらない。


「ちょこまかと動いてもレベルは上がらんぞ!」

 ドラゴンたちが吠えている中、リオが拳でわからせていた。

 突進して向かってくる角が生えたドラゴンも、恐竜のように大きな口を開けたドラゴンも、火を吐くドラゴンも氷のブレスを使うドラゴンもリオには関係がない。

 逆鱗を殴り、腕を取って叩きのめし、羽を掴んで振り回し、顎をひっぱたく。


「無駄にレベルを上げて、威力を落とすからこうなる」


 3階層の階層主に至っては、悲惨だった。叩きのめされた上に、床に穴を開けて埋められていた。


「どれだけ攻撃力と守備力を上げようと、当たらなければ攻撃したことにならない。スピードで躱してるんじゃない。反省して考えてくれ。実力主義者たちよ」


 リオは寂しそうにそう言って、階段を下りていた。

 試験にすら落ちていた憧れの場所が、この程度だったのかと落胆しているのだろう。強さについて考えずにはいられない。


「そんなはずはないのに、自分が強くなっている感覚よりも、相手が弱くなっている感覚の方があるんだよ。おかしいかな?」

「いや、俺もそうだ。結局、骨格や筋肉を成長させても、それを使いこなせないと精度が低い攻撃になっていくんだよな」

「でも、こういう同じ攻撃さえしていればいいという場所なら、仕方ないんじゃないか?」

「きっと闘竜門が今のドラゴン族の本質なんだろう。実力主義を謳っておいて家系主義な理由だよ。精度やタイミングを考えちゃいない。わかりやすく大きいとか魔法スキルが長けているとかじゃないと判断もできないんだ」


 階段を下る俺たちは諦念を感じていた。レベルによって格差があるように見えるが、40レベルを超えた俺たちには意味がある格差には見えない。


 4階層は完全に真っ暗な遺跡で、オリエンタルな龍が天井付近を飛んでいた。


「ようやくって感じだな」

「飛龍狩りと行こうか」


 蜘蛛の巣玉で飛龍を天井に張り付け、観察。鱗によってアラクネの紐は削られあっさり脱出される。打撃と斬撃は固い鱗に阻まれるものの、尻尾を掴んで振り回せば三半規管が狂うようだ。

 火を吐いたり魔法を使ってくるが、威力はない。隙だらけで警戒心も薄い。

 黒いドラゴンも潜んでいて、回避行動をしている。ただ、逃げ方が一辺倒なので、距離を詰めればそれほど強くはない。


 階層主は『スキル封じ』を使ってくる黒い大きな飛龍だった。


「お前たち、スキルで躱しているわけではないのか?」

 回避のいい練習になると思って、ひたすら攻撃を躱し続けていたら階層主に聞かれた。


「そうっすね。レベルが上がってスキルが身についてしまっているかもしれません」

「必殺のスキルなどないのか?」

「これと言って……」


 普通に尋ねてくるので、俺たちも普通に答えてしまう。


「だとすると、この先は厳しいかもしれんぞ」

「そうなんですか?」

「ああ、古龍たちは天候も操るし、まじないと魔法を同時に放ってくる。戦う前に門の入り口に飛ばされることもある。階段を下りた瞬間に戦いが始まっていると思った方がよい」

「そっちの方が俺たちには向いている」

「見たこともない動きをしてくるのだぞ」

「学び生きるのが学生の本分です」


 俺たちが気に入ったのか、黒い飛龍は声を上げて笑っていた。


「なんのために強くなる?」

「衛兵になるため、弱きを助けるためです」

「自分の可能性を見つけるため、そして他者の可能性を広げ、魔物の差別をなくすためです」

 リオもロサリオも立派な答えだ。


「人間だろ? お主は何のために強くなる?」

「俺は……、仕事ですね。『奈落の遺跡』を職場で見つけちゃって、レベル50以上じゃないと入ってはいけないと魔王法典に決められているからですかね」

「では、レベルが50になったら強くなる必要はないと?」

「ないです。レベルが50以上になったら、お客を集めてレベル50以上にするレベルアップツアーを作ろうと思ってます」

「な……、なんだ? どういうことだ? お主自身は『奈落の底』に行くつもりはないのか?」

「ないですよ。危ないじゃないですか。別に巨人とも悪魔とも会いたいとは思ってませんし……」

「世の謎を解きたいとか、魔王になりたいとか、歴史に名を残すとかの業は背負ってないと?」

「ないっすね。辺境に住んでいるんですけど、人間と魔物の町ができていて、差別はなくした方がいいとは思いますけど、別にこれ以上強くなっても意味ないなら、強くなる必要はないんじゃないですかね?」

「そ、そうか。不思議な人間だな。強さを求めていないのに、こいつが一番強いだろ?」

 黒龍はリオとロサリオに聞いていた。


 どう考えてもリオの方が強いと思うのに、二人とも頷いている。


「いや、そんなはずはないですけどね」

「過酷な環境で生き抜いてこそ、強さだとは思わないか?」

「楽しい環境を作り出して、強くなっていった方が続けられるし、遠くまで到達できるのでは?」

「なるほど支配よりも共有を選ぶか?」

「そうですね。どういう意味で言っているのかはわかりませんが、支配をする気はありませんよ」

「この人間は変わってるな」

「「はい」」

 なぜかリオとロサリオが返事をしていた。


「人間の中にはそういう者も現れてくるか……。おそらく3名ともレベル50には達しているはずだ。一度帰って寝てから、この先へ行くかどうかを決めた方がいいかと思うがどうか?」

「ええ、本当ですか。じゃあ、そうします」

「おい、人間。ツアーの最終試験で『闘竜門』を採用しろ」

「そのつもりです。修験者を呼んでくるので、鍛え直してあげてください」

「わかった。古龍たちも暇すぎて苔が生えている者たちもいる。時々、会いにいってやりたいが自分が行くと怒られるから、代わりの者を用意してくれ」

「考えておきます。それよりドラゴン族が実力主義から家系主義になっているらしいんですけど……」

「本当か?」

 黒龍は俺の言葉を信じずに、リオに聞いていた。


「本当です。ここまで来た俺は火炎の一族のはぐれですから」

 そう言うと、黒龍は鼻から思い切り不満そうな溜息を吐いていた。


「わかった。ちょっとその辺で飛んでいる者を地上に向かわせる」

「頼みます」


 俺たちはそう言って、一旦外に出ようとした。


 ガコンッ!


 出口が鉄の扉で閉まった。


「あれ? 帰してくださいよ!」

「ああ、すまん。古龍が一頭、下の階層から出てきてしまった……」


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