75話「ドラゴンの町カルデラ」
翌朝、レベルが5も上がっていた。レベル38。レベルの伸び率がほとんど変わっていない。
「おかしいな」
「俺もだ」
「コタローたちもレベルが上がっているか?」
「ああ。30から上がりにくいはずなんだけど……」
「倒している魔物の数も質もいいからな」
「感覚も使ってるしな」
「だから俺は音や匂いを見るスキルを取ったよ」
「俺も触れただけで、そいつの身体の内部が見えるスキルを取った」
リオもロサリオもどんどん進化していっている。俺も似たようなスキルを取った。
「だんだん鑑定スキルみたいになってきたな」
「あ、それ発生したんだけど、取るかどうか迷ってるんだよ」
ロサリオが普通に相談してきた。
「取ってもいいんじゃないか。一生食いっぱぐれないだろ?」
「強さの数値化って意味があるのか? それこそタイミングや体調変化でかなり変わってくるからさ」
「でも、毒にかかってるかとか呪われているのかとかもわかるんだろ?」
「だとしたら、解毒スキルとか解呪スキルとかの方が役に立たないか?」
「それは薬やアイテムでどうにかなるんじゃないか?」
「ロサリオの場合は種族特性もあるから、歌で癒せるパターンもありなんじゃないのか?」
「そういうこともできるのか……。いやぁ、ちょっとそういう魔物いないかな」
「これは、いよいよドラゴンゾンビ探しをしよう」
つまりドラゴンたちの生息域である火山地帯に行くということだ。
「いいか? リオ」
「2人なら、別に問題はない。問題はないんだが……、たぶん別の事案が発生すると思う」
「どんな?」
「ん~、説明しにくいな……。えーっとドラゴンは建前上、いくつになっても実力主義だ。でも若いドラゴンたちは家系主義。俺たちはすでに、古老のドラゴンたちに会える実力があるから、ちょっと話がややこしくなると思うんだよな」
「そうなの?」
「聞いてるだけで面倒くさそうだな」
「そう。しかもドラゴン族には暗部もあるから、レベルを上げるならそこも触れずにはいられないはずだから……、頑張って立ちまわってはみるけれど、これ以上進むかどうかっていう判断が何回か出てくるかもしれない。自分のできる範囲でいいからな」
「わかった。なんか大変そうだな」
「大変なんだよ。ドラゴンは……。はぁ」
中央にいた頃はバトルジャンキーのようだったリオもすっかり変わってしまった。そのリオが言うのだから、相当面倒なことが待っているようだ。暗部ってなんだよ。
俺たちは旅の準備をして駅馬車に乗りこみ、3日かけてゆっくり火山地帯へと向かった。途中、リザードマンの山賊に襲われたが、俺たちは作業のように討伐。関所で引き渡して、路銀を稼いだ。
御者の馬頭の爺さんは引いていた。
「何者なんだよ」
「中央の学生です」
「火山地帯へは力試しか?」
「里帰りと……」
「魔物探しですかね」
「俺は仕事だよ」
仕事でレベル上げの真っ最中だ。
「へぇ、学生でも強いのがいるんだなぁ」
駅馬車は大きく山を迂回してカルデラ湖の畔の町に到着した。
町の名前も『カルデラ』で、リザードマンやラミア、エキドナなど爬虫類系の魔物が多い。他にドラゴン族と思しき町人も多数いる。皆、ドラゴンの姿ではなく人化の魔法で人型になっているが、目や首筋はドラゴンっぽさが残っていた。
「皆、ドラゴンなんだろ? なんで人型なんだ?」
「いくつか理由はあるんだけど、動きにくいからだろうな。翼を広げるのは仕事をする時で十分だし……。あ、ほら、竜の乗合馬車が飛ぶぞ」
ドラゴンが翼を広げて、馬車の荷台を掴み、空を飛んでいく。
「価格は高いが、どこにでも連れて行ってくれるから便利だろう? 俺もあれで中央の近くまで行ったんだ。今思うと安いけど、当時は高かったな」
料金は金貨1枚。今の俺たちでも払えなくはない。
「鱗の色を見ればわかると思うんだけど、それぞれのドラゴンの種族で違うから、バカにされることが多いんだ。リザードマンより弱い種族なんてことが発覚したら、それだけで一族全員コロシアムで鍛えないといけなくなったりするからさ。家系によっては人化の魔法ができるまで外には出さないみたいな家系もあるし、差別を助長しかねないから皆人型になっている。独特の文化だよな」
リオは本当に複雑な種族だったんだな。
「強くならないと人権というか、生存権はないってことなのか?」
「ああ、そうなのかも。少なくとも、発言権はなくなるね。何を言っても弱者の言葉だから耳に入ってこないんだ。でも、それって普通に差別だよな。今、考えるとおかしいんだけど……」
ドラゴン種に意識はあまりないらしい。商売をするにしても、すべて先払いが基本で、金も払わない者に何を言われても理解できない顔をするらしい。金による上下関係を作らないとコミュニケーションも難しいってことか。すごい種族だ。
「コロシアムで鍛えさせるのも弱者救済ってことなんだけど……。まぁ、独特の価値観だよな」
「行き過ぎた実力主義というか」
「そう見えるよな。でも、ドラゴン種は自分たちのことをカッコいいと思っているし、誇りにしているんだぜ」
「そういうドラゴン種は中央でも見たよ」
「あ、そうだよな」
「普通に宿は取れるんだろ?」
「取れる。お金を先に払えば、普通に対応してくれるから。別に店主も悪気があってやっていることじゃないからな」
「わかったよ」
金はあるので宿で個室を取り、酒場へと行く。唐辛子や山椒などを使った料理が多く、どれも辛い。俺もロサリオも汗だくだくになりながら、スープをすすっていたが、リオは舌がバカになっているのか美味い美味いと言いながら食べていた。
先払いも別に前の世界のファストフード店でも普通だったので違和感はない。サービスされないなんてこともなかった。
掲示板には依頼書が貼られている。
「お前たちはどこかのレギュラーだったのか?」
店主が声をかけてきた。
「ええ。中央の青鬼街とか大森林の大渓谷、ゴーレムの町の職人街でもレギュラーをやってましたよ」
「そうか。なら、いいけど……。ここは火山地帯で、他よりも魔物のレベルが高いから気をつけろよ」
「そっちの方がありがたいですね」
「へっ、言うね」
「火吹きトカゲの討伐依頼はありますか?」
「ああ、結構前のから新しいのまであるぞ」
俺たちは古い依頼書の束を見せられた。依頼達成はしてないが、依頼者が存命中の依頼書を探した。
「これと、これだな」
「2件やるのか? こんな古い依頼、腐ってドラゴンゾンビが出てくるかもしれんぞ」
「それを討伐しに来たんです」
「大丈夫かよ……。火吹き対策だってしないとならないんだぞ」
「俺、火炎竜のはぐれ者なんで大丈夫ですよ。そこら辺は」
「そうなのか……! 言っていいのかそんなこと!?」
「人型では見た目で実力を計らないことです」
「悪かったよ。頼んだぜ」
店主に見送られ、俺たちはドラゴンゾンビ討伐の準備にかかった。
「火吹き対策って何をすればいいんだ?」
「ドラゴンの脱皮した皮でマントを作ってるから、それ買っておけばいい。火は通らないから」
「なるほど……」
「ほら、そこの雑貨屋でも売ってる」
ドラゴンのマントは、めちゃくちゃ安かった。銅貨5枚。炎耐性がついている魔道具と考えると破格じゃないか。
「いいのか。こんな値段で買って」
「あぁ、特産だからな。しかも脱皮した皮を鞣しただけだから、それほど価格は上げられない。よほど古龍の爺さんの新しい皮とかならまだ高くなるかもしれないけれどな。それより、ゾンビだろう? 回復薬か聖水を持って行かないといけないよな」
「ああ、大丈夫だ。薬草屋で材料買って俺が作るよ。コタローも作れるだろ?」
「授業で習ったからな。それにリッチもグールも倒したことがあるんだ」
「そうだったな。不死者には慣れっこか」