74話「感覚勝負で棚ぼたの戦闘」
ボフンッ。
ロサリオが歩くウツボカズラに石を投げてみたが、勢いを簡単にいなされてしまった。
「打撃に強いのか」
スパンッ!
だが、リオがあっさり斬っている。
「スライムの下位互換って感じだな。刃物で十分対処できるんじゃないか?」
「そうでもないみたいだぞ」
歩くウツボカズラは斬られた細胞を再生して、元に戻っていた。ただ動きは遅い。
「ゴーレムたちには倒せないわけだ」
「異常な回復力だな。魔石を取り出すか」
「魔石は茎と根の間にある」
俺は『魔力探知』で魔石の位置を探った。
スッ……。
「おっ、躱すぞ。この植物」
リオが驚いていた。
自分の弱点を攻撃されそうになるとちゃんと回避行動をとるなんて、野生種の癖になかなか味な真似をする。
「まぁ、でも蜜で固めちゃえばいいよな」
廃鉱植物の蜜玉をぶつけて、ベトベトになったところを捌いて魔石を取り出した。
「このくねくねウツボカズラの粘液はなにかに使えそうか?」
そのために樽を持ってきたが、小型の魔物を引き寄せるくらいしか効果はなさそうだ。
「粘着性も低い。やっぱりこの袋みたいな形状で捕まえてるんだろうな」
「これもしかして縦には躱せないんじゃないか?」
「追撃とフェイントを混ぜてみるか?」
観察しながら、どんどん試していく。大量にいるので、実験もし放題だった。
ただフェイントを入れてもかかってくれない。追撃もやはり躱される。
「異常に触覚が鋭いんだ」
「風を読み切ってるのかもしれない」
「順番に斬っていくか。葉っぱ、根っこ、茎で」
「やってみよう」
先に葉を斬っておくと一気に的中率が上がった。
「葉が触覚器官だったのか」
「気配殺して近づくとどうだ?」
「やってみるか」
俺は『忍び足』スキルを駆使して歩くウツボカズラに近づくと、茎と根の間にナイフで切れ込みを入れた。
ポロっとビー玉サイズの魔石が手に零れ落ちてくる。歩くウツボカズラはあっさり枯れていく。
「隠密が正解か」
「気配を殺すって使えるんだよな」
「音、風、振動を止めるかぁ。めちゃくちゃ難しいな」
「音でも避けるのかな?」
ロサリオが笛を吹き始めた。
ピィー!
ゆっくりとだが、笛の音と一緒にくねくねとウツボカズラが動き出す。
「これ使えるぞ。動いている最中なら、タイミングがズレるからこちらの攻撃が当たる」
「なるほど、それはありそうだ」
ロサリオに笛を吹いてもらっている最中に、俺とリオが茎を割いて魔石を取り出していった。小一時間ほどで群生地には枯れ草しか残っていない。買っていた樽も使わなかったな。
「これ、単純なのにめちゃくちゃ効果があるなぁ」
「自分たちの感覚能力を上げるのも大事だけど、対象の感覚がどういうものなのかを観察しないと対策を打てないんだな」
ゴーレムたちは観察できていなかったから依頼書が残っていた。
「ここら辺にいる魔物に対しても同じような観察をやっていけば、もっと楽に対処できるんじゃないか?」
「例えば?」
「ロックスコーピオンか」
ロサリオが、岩石地帯にいるバカでかいサソリについて教えてくれた。
「基本的に鋏で掴んで毒の尻尾を突き刺す大型の魔物だ。鋏も尻尾も強いからマシン族でも腕や足が取れたりすることがあるらしい。一応、常時依頼書も出ているはずだ」
「俺も見たな」
「場所がわかれば……」
そう思っていたら、岩の向こうのバカでかいサソリがこちらに向かって来ていた。
「あれだ。ロックスコーピオン。臭いで来ちまったか」
「嗅覚があるってことか」
「笛も使ってたしな。まぁ、様子を見ながら倒せたら倒そう」
俺たちは、岩の隙間に隠れた。
ドスドスドス……。
ロックスコーピオンは枯れたウツボカズラの中に入っていき、探るように鋏を地面に突き刺したりしている。
「何を探してるんだ?」
「獲物だろう?」
「俺たちじゃないか?」
「「ああ……」」
特に緊張感もなく観察していると、ロックスコーピオンが地面に広がっていたベトベト玉に引っかかり身動きが取れなくなった。
「え?」
「コタロー、いつ仕掛けたんだ?」
「いやぁ、罠のつもりはなかったんだけど……」
罠をかけ過ぎていたからか、いつの間にか『罠設置』スキルが発動していたのかもしれない。
攻撃を受けていると勘違いしたロックスコーピオンは周囲に魔法で岩の壁を作り、体を覆ってしまった。
「いや、こうなるともうどうにでもできるんじゃないか」
「枯れ草もあるしなぁ」
「とりあえず、あの壁を固定しちまおう」
俺たちはベトベト玉を投げまくり、岩の壁を固定。僅かな隙間に枯れ草を突っ込み、蓋をしていく。あとは、リオが燃やすだけ。
「じゃ、行くぞ」
ボッ。
枯れ草が燃えていく。中に白い煙が立ち上っていた。煙が出ているところはベトベトの液体と砂を混ぜたもので埋めていった。
ズゴンッ!
岩の壁の中から音が鳴り響く。
ズゴンッ! ズゴンッ!
杭を壁の周囲に打ち付けて、アラクネの紐で壁が壊れないようにさらに固定した。リオは樽を解体して、壁の内部をさらに燃やしていった。俺も油を追加していく。
徐々に中からの音が消えていった。
「樽もったいなかったな」
「まぁ、仕方ないさ」
「こんなラッキーな戦闘もあるのか……」
俺たちは弁当を食べながら、のんびりロックスコーピオンが燃えるのを待った。
昼頃には、まるで動かず、壁の中にサソリの魔力は見えなくなっていた。
「生きてるか?」
「いや、無理だろう。魔石が胸の辺りにあるから回収しておこう」
「尻尾も討伐部位だろ? 取っておこうぜ」
ハンマーで壁を壊し、順番に解体していく。完全に生気を失ったロックスコーピオンだが、ここのところ植物の魔物ばかりを相手にしてきたので、回復するんじゃないかと警戒してしまった。
隙間から頭部を斬り落とし、胸の魔石を取り出してから、岩の壁を崩した。尻尾を斬り落として死体は地面に埋めておく。
「魔石も大きいな」
思わぬ収穫を抱えて、町へと急いだ。
回収した魔石は酒場一店舗では換金できず、町中の酒場を回り、全て金に換え、尻尾も依頼を出していた薬屋に直接買い取ってもらった。
「俺たち、酒場のレギュラーで生計を立てていけるんじゃないか?」
「たぶん、3人だけなら暮らしていけるなぁ」
「誰かが職に困ったら助け合おう」
「そうだな。2人とも、寝る前に闘技場に出たらどうだ? 別のスキルが発生するかもしれない」
「ああ、行っておくか」
「じゃあ、本当に俺が出入り禁止になるのか試してみようか」
俺とロサリオはコンビとして闘技場に出場。回復していないマシン族の代わりにキマイラという合成獣と戦うことになった。
ただ、キマイラは飼われていた魔物だったらしく攻撃は大振りな上に、こちらの攻撃は躱せないという鍛え方をしていたようで、歩くウツボカズラよりも簡単に眠らせることに成功した。
勝ち名乗りのため腕を上げ、魔石を取り出そうとナイフを構えたところで、飼い主の魔物使いであるセクメトに止められた。セクメトは頭がライオンの女性だ。
一旦、俺たちは離れ、巨大なゴーレムと再戦することになった。防御力の高いゴーレムだったが、足を狙って倒し、アラクネの蜘蛛の巣玉で固定。やはり、こちらの攻撃を無視して突っ込んでくるので、やりたい放題だった。
「俺たち、敵がいなくなってきてないか?」
「そうだな……」
一旦俺たちは試合を中止。賞金だけ貰って、宿に帰った。
「明日、酒場で魔物討伐の依頼を探して、大型の案件がなければ別の町に行こうか」
「ああ。レベルが高くなった弊害が出て来た」
「やっぱり火吹きトカゲの討伐に行くか? はぐれドラゴンが腐ってドラゴンゾンビになっている可能性もある」
「そうだな。とりあえず、明日一日、準備時間にしよう」
レベルが高くなると、戦う場所がなくなるということもあるのか。




