70話「岩場の町」
岩石地帯にはまるで植物が生えていないのかと思ったが、意外にエアプランツという根を張らない植物や低木が生えていて、サボテンの魔物までいる。面白いので観察してしまう。
「コタロー! もうすぐゴーレムの町があるってよ」
街道の先でリオが手を振っていた。ミミックの行商人が大きなトカゲを操り荷を運んでいる。
大森林とは違う生態系があり、ゴーレムや泥人形、機械仕掛けのマシン族なんかもいる。科学万能主義の惑星からやってきた身としてはなぜマシン族が覇権を握っていないのかがわからないが魔法が関係しているのかもしれない。
「ほら、見えてきた」
ミミックの行商人が言うように、前方の岩石の隙間に町が見えてきた。コボルトやリザードマンもいるがゴーレムが圧倒的に多い。喋らないので静かかと思ったが、鈴の音や鐘の音が聞こえてくる。
「こんにちは!」
俺は挨拶と共にジェスチャーも交えてゴーレムたちと会話した。ゴーレムのジェスチャーを知っているというだけで、すぐに食いついてくれて魔石ランプを作っている工房を教えてくれた。
魔石ランプの工房付近は、いろんなランプを売っていた。民芸品として価値が高いのかと思ったが、一般的な宿代と同じくらいの価格でも売っている。
職人街でもあるようで、鍛冶屋や武器商、魔法書店などもある。一店一店見て回りたかったが、とりあえず魔石ランプの工房に挨拶に行く。
魔石ランプの店では、以前辺境で会ったゴーレムたちが働いているのが窓から見えた。特徴的とは言えないが、傷痕や服の模様などで区別はつく。
「やあ! こんにちは」
俺がジェスチャーも交えて挨拶しながら店に入ると、すぐに店員が気づいてくれた。
『辺境の町の!?』
「そう。倉庫屋だよ。元気だった?」
『元気も元気さ』
固く握手をして、リオとロサリオも紹介する。
『学生の旅かぁ。いいね』
「レベル上げの旅さ。もし近くに強いボスがいるような魔物がいたら教えて」
『ボス? まぁ、ボスかどうかはわからないけれど、闘技場もあるし、酒場に行けば依頼を請けられると思うよ。紹介状書いておこうか?』
「頼むよ。青鬼と大森林のレギュラーにはなれたんだ」
『じゃあ、大丈夫だ』
紹介状を書いてもらっている間、奥からランプ職人の親方が出てきた。このゴーレムも辺境に来ていた。
『よう。久しぶり』
「久しぶり。あ、そうだ。ランプの運び方なんだけどさ。スライムを使うっていうのはどう?」
『早速、仕事の話か? 嫌いじゃないぜ、そういうところ。でもな、スライムを使役している荷運び屋ってそういないのさ。使役するなら、他の荷台トカゲとか馬がほとんどだろう。そっちの方が多く運べる』
確かにその通りだ。
「エアプランツを緩衝材にするのはどうです?」
『やってみたことはあるんだが、ランプを入れている箱が雨に打たれて、中身が育ってしまうことがあったんだ。死んだと思っていてもしぶといのが植物を扱う時の難点だ』
「なるほど。いい案だと思ったんだけどなぁ」
『いいアイディアではあるが、やる者がいないのさ』
ということは、ブルーオーシャンではある。
「運輸かぁ……」
『学生なんてやってないで、早いところ仕事に復帰してくれ。こっちは商品作って待っているからさ』
「わかったよ。あ、おすすめの宿を教えて」
中央での失敗から、宿を聞くことにしている。
『闘技場の近くだと観光客も多いから揃ってるはずだ。どこも城みたく大きいからわかるはずだ。意外に値段も安いから行ってみな』
「ありがとう。また」
『ああ、またな』
魔石ランプの工房を出て、周囲を見回すと、一際大きな建物がある方角があった。中央の議会場の縮小版がいくつもあるが全てホテルなのだとか。ゴーレムの町はどうなってるんだ。
「闘技場の近くに大きいホテルが多いってよ」
「あっちだろ? 建築が盛んなのかな」
「道具の店も多いから、建築に関しては進んでいるのかも」
言われてみると、ローブ姿のブラウニーたちの姿も見る。
「それよりも闘技場があるのか!?」
リオたちには、ゴーレムとの会話は半分くらいしかわかっていなかったらしい。
「あるらしいな」
「先に行っておいていいか?」
リオは大渓谷の闘技場で当日エントリーできなかったことがある。
「いいよ。俺は酒場を回ってみる。ロサリオはガールハントか?」
「いや……。ガールってどれだ?」
ロサリオは周囲を見回して、困惑していた。
「動く石像にいるかもしれないぞ」
「そ、そうだな。ちょっと回ってみるよ。いなかったら宿を取りに行く」
「頼んだ」
俺たちは一度バラバラの方向へ歩き始めた。
ゴーレムの町の酒場に酒が売っているのか疑問を抱えながら、町の通りを回ってみた。酒場はあるか町行くゴーレムに聞くとちゃんと場所を教えてくれる。
行ってみると酒場というよりもダンスホールというか、踊る場所のようだ。酒も種類は少なく、マシン族用にオイルなんていうのも出しているらしい。楽器もあるので、音楽もあるらしい。文化は栄えている。
「文化が発展している……」
「いらっしゃい。なんだ? この店に血はねぇぞ」
店主の壺モンスターが器用にカウンターに登って俺に疑いの目を向けてきた。
「吸血鬼じゃないです。辺境からやってきた人間です。青鬼族と大渓谷で酒場のレギュラーになったんですけど、依頼を見てもいいですか? 一応紹介状もあります」
「人間!? そうか。人間と魔物の町ができたって言ってたな。お、これゴーレムの紹介状じゃないか。ほら、ここに貼ってあるのと、こっちは常時やってる依頼だから、どれでも請けていいぞ」
掲示板に貼られているのが新しい依頼で、バインダーに挟んでいる依頼は常設か。見れば植物の被害が多いらしい。ゴーレムたちは毒沼の中でも入れるし、強い魔物と戦うのも厭わないが、錆びることや棘のある植物は苦手なのだとか。
「単純に動けなくなるのさ。生きてはいられるが、なかなか救出に向かえない」
店主が教えてくれた。町の近くにも、奥に大きな植物が根を張り蔓を伸ばしてしまって廃鉱になった鉱山があるらしい。
「植物の魔物はいくら焼いてもなかなか死なない。切っても切っても伸びてくるからな」
「植物の魔物ですか」
「ああ、魔物であることは確かだ。ただ見えていても倒せないこともあるんだよ」
「ちょっと俺たちで試しに調査しに行っても構いませんか?」
「いいよ。倒してくれるならありがたい」
俺は廃鉱の植物調査の依頼を受け、外に出た。
広場を通って闘技場の方へ向かうと、ロサリオが路上で笛を演奏して、泥人形たちが踊っている現場を見た。泥人形たちは不思議な踊りだが、それぞれリズムに乗って楽しんでいる。
ロサリオの演奏もさすがだ。徐々に魔物たちが集まっている。踊りも激しくなり、パフォーマンス代が取れそうだ。
俺はしばらく見てから、闘技場近くのホテルを回った。
一軒一軒がデカいが、ゴーレムの親方が言っていたように宿泊代はそれほどかからないようだ。特に3人部屋になると、一気に安くなる。ただし、上階に行けば行くほど、値段が跳ねあがっていくらしい。
宿泊名簿に種族を書く欄があり、人間と書くと宿主が驚いていた。
「後から、ドラゴン族とサテュロス族が来るはずだから、部屋番号を教えてくれると助かります」
「わかった。いや、遠いところ、よく来たなぁ。普段はどこに住んでいるんだい?」
マシン族の宿主は興味があるらしい。
「辺境の町に住んでいるんですけど、今は中央の学校に通っているので中央に下宿してます」
「辺境かぁ。そういうところは進んでいるよな。ゴーレムの町も楽しんでいってくれ」
物質系の魔物は、いい魔物が多い。
安い3人部屋を取って、荷物を整理。闘技場からの歓声を聞きながら、二人を待った。




