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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
旅の後半戦

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60話「真夏の夜の戦い」


 アラクネの蜘蛛の巣玉を投げつけ、ビッグモスを落とす。『的当て』スキルもあって精確に羽にヒットして蜘蛛の巣が絡みついた。かなり使える。


 ザンッ。


 落ちてきたビッグモスをリオが一刀両断していた。


「え? 二人とも、新武器使ってるのか?」

 ロサリオは焦って聞いてきた。

「ガールハントしているわけではないからな」

「なら、俺も……」


 ロサリオは突然、ズボンを脱いで山羊の足を出した。


 ミシミシ……。


 筋肉の音が鳴る。


 ダンッ。


 ロサリオが空高く飛び上がり、落下しながら近づいてきていたビッグモスを槍で串刺しにする。そのまま地面に落下した。


 一瞬心配したが、ロサリオは笑っている。

 

「種族特性と『跳躍』スキルを組み合わせたハイジャンプだ。問題は伸縮性のあるズボンが必要だってこと」

「機動力が段違いになるな」

「戦術も変わる。もう少し試すか?」

「ああ、もちろんだ」


 スクリーンをしまって、ビッグモスから鱗粉を採取。一頭からでも、丁寧に取ればワインの瓶半分ほど黄色い麻痺毒が取れた。

 ついでに『もの探し』で出生地を探った。


「川の向こうだな」


 川を渡ると、そこかしこに黄色い鱗粉が付いている。大発生とは言わないまでもかなり多いようだ。巨大な花やハチの巣が腐り、身体から水分がなくなり干からびたトカゲの死体なども落ちている。麻痺したまま、血を吸い取られてしまったのか。


「闇夜には音が聞こえるな」

「俺には聞こえないよ」

 リオはレベルが上がって感覚器官が鋭くなっているのかもしれない。

 ただビッグモスの棲み処ではあるようだ。倒木に擬態しているビッグモスの姿を何頭も見える。


 少しだけ森の中で開けた場所があった。戦いやすいのはここだろう。


「とりあえず、罠を仕掛けてしまうから、ちょっと待っていてくれ」

「ああ、わかった」


 俺は周辺の森にアラクネの紐を張り巡らせる。ちょっとでも羽に当たればいい。いかに行動を制限するかが課題だ。


 スクリーンの設置場所を決めて、アラクネの紐を張っていく。追い込むことができればいい。

 あとは落とし穴も掘ろう。羽があるからと言って体勢を崩せば落ちてくる。朽ち木に擬態する者もいるかもしれないから、草場にもアラクネの紐を仕掛けておいた。


「いいか?」

「おう。明りを点けてくれ!」


 ロサリオが魔石ランプに明かりを灯した。レベルが上がって魔力もあるのか、光量が強い。魔石はあくまで電池みたいなもので、使用者の魔力量によって変わるのか。


 周囲の森から一斉にビッグモスの他、昆虫系の魔物が集まってきた。大型犬サイズのカブトムシや牛サイズのクワガタ、幹まで切れそうなカミキリムシ、小さな虫もたくさんいる。


 ブオッ!


 リオが一噴き、炎を吐いて細かい魔物は焼いてしまった。あとは大型の虫ばかり。


 ビョン。


 高く跳んだロサリオが、カブトムシの頭目掛けて槍を突き立てた。


 カツン。


 あっさり跳ね返され、弾き飛ばされた。


「こりゃダメだ! 鋼鉄と同じくらい硬い!」

 昆虫の防御力は生物の中でも最強クラス。大型にもなるとやはりちょっとやそっとじゃ凹ませるのも無理そうだ。


 俺は大型昆虫に構わず、ビッグモスを狙って蜘蛛の巣玉を投げつけていく。羽に絡まり墜落していくのを、リオが刀で切っていく。


 リオは『見切り』スキルも使っているので、巨大クワガタに襲われてもあっさり躱す。ロサリオも飛び跳ねながら、木の枝にしがみついている。


「このままでいいのか!?」

「ああ、そのまま罠に引っかからないように気をつけてくれ!」


 集まってきた昆虫の魔物たちが徐々にアラクネの紐に絡み始める。身動きの取れない相手なら防御力もあまり関係がない。ひっくり返してナイフの刺さる箇所を探していくだけだ。

やはり頭部と胸部の間が弱い。ミスリルのナイフなら取り外すのもそれほど難しくはなかった。


「弱点は頭部と胸部の間だ! 正確に隙間を通せばクリティカルで倒せるぞ!」

「いいね!」

「弱点がわかればこっちのもんだ!」


 俺は足りなくなってきた蜘蛛の巣玉から投げナイフに切り替え、飛んでいる虫たちの羽を引き裂いていく。

ロサリオは地面に落ちた魔物を槍でひっくり返し、リオがとどめを刺していった。流れるような連携ができた。

 戦いの局面は流動的に変わり、一度流れができてしまうとなかなか覆すのは難しい。それが例え予測不能な野生の魔物でも……。


 魔石ランプの明かりが消え、スクリーンに虫が寄ってこなくなったので今夜は終了。


 俺がビッグモスを倒すときに鼻と口を覆っていた手拭いはすっかり鱗粉で黄色くなっていた。川で手拭いと顔を洗い、鼻うがいまでした。


「魔石の回収してきたぞー」

「採取はビッグモスの鱗粉だけでいいんだろ?」

 二人とも魔物の解体をしてきたらしい。カブトムシやクワガタの羽も鎧に使えそうだが、明るい時に回収すればいいだろう。


「助かるよ」


 結局、鱗粉を入れる瓶が足りなかった。


 酒場に戻り、ビッグモスの討伐達成を報告。鱗粉の入った瓶も半分以上は買い取ってもらった。


「カブトムシやクワガタも倒したんですけど重かったんで運べませんでした。欲しい素材があったら朝誰かに行かせてもいいかもしれません」

「わかった。これが報酬だ。うちのレギュラーとしてもランクを上げておく」

「ありがとうございます」


 報酬を受け取り、3人で山分け。路銀にする。



 アラクネ兵の宿舎は、道行く人に聞けば普通に教えてくれた。あと普通に盗賊が襲ってきたが、狩りをしてきた俺たちにとっては絡んできた酔っ払いのようなもので、リオが足払いだけで済ましていた。


「悪いな。今はあまり絡まないでくれ。虫を討伐してきたばかりで五感が鋭くなっているんだ。首を刎ねる動作が体に染みついてしまってるからな」


 夏の夜は、俺たちを一向に冷ましてはくれなかった。

 アラクネ兵の宿舎に入ったのは明け方近くの深夜。井戸で水浴びをさせてもらい、縁側で涼みながらミルクを飲んでいたら、クイネさんが起きてきた。


「どこで遊んでたんだい?」

「ちょっと森で虫取りをしてたんです。夏らしいでしょ?」

「明日は朝から訓練があるそうだよ」

「奈落の遺跡跡に行くんじゃないんですか?」

「訓練も兼ねているらしい」


 仕事をして、いい汗をかいた俺たちはそれも悪くないかと思ってしまっていた。


 

 ガンガンガンガン!!!


 鍋を叩かれて起こされた。

 いつの間にか3人とも縁側で寝ていたようだ。


「深夜の虫取りは楽しかったかな?」

 目の前の庭で、ビキニアーマーを装備したアラクネ隊長が怒りをあらわにしている。

「はい。だいぶ路銀が溜まりました」

「ろ、路銀? 酒場で依頼を請けたのか?」

「我々は40頭ほど昆虫系の魔物を討伐。ビッグモスの鱗粉もこの通り」


 ロサリオは瓶を見せている。俺は天井にレベルが上がったことを知らされて、目が離せないでいた。


「やべぇ、レベルが1上がってる。麻痺毒と毒の耐性スキルが出てるから、少々お待ちください」


 耐性スキルはいろいろあるようだが、『毒耐性』『麻痺耐性』のスキルを取っておいた。それでもまだスキルポイントは余っている。


「いいか?」

「すみません。大丈夫です」

「では、これから、朝道端で酔いつぶれている魔物たちを介抱し家に送り届ける訓練を始めます」

「了解しました」

「それは女性限定ですか?」

「汚物の処理は本人にやらせた方がいいのでは?」

「いいから、やる! 今後、君たちをちゃんと学生として扱うことにしたので、しっかり先輩衛兵の言うことを聞くように」

「わかりました!」


 眠いが、無料で宿を提供してくれているので文句はない。


「聞き分けがいいな?」

「はい」


 サボるかどうかはこちらが判断することだ。


「では、正午前までに娼館街からぐるっと回って、中央広場に行き、下流の『奈落の遺跡』跡まで向かうように」

「地図を見せていただけますか?」

「これだ」


 地図を見て確認。回復薬と酔い覚ましのハーブを持って、俺たちは酔いつぶれた魔物たちを介抱しに向かった。

 魔物のおじさんたちは酔いつぶれていても「帰れるよ」と千鳥足で川へと向かっていく。送迎用の小舟もあるので、そのうち家にはたどり着けるだろう。


「問題は深夜に仕事が終わった娼婦たちだ。喧嘩した者もいれば、ケガをしている者もいる。ケガの痕が残ると店に出してもらえないと嘆く者たちまでいるので、できるだけ仮宿に運んであげてくれ」

「わかりました」


 娼婦は、なかなか町の魔物たちに受け入れられていないのかと思ったが、そんなことはなく立派な商売として発展しているらしい。ただ、ストレスの溜まる仕事でもあるので、女性の衛兵たちが暴行されないよう見回りを強化しているのだとか。


 俺たちはラミアやハーピー、アラクネなど酔いつぶれている娼婦たちを所定の仮宿に預けていった。運ぶだけなので多少酒臭くても別に問題はない。股間をまさぐられても「金は払えませんよ」というと、ちゃんと手をひっこめてくれる。


「おい! そこの堅物!」

 仮宿に運んだら、娼婦が声をかけてきた。


「なんです?」

「いつ、店には来るんだい?」

「行けたら行きます!」

 100パーセント行かない言い訳だ。

「あ、あいつ来ない気だ!」

「心に決めた相手がいるんですよ」

「え? 純愛? 話なら聞くよ」

「別に言わないよ」

「なんでだよ! 聞かせろ! 店で聞かせろ!」


 酔っ払いの相手は仮宿の主人に任せて、とっとと仕事を済ませる。中央の大通りの方で娼婦たちが寝転がっていたからだ。


 心に決めた相手か。一瞬だけ、辺境にいるアラクネさんを思い出した。


「待っててくれているのかどうかだよな」

 いい人を見つけていたら、それはそれで幸せになってほしい。


 一通り、酔っ払いたちを片付けたところで『奈落の遺跡』跡へ向かった。


 観光客なのか、川から団体でウエアウルフの群れがハーピーに連れられてきていた。俺たちもなんとなく混ざってみる。


「はーい。こちらが魔王が帰ってきたという『奈落の遺跡』です」

「何かプレートのようなものがあるようだが……」


 遺跡の門に金属のプレートで文字が書かれていた。


『御身を呪ってはいけない、巨人がそれを作ったのだから

 身につけた御業を悔やんではいけない、悪魔が作ったのだから』


「これは魔王が詠んだ句で今でも解釈が分かれて論争になることもあります」

 観光客を案内をしていたハーピーが説明してくれた。


「ああ、そういうことか」

 俺は異世界からやってきた稀人だからか、魔王の言葉をそのまま受け取った。


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