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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
旅の後半戦

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58/226

58話「今夜の予定は未定にさせてもらいます」


 アラクネ工房を出たのは日暮れ時。大渓谷にあるという「奈落の遺跡」へは明日行くことにして、俺たちは今夜の宿へと向かった。


「我々の宿舎だが、警備はしっかりしている」

「いつ何が起こってもいいように、アラクネ兵に守ってもらった方がいいよ」


 アラクネ隊長もクイネさんも俺たちの身を案じている。


「そんなに強盗とかがいるんですか」

「んー、なんというか、コタローたちは大渓谷に入る前から目立っているからね」

 クイネさんは難しそうな顔をしながら言った。盗賊に狙われていることは否定しないのか。


「どういうことです?」

「夜中に沼を泳いで鉱山村から逃げたことも、オークの村でオークウィザードを倒したことも耳聡い者たちには知られている。つまり、その魔石が狙われているってことさ」


 アラクネ隊長はリオが持っているサンドバックのように大きな袋を指さした。


「じゃあ、換金した方がいいんですか?」

「そうなんだけど、一か所でやると魔石が集中してしまうだろ?」

「じゃあ手分けして……」

「そういうことじゃない?」

 アラクネ隊長とクイネさんは大きく頷いた。


「魔石と一緒に俺たちも狙われているってことですね」

「その通り。依頼を請ける酒場がこの町にもたくさんある。魔石の換金は元より、どうやって溜まっている依頼書を請けてもらうのか、マスターたちが考えているところだ」

「そうなると他のトラブルバスターたちが面白くないんじゃないですか?」

「まぁ、そうなるよな」

 大渓谷にいる盗賊、酒場のマスター、探偵たちに狙われているということか。


「じゃあ、宿に行く前に武器の補充をしておきたいんですけど……」

「アイテムの補充はしていたんじゃないのか?」

「アイテムはあるんですけど、武器がもうボロボロで」

「レベルが上がって力も強くなっているんでなるべく重い武器が欲しいんです」

「俺は使い回しの効く、軽い槍が」

「俺も毒を仕込める爪があるといい」


 3人、それぞれ使いたいものが違う。


「わかった。裏路地だが、知り合いの鍛冶屋がいる。そこならバレにくいはずだ」


 アラクネ隊長は部下たちと一緒に建物の屋根に上った。クイネさんも難なく壁を上っていく。

 上から糸が垂れてきて掴んでみると、屋根の上まで引っ張り上げられた。

 ベランダで美味しそうに酒を飲んでいるアラクネのカップルや歌を歌うハーピーたちが笑いながらこちらを見ている。衛兵が屋根は使うのは珍しいのか。


「悪いが屋根の上を移動しよう。夕方の混雑に巻き込まれると厄介でね」


 道端では仕事帰りのアラクネやケンタウロスたちが狭い屋台で食事をしている。上司が部下に酒を注がせ、女のケンタウロスを追いかけているミノタウロスもいる。仕事帰りの風景はどこも同じなのだろうか。

 

 俺たちは裏路地まで屋根伝いに向かった。ベランダが多いので、歩いていると声を掛けられる。


 ロサリオはうずうずしているはずだ。旅の目的はガールハントと話すこと。これだけ大きな町なら話しかけやすいだろう。


「おっ、珍しいね。ドラゴン族だろ?」

「こいつはもっと珍しい人間族だぜ」

「え!?」

 リオが笑いながら、酔っ払いが持っていた酒の肴をつまみ食いしていた。


「あっ!」


 酔っ払いが声を上げた瞬間だった。


 ボウッ!


 リオが空に向かって炎を吹いた。

 俺は色とりどりの花弁を撒き、ちょっとした見世物をした。

「さあ、今宵もドラゴンの喉が唸る!」

 ベランダにいた魔物たちが拍手を送ってくる。


 俺とリオに注目が集まったところで、ロサリオは雨どいの排水管を伝って地面に下りていた。


「楽しい町だなぁ」


 俺とリオはそのまま、アラクネたちについていき、おすすめの鍛冶屋に向かった。


「ここがそうだ。あれ? 一人足りないんじゃないか?」

 アラクネ隊長が気づいたのは鍛冶屋についてから。


「やつは旅の目的が違うんです」

「サテュロスが女の尻を追いかけるのは種族特性ですよ。我々には止められない」


 アラクネ隊長は呆れたように空を見上げて「とりあえず中に入ろう」と俺たちを鍛冶屋に招いた。

 ちなみにリオにも魔法の修行という旅の目的がある。できれば、闘技場なんかがあれば実戦に行くはずだが、今のところ町に見当たらない。ここまで大きい町なので「まぁ、あるだろう」と本人は高をくくっている。


「いらっしゃい」


 筋骨隆々のゴブリンの爺さんがカウンターの奥にいた。ナイフを研いでいたのか研ぎ石とナイフを握っている。客商売だからか、たくましい白いひげを生やして牙を隠している。


「親父さん、この人間族とドラゴン族の坊やに武器を見繕ってもらえないか?」

 アラクネ隊長は俺たちを紹介してくれた。


「ああ、構わん。今使ってる武器を見せてみな」

 俺はナイフを取り出し、リオは剣を鞘から抜いて見せた。


「こりゃ、使ってるな。最近、たくさん魔物を倒したか?」

「わかるんですか?」

「それがわからなかったら鍛冶屋はやってない」

「オークの群れを討伐したらこの様だ。元に戻るならこのままがいいが、無理そうなら別の武器が欲しい。鉤爪なんかがいいと思うんだが……」

 リオはカウンターに置いた剣の曲がり具合を見せながら鍛冶屋に説明した。


「いや、剣の技術を捨てない方がいい。ただ、両刃の剣ではなく片方に刃が付いた刀の方がいいかもしれん。剣の重さと傷の具合から言って、威力は申し分ないはずだ。そこの樽にあるなまくらをちょっと振ってみな」


 リオが樽に入っているあまり研がれてもいない刀を抜いた。


「腰を使って抜くんだ。そっちの方が剣よりも抜きやすくないか?」

 

 サッ。


 リオが刀を抜く。何度か続けているうちに、抜きながら切れるような気がした。居合の抜刀術か。


「馴染むなぁ」

「そうだろう」

「でもメンテナンスが大変だろ?」

「うちにある刀のレベルなら消耗品と考えた方がいい。何本か手に取って、自分に合うのを持っていけ」


 リオは樽に刺さっている刀を抜いて見始めた。


「お前さんのナイフは戦闘用というよりも、シーフが使っているように見えるが?」

「罠でアラクネの紐を切るのに使ってるんですが、戦闘用はこっちのナイフを使ってるんです」

 俺はミスリルのナイフを取り出した。

「スパスパ切れるんですが、軽すぎて……」

「ミスリルか。打てる鍛冶師も少なくなった。でも悪くないナイフだぞ。どこで見つけた?」

「教官からの貰い物です」

「研いでやるからしばらく使ってみた方がいい。これに慣れてから毒を仕込めるナイフを使った方が楽だぞ」

「そうなんですか?」

「ああ。動きを覚えるには軽いナイフの方がいいんだ。あと戦闘ではナイフで受けに回らない方がいい。罠師ならわかるだろ?」

「罠師としてはそうなんですけど……」

 戦闘に参加するよりも戦術を組み立てた方がいいのか。だとすれば、相手の動きを制限するような武器の方がいい。網や投げ物がいいのか。


「ちょっとこれを見てみろ」

 鍛冶屋の爺さんが、矢じりのようなナイフを見せてきた。今考えている物にはぴったりだ。


「消耗品だが、回収できれば再利用もできる。練習用のも作っているが、どうする?」

「買います」

「俺もいくつか刀を買い取る。やっぱり使ってみなければわからん」

「まいど」


 鍛冶場の爺さんは商売が上手い。

 魔石で支払えるとのことだったので、全て購入。投げナイフと刀を袋に入れてもらった。


「アラクネ隊長からは聞いていたから、もう少し用意していたんだが必要なかったな」

 炎が出る刀や毒を仕込めるナイフなども見せてくれたが、俺たちは素直だったらしい。

「学生だから素直なのか?」

「いえ、技術が伴わないうちに買っても意味がないと思っているだけです。いろいろと試してからまた買いに来ます」

「ああ、わかった」


 外に出てアラクネ隊長にお礼を言った。


「いい品が買えました」

「そうか。じゃあ、宿に……」

「すまないが、ちょっと知見を広げに行ってもよいかな?」

「俺も揃えるものが出てきたので、アイテムショップを巡ります」

「大丈夫。魔石は半分クイネさんに預けておきますから」

「私に!?」

「すみませんが、せっかくなので俺たちは旅の目的を果たしてきます」

「そんな……」


 俺たちはアラクネ兵たちと別れ、町の魔物に紛れた。気配を殺す方法も身につけたい。リオは闘技場探しだろう。俺はアイテムショップで戦闘に使えるものの収集と依頼の動向を探るため、それぞれ夜の大渓谷で単独行動。

 水路を行く小さなボートに相乗りさせてもらって、商店街まで向かった。


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