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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
中央町の生活

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55話「戦いの後の変化」


 昼すぎ、目が覚めるとレベルが12も上がっていた。レベル:29。一回の戦闘と考えると異常だ。思わず「12!?」と叫んでしまった。

 ステータスは急上昇していて、スキル欄は大量に埋め尽くされていて、何を取得すればいいのか全く分からない。ただ、ポイント自体は貯まっているのでいつか使おうと思う。


 起き上がってみると、身体が軽い。いや、筋肉量が増えている気がする。ただ、めちゃくちゃ筋肉痛だ。回復薬を塗り込まないと立てないくらい。アラクネさんがマッサージしてくれていた頃は、なかった感覚だ。しかも、とんでもなく腹が減っている。


 回復薬でどうにか筋肉痛が収まってきたので、ふらふらと立ち上がり井戸に向かう。


「あー、全然止まらないな……」


 リオが自分の身体をこすり、破れたドラゴンの皮を落としていた。周囲には皮が山のように積まれている。


「おはよう」

「ああ、起きたか。おはよう」

「どうしたんだ?」

「脱皮だ。レベルが8も上がってな。俺はドラゴン族だぞ。滅多にレベルなんて上がらないはずなのに、ここにきて一気に上がるもんだから身体が追い付いてないんだよ」

「なるほど。俺も筋肉痛で回復薬を使わないと動けなかった」

「この分だとロサリオも結構変わっているのか?」

「一番変わっているんじゃないか。あ、ほら、便所から出てきた」


 ロサリオは足の筋肉が発達し、背も少し高くなっている気がする。さらに胸板は厚くなり、骨格ががっちりしていた。髭と角が伸びて、青年というよりも中年に近くなった。


「参ったな。レベルが17も上がったらこうなったんだが……」

 入る服がないのか、ロサリオはパンツ一丁だ。

「これでも、今、毛を切ったんだけどなぁ」

 便所で全身の毛を刈っていたらしい。


「レベルって、こんなに上がるものなのか?」

「ん~、俺は前にリッチを単独で倒したときも、これくらいは上がった」

「そうか……」

「なぁ、これってレベルを作った奴らが調整してるんじゃないかな」

 リオが妙なことを話した。


「どういうことだ?」

「あんな化け物を倒したのに、まったくステータスが追い付いていないのはおかしいから、レベルっていうシステムのバランスを取るための修正として、無理やり俺たちのレベルを上げたんじゃないか」

「そういう視点もあるのか」

 強くなったというよりも、身体が世界に合っていったと考える方が納得できるのか。面白いことを考える。


「明らかに強くなったのは、旅の初めの頃に一緒に戦術を考えていたときじゃないか?」

「机上の空論を実戦で証明していっていると考えると、あの夜は強くなるための裏技みたいなものだったのかもな」

「ああ、起きて来たかい? わぁ……」

 クイネさんがほとんど裸の俺たちを見て、驚いていた。


「服が入らないんですけど……、大きめの服ってありませんか?」

「大丈夫。布ならある。持ってくるよ」

「すみません」

「ありがとうございます」


 クイネさんが村からかき集めて来てくれた服を着て、どうにか落ち着いてきた。



「それにしても、随分な変わりようだね。どうしちゃったんだい?」

「レベルが一気に上がってしまったんですよ」

「じゃあ、お腹減ってないかい?」

「「「腹ペコです」」」


 酒場では、俺たちが起きた時用に食事が用意されていた。口当たりのいい煮物とスープ。それからパンに骨付き肉。全てアラクネ兵たちが、村の食糧庫を開けさせたらしい。


 ただ、ものの一時間もしないうちに俺たちは完食。全身に血が巡るのを感じた。


「ウェアウルフの部隊と私の部下が、オークの村跡を確認しに行ったが、ハイオークや希少なオークウィザード、キマイラの死体があったそうだ。これが解体したときに出た魔石だ」

 アラクネの隊長がサンドバッグほど大きな袋を床に置いた。

「本当にお前たちだけで倒したのか?」

「ええ。レベル20にも満たない者たちが一戦で一気にレベルも上がりました」

「だろうな。何をどうやったんだ?」

「タイミングと」

「精度と」

「機転でどうにか」

「死んだなと思った瞬間はありましたよ」

「でも、コタローがその場で戦い方を教えてくれて……」

「俺か? いや、3人でできることを考えて、敵を見定めれば自ずと出てくる戦術です。まぁ、力だとかスピードではどうしても敵いませんから、いかに戦力を削ぐ方法を想像できるかということに集中した結果です」

 罠とかで相手の選択肢を狭めて、タイミングを見計らって、精度の高い攻撃で一気に潰す。俺たちは自分の弱さを認め、できることに集中した。


「それでどうにかなる相手か!? あんな化け物見たことがない。キマイラだぞ!?」

 確認しに行ったアラクネ兵が素っ頓狂な声を上げていた。


「俺たちだって見たことはないですけど、ピンチの時ほど頭が回転するっていうじゃないですか。そんな感じでした」

「つまり倒す道筋が見えたってことか?」

「いや、俺たちが何もしなくても死んでいたと思いますよ。死体を見たならわかると思いますけど、生物としてあの姿はおかしいじゃないですか。あの形状を保てている方がおかしいというか……」

「ほとんど潰れて焦げていたが、あれが動いていたというのはにわかに信じられん」

 ウェアウルフもおぞましいものを見てきたと証言した。

 新兵は昨日から酒場で飲み明かし、潰れているのだとか。悪い夢でも見たらしい、とのこと。俺たちは夢だったら、このレベルは何なんだと思う。


「ああ、そうだ。マスター、美味しいお酒を辺境に送ることってできますか?」

 教官への土産だ。

「もちろんできるぞ。値は張るが」

「依頼達成の報酬から俺の分を引いておいてもらえますか?」

「わかった」

「俺も山岳地帯のドラゴン族に送ってほしい」

「俺も中央の楽器屋に送ってもらえますか」

 リオたちも酒を送ってもらうらしい。

「わかった。行商人が大変だが、命の恩人だからな」

 美味しかったら定期的に購入しよう。


 アラクネ兵とクイネさんは、一日俺たちをゆっくり休ませてくれて、翌日に『大渓谷』へと向かうことに。荷物は戦闘でだいぶ減ってしまった。補充できるものは補充しておきたい。


「もし、よければ毎日出るアラクネの糸を譲ってくれませんか? 撚って強くして罠に使うので」

「わかった。結構あるぞ」

 アラクネ隊長はなぜそれを知っているという表情をしていた。


「辺境でアラクネさんと一緒に住んでいるので」

「そうか。捨てるよりはいい」


 アラクネ兵たちは毛糸玉のように丸めた糸を無料でくれた。お金は要らないらしい。もったいない。


 俺は撚って火で炙り強くしながら、小さな木の板に巻いていった。リオも剣を研いでいて、ロサリオは唐辛子の粉などを買いに行っている。

 それぞれやることが決まっていると、本当に楽だ。旅慣れて来たのか、やることを済ませれば寝てしまう。


「さっきの話どう思う?」

 寝床で天井を見上げながら、リオが聞いてきた。

「レベルによってバランスを保っているって話か?」

「そう」

「レベルが高い魔物を倒すことによって、貰える経験値が増えるというのは理解できるよ。でも、そうなるとここからレベルを上げるのが難しくなるんじゃないか?」

 ロサリオはレベルが30を超えたら上がりにくくなるんじゃないかという。実際、そういう話は教官やアラクネさんからも聞いたことがある。


「つまり自分よりレベルが高い者を見つけるのが大変だってことだよな」

「そのことなんだけど、俺も飯食いながら考えてたんだ。どこにレベルの高い野生種がいるのか」

「思い当たった?」

「オークみたいに野生の魔物でも組織になっているのがいるだろう。社会性があるというか。アリとか蜂みたいにさ」

「ああ、卵を産む女王がいる場合な」

「そういう魔物なら、その女王がボスになるわけだから、レベルは高いんじゃないかな?」

「群れる魔物を探せってことか」

「戦うとなるとかなり準備が必要だぞ」

「そう。だから皆あまりやらないんじゃないかと思って……」

「ちょっと考えてみるか」


 俺たちは休めと言われているにもかかわらず、深夜の戦術会議を開いていた。


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