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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
中央町の生活

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39話「魔物の学校の山登り」


 翌朝、弁当を持って山登りの恰好で学校に集合。ゴブリンやサテュロス、アラクネなどの学生が同じようにコボルト先生を待っていた。


「いやぁ、ごめんごめん。皆集まっているかな?」

 コボルト先生も山に登るブーツを履いてやってきた。

「これ、野生の魔物除けの鈴ね。全員分買ってきたんだ」

 用意がいい。

「あ、彼は人間のコタロー。有名だから知っている魔物もいると思うけど、今回の旅にも付いてくることになったんだ」

 わざわざ学生たちに紹介してくれた。ありがたい。


「コタローです。よろしくお願いします。あと、これ」


 俺はアウラ先生に貰った回復薬の塗り薬を皆に配った。


「この前、授業を途中で中断してしまったお詫びだと頂いたんですけど、こういう時じゃないと使わないので」


 戦闘系の授業は、回復魔法の練習も兼ねていてあまり薬は使わないらしい。


「これ、長持ちするしいいんだよな。虫刺されにもいいし、変な草を触って腫れた時にも使えるから、重宝しているよ。アウラ先生にお礼を言っておいてくれ」

 コボルト先生も持っていた。


「じゃ、街道が混み合う前にとっとと町を抜けよう」


 コボルト先生が先頭になり、学生たちを案内する。

 なるべく店が少ない裏通りを通るので回り道にはなるが、8名が列になると行商人たちの邪魔だ。一々ぶつかったり謝ったり時間を考えるとこちらの方が早く山にはたどり着ける。


 ただ町を出るときは街道を進まないといけないので、荷馬車代わりのメガテリウムの脇を通らないといけない。荷物が揺れたりすると歩いている方は怖いが、メガテリウムを操っている魔物も中央には治安部隊も多いので気をつけているようだ。


 街道からわき道に入り、朝の行商人たちがいなくなって、ようやくラッシュを越えた気分になれた。


「ここからは、道標通りに行けばいいからね」

 コボルト先生は山道脇にある石積みを見せて説明してくれた。

「同じ石積みでも、山道じゃない場所にあるのは古いお墓の場合がある。死霊術師でもない限り近づかないことだ。山は静かな分、安らぎを求めて死んだ魔物もやってくることがある。自分に関係ない遺体だろうが勝手に使いだす輩もいるから気をつけて」

 

 若干、学生たちは引いている。山で、はしゃいではいけないと教えはどの世界でも通用するのか。


「とりあえず鈴だけ腰に付けておけばいい。単独行動しなければ近づいて来ないさ」


 コボルト先生が注意を促したところで、山道をどんどん進み始めた。

 元気があるうちに登ってしまいたいのだろうか。俺はサテュロスのロサリオくんと先生の後ろについて行けたが、他の学生たちが徐々に離れていった。


「少し怖いことを言って引き離さないと、学生たちの体力が付かないんだ」

 後続を待ちながらコボルト先生が振り返った。

「コタローくんは、人間なのに山には慣れているのかい?」

 サテュロスは山羊の足をしているから、山道はそれほど苦にならないとロサリオくんは胸を張っていた。


「この間まで辺境の山の中を、捕まえた猪担いで走り回ってましたから、道があるだけ歩きやすいですよ」

「ああ、そうか。ロサリオくんとコタローくんは、一番後ろからゆっくりついてきてあげてくれ。ここから登りがきつくなるから」

「わかりました」

「了解です」


 山登りのいいところは、方向がわかっているところだ。頂上を目指せばいい。足を出していれば、いつか辿り着く。


 小休止してから再び登り始める。登山が趣味という魔物はいないのか登山客はいない。時々、山の中でドルイドと呼ばれる小柄な爺さんのような魔物が、木を切っているのを見かけた。木が増えすぎると山崩れが起こるので、適度に管理している材木業者なのだという。



「なんで私がこんなことを……」

 ゴブリンの女学生は汗を拭きながら、必死で登っていた。運動不足からなのか、他のゴブリンよりも横幅が大きい。


「ゴブリンは旅好きというわけじゃないのかい?」

「そんなの、おじさんたちだけよ。私たちは町で楽して稼ぎたいだけ。それなのに……」


 ゴブリンの女学生は親から言われて授業を取っていると言っていた。


「でも、宿をやるには、青鬼街は汚れすぎているよ。飲食系も屋台じゃないと無理だし、なにかスキルがないと暮らしていけないんじゃないか?」

「バカな男から金をむしり取るのだってそれなりに話術がないと厳しいだろうしなぁ」


 俺とロサリオくんが言うと、女学生は大きく溜息を吐いていた。


「だから、最近、掃除の仕事を手伝っているのよ。飲食系の店で定期的な清掃の仕事があるみたいでね。スキルだけでも取れたら、青鬼街にはいくらでも仕事がありそうじゃない?」

「あ、それいけるよ」

「そうかな?」

「仕事はしばらくなくならないから、あとは体力をつけてケガしないように気をつければいいんだよ。ただ、楽じゃないと思うけど……」

「料理を覚えるよりは簡単? 難しい段取りを覚えるのは無理なのよ」

 メモリが足りないのかな。


「とにかくきれいに磨けばいいとか、床に洗剤を撒いてブラシをかけることならできるんだけどなぁ」

「吐しゃ物の清掃とかあるけど、嫌じゃない?」

「ああ、そういうのは見慣れているから。爺ちゃんのお漏らしとかいつも片付けてるよ」

「だったら、本当に向いていると思うよ。たぶん、そういう仕事はこれから増えると思うし。応援するよ」

「え、本当? そうかな? あんた人間なのに、いい奴だね」

「早いところ、山の魔物でもぶちのめしてスキル取っちゃえば?」

「ああ、そうする!」


 ゴブリンの女学生は元気よく登り始めた。


「速度が上がったね」

 ロサリオくんが大きな体を揺らして登るゴブリンの女学生を見てにっこり笑っていた。

「不安だと体もなかなか動かないからさ。こっちは、ちょっと背中を押せばいいだけだったね」

「元々体力はありそうだもんなぁ」


 俺とロサリオくんは、徐々に登る速度を上げていった。

 緑香る山は鳥の鳴き声がして気持ちがいい。文句を言う学生もおらず、黙々と登っていた。

 山道はきれいに整備されているわけではないものの、崖崩れなどもなく続いている。ドルイドに管理されているからか、大きな木が多い。


 昼頃には頂上まで辿り着いた。


「長めの昼休憩にしよう」


 コボルト先生は落ちている石と枯れ枝を拾って、火を焚いていた。香草や干し肉でスープを作っているらしい。


「コタローくん、西側の方に下りていった先に、かつて魔王の別宅があったんだ。もう随分使われていないから荒れていると思うけど、屋敷跡があるはずだから休憩中に暇な学生を連れて行ってみるといい」

「行ってみます」


 俺は早々に弁当を食べ終えてしまい、同じくとっとと昼食を食べ終えたロサリオとゴブリンの女学生と一緒に、魔王の別宅跡へ向かった。


西側の山道は管理されていないのか、枯れ葉だらけでよく滑る。


「うぎゃ!」

 ゴブリンの女学生は尻もちをついていた。


「こんな野生の魔物も通らない道なんか歩くから」

「でも、魔王の別宅を見る機会なんかこの先ないかもしれないよ」

「確かに」

 ゴブリンの女学生は理由があれば動けるようだ。尻に付いた土も払わず、ずんずん歩いていた。坂道を下っているので結構危ない。


「こういうところで地方貴族の娘を匿っていたのか……」

 ロサリオが坂を下りながら説明してくれた。

「そうなの?」

「うん。魔王は地方で反乱が起きないように議会ができるまでの間、貴族の娘や妻を人質を取っていたのだそうだ。ただ、議会ができても帰らない娘や妻はいたみたいだけどね」

「女性たちからすれば貴族と縁を断ちたかったのかな?」

「そうかもね。各地から魔物の女性たちが集まってきて、文化も混ざって楽しかったのかもしれないよ」

 種族間で価値観のすり合わせがあったのか。


 枯れ葉が広がり緑の草が伸びている道を進むと、唐突に木々が開け見上げるほど大きな岩が現れた。

 魔王の別宅はその岩の前に建てられていたらしい。今は壁もなく平らな石の床があるだけ。


「なんかいるわ!」


 女学生が叫んだ方向を見ると、黒いローブ姿のホブゴブリンらしき魔物がこちらに向かって手を差し伸べていた。足下がおぼつかず、腐臭がしている。肉が削げ落ちているのに、目玉がらんらんと輝いて見える。


「不味い……。死霊術師が術式を失敗したんだ。どうして魔王の別宅なんかで……」

 ロサリオは物知りだ。


「あのホブゴブリンはどうなってるの?」

「魂が抜けて自分の理性を食っちまったんだよ。齧られると呪われるぞ!」

「逃げよう!」


 そう言って逃げ出そうとしたときには、周囲の森から、一頭、また一頭と呪われた死霊術師が現れた。


「こりゃ、やばい」


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