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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
アラクネさん家

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27話「部屋を片付けてくれる妖精は、屋敷の魔物だった」


「まずは現場を見てもらいましょう」

「ん、あ、うん」

 ブラウニーたちは戸惑いながらも付いてきてくれた。


「荷物があれば、持って行きますけど……」

 アラクネさんは、とりあえず倉庫を見せたいのか焦っていたが、あまり急がずブラウニーたちのペースに合わせることにした。

 魔物たちはそれぞれ体のサイズが違うので、生活リズムも変わる。これに合わせられるかどうかで、倉庫としての信用も変わってくるんじゃないか。


「重い荷物は持ちますよ。俺、『荷運び』のスキル持っているんで」

 ブラウニーたちは遠慮せずに、自分の荷物を俺の籠に入れていった。やはりこの世界ではスキルは重要なのだろう。


 アラクネさんと話しているのは一人だけ、後はそれほどおしゃべりではないようだ。

 耳がとがっていて、身体は小さい。赤い帽子や青い帽子など原色系の帽子をかぶっていて、毛が多い。男は皆髭を生やしているようだ。


「どこから来たんです?」

「北の方から。あなたは?」

「異世界からです」

 俺の答えに、ブラウニーたちはちょっとだけ跳び上がって驚いていた。


「ほ、本当?」

「本当です。だから、あんまりこの世界にいる人間とは違うかも」


 アラクネさんに付いていきながら、俺は後ろの方でブラウニーたちと世間話をしていた。


「花壇に水を上げていたのは、商人ギルドからの依頼なんですか?」

「いや、花が枯れそうで、井戸もあるのに水を上げないから」

「でも花壇の土台を作ったのは私たちだよ」

「土台作りが上手いんですか?」

「いや、ちゃんとした花壇を作りたかったんだけど、途中で作業が遅いって人間の大工たちが仕事を取っていったんだ」

「ひでぇ……」

 ブラウニーたちは俺を見た。意外な反応だったのか。

 話しかければ、ちゃんと返してくれるし、無口というわけでもないようだ。


「見たか? あの花壇」

「見ましたよ」

「ただのレンガ造りで、装飾も何もない。何が面白いかわからんのだが……」

「花壇は咲いている花がメインだから、質素に作ったんじゃないですか? あ、だったら、花に水をやるか」

 ブラウニーたちは大きく頷いていた。


「まぁ、役所のやっつけ仕事なんじゃないですかね。広場は皆通るから、誰かが気づいて水をやるだろうっていう甘えですよ」

「人間は自分たちが作ったものが好きではないのか?」

「好きですよ。ただ、仕事をしていると、お金さえ儲かればいいという人も出てきます。職人気質の人もちゃんといますから、諦めないでください。魔物でも互いを助ける魔物もいれば、襲う魔物もいるでしょ。人間は姿かたちが同じでも、行動や性格はまるっきり違いますから」

「その通りだな」

「行動を見れば性格がわかるか……。そうかもしれないねぇ」

「あ、昼飯を買っていってもいいか?」


 街はずれのパン屋から小麦の焼けるいい匂いがしていた。

「どうぞ、好きなものを選んでください。お代はうちで出しますから」

「いいのか?」

「必要経費です」

 

 総菜パンは少ないが、パンのサイズが大きい。


「果物か何かあればいいと思ったんだが、なかった」

「猪肉の干し肉でよければうちにありますよ。食べます?」

「頂きたい! 肉なんて久しぶりだ」


 倉庫に行く途中、家に寄って干し肉を取ってきた。


「肉は好きだが、滅多に食べることはない。タンパク質はほとんど豆のスープばかりさ」

 タンパク質を理解できるくらいには栄養学が発展しているのか。

「栄養に気を遣っているんですね?」

「私らは身体が小さいから、食べるものですぐに体調が変わるんだ」

「昔ながらの物を食べた方がいいのはわかるんだけど、やっぱり人間の食べ物は美味しいからね」

「ものすごく甘い飲み物があるだろう?」

「たくさんありますよ」

「温かくて、甘くて、酸っぱいやつだ」

「柑橘系のホットドリンクですかね?」

「きっと、それだ。一度、飲ませてもらったんだが、私たちはあれの味が忘れられないのさ」

 この世界にもホットレモンがあるのか。

「茶色のもあるだろう? あれは興奮して眠れなくなるから徹夜仕事の時にはいいのだろうけどな」

 コーヒーかチョコレートドリンクだろうか。粉末状なら保存も利くから、取り寄せられないかな。


「ああ、ここだ」


 話が弾んで、うっかり倉庫を見逃しそうになった。もうちょっと目立つように看板でも立てておいた方がいい。

 アラクネさんが倉庫の脇に荷物を置いて、ひとまず中を案内する。掃除をしたとはいえ、中は土埃もあれば、魔物たちが吐き出した汚れも目立つ。


「手前に3部屋あって、奥は迷路のようになっている。ただ、西側はポイズンスパイダーの巣窟だったから、あまり壁の汚れを触らないようにね。東側の通路は骸骨剣士たちの棲み処だったんだけど、さらに奥に『奈落の遺跡』を発見してしまったの」

「え!? 『奈落の遺跡』があるのかい?」

「ええ。見ますか? 今は罠だらけですけどね」

「だろうね。アラクネさんは罠師か?」

「俺が罠師みたいなもんです。『罠抜け』や『罠設置』のスキル持ちです」

「そうか。東通路をリフォームするときは手伝ってくれ。一々罠にかかっていたら仕事にならん」

「もちろんです」


 とりあえず、東通路以外を一通り見て回った。


「坑木は元からあったものか?」

「そうです。まだ使えると思うんですけど、傷んでますか?」

「いや、立派なものだ。しばらく天井が崩れるようなことはない」

「壁は土壁にするんだろう?」

「そうです。ゴーレムの左官屋さんに頼もうかと思ってるんですが……」

「わかった」

 ブラウニーの職人たちは俺にばかり聞いてくる。振り返ると、アラクネさんはおしゃべりなブラウニーと木材をどこから運んでくるか交渉していた。


「あいつは交渉役なんだ。人間にも魔物にもおっかない奴がいるだろう」

「いますね」

「あんたなら話しやすいから、面倒がなくていいや」

「明りはどうする?」

「それもゴーレムの魔石ランプを使おうと思ってます。松明の方がいいですかね?」

「風の通りは良さそうだから、どちらでもいい。松明なら数が必要だし、魔石ランプなら燃料代がかかる。どっちもそれぞれいいところも悪いところもあるんだよ」

「松明の方が安いけどな。でも、安ければいいってもんでもない。倉庫をやるなら燃えやすい商品も扱うんだろう?」

「そうですね」

「だったら、魔石ランプの方が確かだよ」


 職人たちは見て回りながらいろいろ教えてくれる。


「床はどうする? 板張りか石畳か……」

「どっちがいいですかね」

「どうせなら『奈落の遺跡』の石材を持ってくればいいんだ。あるだろ?」

「あります」

「遺跡のことは冒険者ギルドに知らせてあるのか?」

「今、俺の教官とエキドナがギルドと話し合っているところです」

「そうか。このホールは大きいから、受付を作った方がいいぞ。持ち帰ってきた物を受け取る場所としても使えるし、貴重品を預かる棚も用意してやれる」

「なるほど、それはいいですね」

「冒険者ギルドも出店すると思うけど、薬屋と武具屋の商品は置いておいていいかもよ」

「西通路は、汚れを落としたらすぐに使えるな。あれなら大きい品物も酒樽も置ける」

「じゃあ、手前が日用品の倉庫で、奥は長期保存したり封印したりする倉庫か……」


 職人たちは、どんどんアイディアを出してくれる。


「やってくれますか? 屋敷じゃないですけど」

「あ? ああ、仕事なら請ける」

「別に遺跡に突っ込めとか言わないだろ?」

「言いません」

「向こうも交渉が成立したようだ」

 アラクネさんとおしゃべりブラウニーが握手をしていた。


「じゃあ、木材はドルイドの店でお願いするわ」

「かしこまりました。皆、仕事だよ!」

 おしゃべりブラウニーがこちらに手を振っている。

「おう、もう中は見た」

「とりあえず、隣に小屋を建てさせてもらうから、よろしく頼む」

「どうぞ」


 廃坑道の敷地内なら、外でもアラクネ商会の敷地だ。


「そこら辺の木も貰うけどいいか?」

「ええ、ここら辺一帯は大丈夫のはずです。もしお風呂に入りたければ、山の方に温泉がありますから」

「温泉まで使わせてもらえるのか?」

「副業ですから。井戸はちょっと遠いですが、うちの裏にありますから使ってください。洗濯もできます。干し肉が欲しければ、まだまだありますから言ってください」

「至れり尽くせりだな」


 そう言いながらブラウニーたちは、地面を均し始めた。持ってきた荷物から板を用意して、籠に入れていた金具を取り出し、慣れた手つきで組み合わせていく。

 元の世界でもツーバイフォーという工法があったが、ブラウニーたちの小屋作りはまさにそれで、柱を立て決められたところに板を嵌めていくことでいつの間にか立派な小屋が立っていた。釘はほとんど使っていない。


 外に石窯まで作っていた。


「それじゃ、しばらく厄介になる」

 

 倉庫の横にブラウニーの職人たちが住み始めた。



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