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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
アラクネさん家

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25/226

25話「掃除と町と」


 倉庫の清掃は重労働だった。


「『荷運び』のスキルを取っておいてよかった」

「そうね」


 アラクネさんが紐で魔物の死体をまとめて、俺が外に運んでいく。奥にいた黒ムカデの殻は意外にも冒険者ギルドで引き取ってもらえるらしい。ポイズンスパイダーは討伐部位の牙や目玉を取り出したら、燃やしてしまう。


 骸骨剣士たちの死体に『もの探し』を使ってみたが、光が消えてしまった。子孫はいないか、子孫もとっくに死んでいるのだろう。

 リッチのローブと杖は洗って、鍛冶屋に持って行って鑑定してもらった。


「悪くない逸品だが、どうした?」

 ドワーフの爺さんに言い値で買い取ってもらうことにした。

「リッチを倒したんですよ。あの倉庫の奥にいたんです」

「そりゃ、大変だったな。どこのパーティーが出張ったんだ?」

「俺一人です」

「嘘つけぇ」

「本当ですよ」

「リッチってのは一人でどうにかなるような相手じゃないんだぞ。冒険者だって、人数集めて倒すような魔物だ」

「知ってますよ。それを一人で罠に嵌めて倒したんです。死ぬかと思いましたよ」

「……こいつ、大丈夫か?」

 ドワーフの爺さんは、俺の後ろにいたアラクネさんに聞いていた。


「でも、本当にコタローが単独で倒したんですよ」

「ええ? 誰が見てたんだ?」

「私と、冒険者ギルドの教官二人です。人間のロベルトさんと青鬼族のセイキさんって人が証人です」

「じゃあ、お前レベルが上がったろ?」

「まぁ、それなりに」

「ナイフぐらい持っておいた方がいいぞ」

 そう言って、武器を数種類渡され、リッチの杖とローブは値切られた。俺が持っていても仕方がないので構わない。ただ、ナイフや剣は鋼鉄製の硬いものを貰うことにした。教官のロベルトさんからミスリルのナイフは貰っているが、高価なものなので使い勝手が悪い。


 ついでに倉庫の宣伝もしておく。


「これで、ようやく倉庫が運用できますよ」

「おう、仲間の鍛冶屋や魔法防具店に紹介しておいてやるよ」

 ドワーフの仲間も町で店を持っているらしい。人とのつながりで仕事をくれるのはありがたい。


 冒険者ギルドで、ポイズンスパイダーの討伐部位と黒ムカデの殻を鑑定してもらい、その場で買い取ってもらった。

 それだけでも大銀貨にして20枚ほどになり、一気に小金が増えた。


「そう言えば、ガマの幻覚剤なんですけど、エルフの薬屋さんが来て、アラクネ商会に謝っておいてくれって言ってましたよ」

 冒険者ギルドの職員は、アラクネ商会への報告事項を読み上げた。

「ああ、そう言えば、そうでしたね。でもエルフの薬屋さんは悪くないでしょう」

「そうみたいですね。商人ギルドで偽物を売っていた人は捕まって、今は鉱山奴隷として売られていきました」


 この世界の犯罪人は大変な場所に飛ばされてしまうようだ。


「そうですか……」

「商人ギルドにも行ってみてください。商会の信用を傷つけられて、仕事ができなかったわけですから」

「わかりました」


 冒険者ギルドとしても、商人ギルドに文句を言いたいらしい。

 

「あ、それから、教官さんとエキドナさんが来て、倉庫の奥にダンジョンのようなところが見つかったと伺ったんですが……」

「そうなんですよ。魔物の職員に話せばわかると思いますが『奈落の遺跡』が見つかったから、魔物の冒険者は入れるようにしたいんですよね」

「今、教官たちとギルド長以下、職員たちで会議をしているところです」


 先遣隊を含めて、奈落に行くならある程度探索の技術がいるらしく、特別な試験を設けると説明していた。


「いろいろと忙しいかと思いますが、今後とも冒険者ギルドをよろしくお願いします」

「こちらこそ、お願いします」


 俺とアラクネさんは外に出て、重い財布を見た。


「どうする?」

「大工さんを雇うにしてもね……」

 ちょっと多すぎる。

「とりあえず薬屋さんに行こう。安心してもらった方がいいでしょ」

「そうね」


 俺たちはエルフの薬屋さんに向かった。

店は開いているものの、活気はない。それもそのはずで、中にいるエルフの婆さんは気落ちしたようにタバコをふかしていた。


「こんにちは」

「ああ! こんにちは」

 エルフの婆さんは俺たちを一目見て、タバコの火を消して立ち上がった。


「いやぁ、本当に悪かったね。まさかあんなことになるとは思ってなかったんだよ」

「あれはしょうがないですよ。本物を売り始めた時には偽物が流通してるなんて誰も思いませんから」

「本当だよ。二人も詰所に連行されたって聞いて、私はもう気が気じゃなくてさ。あの時は、すごい吸血鬼やエルフが町に押し寄せて来ていて大変だったんだよ」

「コタローが尋問途中にガマの幻覚剤を売りこんで、すぐに釈放されたからそれほど被害はなかったんです」

「ただ、販売ルートが衛兵を介しているので、薬屋さんに卸せなくなってしまって、申し訳ないです」

「そんな、うちの店なんか気にしなくていいよ。教会で医療の心得がある者に売った方がいいんだからさぁ。代わりに頭痛薬やお香が吸血鬼たちに売れたから、こっちは半年くらい働かなくてもいいんだよ」


 薬屋の評判が落ちているんじゃないかと思ったら、そんなことはなかったらしい。


「彼らは、血管を拡張させる薬とか、リラックス効果のあるお香に興味があるみたいでね。在庫が全部売れてしまったよ」

「吸血鬼たちは長命なんで、お金だけは貯まっているんです」

「そうらしいね。帰り際に、この辺境の銀行に出資するとか言ってたよ」

 この世界の投資家も辺境の町の価値に気づき始めたか。


「それより、仕事できなくて大変だったろ? 大丈夫だったかい? ほら、お茶も薬草もあるから、持って行っていいからね」

「いやいや、ちゃんと倉庫の掃除をしていたんです。奥に魔物がいて……」

「コタローが一人で全部やっつけちゃったんですよ」

「そんなに強そうには見えないけど!?」

「罠です。罠を張ってどうにかこうにかポイズンスパイダーと骸骨の群れを討伐したんです」

「それでも普通の商人ならできないことだよ」

「そうですかね?」

「しかも、リッチと黒ムカデまでコタローがたった一人で倒したんですよ」

 アラクネさんが胸を張った。

「それは、罠を張ってもどうにもならんだろう。冗談も言うんだね?」

「それが本当なんです。私だけじゃなくて、ロベルトさんとセイキさんって冒険者ギルドの教官も証人でいましたから」

「……ええ?」

「廃坑道に仕掛けられていた罠が強力だったんですよ。倒せたのはたまたまです」

「たまたまでリッチなんか倒せないだろう?」

「それは計画を練って魔力を吸い上げてから倒したんですけど……」

「戦術と地形を駆使すれば、リッチほどの魔物を倒せるのか。これまた、戯曲家が好きそうな話だね」

 企業にはストーリーが必要なのか。


「そんなことより、倉庫の奥で遺跡が見つかっちゃって、しかも地下世界の入り口みたいなんですよ」

「そうなのかい!? いやぁ、倉庫をやるなら邪魔だねぇ」


 エルフの婆さんは、倉庫業者の気持ちがよくわかるらしい。


「エルフの方は知りませんか? 『奈落の遺跡』って」

「地底人がいるというのは聞いたことがあるけど『奈落の遺跡』なんて聞いたことないね。魔物の界隈じゃ有名なのかい?」

「ええ、最後の魔王が行って帰ってきた場所なんです」

「そうかい。ああ、勇者の話にも似たような伝説があったね。巨人と修業したとか……」

「そうです。その場所です」

「へぇ~、人間の世界と魔物の世界の共通点もあるもんだね」


 エルフの婆さんはそう言いながら、お茶を出してくれた。


「あれ? その『奈落の遺跡』ってのは、奈落への入り口ってことかい?」

「そうです。だから、魔物の冒険者たちに探索してもらおうと思っているところで……」

「あんまり悠長に構えている場合ではないかもしれないよ。こちらから見れば入口でも、奈落の巨人たちからすれば出口だからね」

「確かに……」

「リッチも倒しちまったと言うことは、門番がいなくなったってことだろう」

 こうしている間にも、奈落の底から巨人や悪魔が湧いて出てくるかもしれない。


「熊殺しの毒はいるかい?」

「はい。買い取ります」

「白亜の塔の図書館に司書の知り合いがいるんだ。魔法や呪いを封じるお守りや呪具があるはずだから、手紙で聞いてみるよ」

「ありがとうございます」


 倉庫業だと思ったら、奈落への防衛最前線だったのか。


「でも、珍しいものが出てきたら、それこそとんでもない利益になるしねぇ」

「そうなんですよ」

「なんだ。引きこもらせちまったと思っていたら、随分、仕事してるじゃないか」

「ええ、だから気にしないでください」


 俺たちはお茶やお香をたっぷり貰って、薬屋を出た。

 早いところ大工を探さなくては。


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