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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
変わりゆく辺境
225/226

225話「レイヤーの違うメタ視点の読み」


 奴隷たちをエルフの町の教会に送り届け、護衛と奴隷商を解放する。


「覚えてろよ!」

「おう。忘れるなよ。辺境のアラクネ商会だ。お前たち海森商会に地下のルートは使わせないと言っておけ」

 捨て台詞を吐く奴隷商には、言伝を頼んでおく。ルートが削られると商会としての売上に響くだろう。他の企業にも地下ルートをバラさないといけなくなる。


「いいのか?」

 ロサリオは夜も開けきらぬ町中に消えていく奴隷商たちを見送っていた。

「ああ、泳がせて様子を見る。どういう戦略を描いているか、だな。どちらにせよ資源戦争はほとんど無意味になる。しかも、ポータルがあれば、こちらが有利だ」

「エルフたちからすれば、レベルが障壁だったんだろうな。11階層を見つけていても、どうやって商人を向かわせたらいいかわからない。そこに俺たちが現れた」

「レベル上げツアーまでしているからな。未踏領域まで踏み込めてしまったんだろう」

「思考の方向性の差か」

「ああ。水竜を育てるためにしかポータルを使ってないってのは、俺から見ればちょっとありえないよな。ララノアみたいな者は手厚く保護しないとダメだろ? あと、クイネさんみたいなまじないの研究者は特にね」

 技術によって文明を引き上げるなら、最先端を研究している者が研究しやすい環境が必要だ。キャッシュフローがあっても、どこに注力しているのかわからない企業には投資できない。


「お、来たぞ」


 折り鶴で連絡を取っていたアラクネさんたちがエルフの奴隷を引き連れて、教会までやってきた。


「宿は引き払ったけど、いいのね? せっかく部屋まで借りたのに」

「いい。また、後で使うから施錠のまじないはかけてきた?」

「大丈夫。そこら辺は抜かりないわ」

「食料は買い込みました!」

 セシリアが報告してきた。僧侶の臨時職員たちは、このあと教会に戻れるだろうか。


「スシャはどう? 薬草類の取引はできたか?」

「ええ。問題ないです」

 ポーション屋のスシャは、荷物をタバサにも持たせている。


「獣人奴隷の奴隷印は消えてる?」

「消えてますよ。逃亡者はなしです」

 奴隷印を消したバネッサが言うのだから間違いない。

 ララノアも荷物を持ってしっかり付いてきている。すでに裏切り者扱いされて町に居場所はなくなっているのだとか。エルフの社会は大変だ。


「じゃあ、獣人の皆さんには悪いけど、もう一度地下を進みます。地上に出られそうなところまで行ったら、地上に出ましょう」

 獣人たちも荷物を背負わされている。携帯寝具と雑貨、それから食料だそうだ。総勢40人ほどいる。


「大所帯だな」

「獣人の領地に帰りたい人もいると思うんですけど、一旦、辺境に向かいます。そこから、どうするか自分たちで決めてください」

「獣人の国には仕事はないぞ」

「だから俺たちは出てきたんだ」

「子どもたちを置いてきたんだけど……」

「どうなっているかはわからん」

 それぞれ獣人たちが話し合っていた。


「とりあえず、地下に行きましょう。日の出には商人たちも起きてきますから」

 教会の牧師は部屋から出てこなくなってしまっている。

 気にせず、俺たちは地下へと向かった。


 岩で通路を塞ぎ、教会から追手が来れないようにしておく。


「後で家を使うんじゃないの?」

 アラクネさんとしては、せっかく家賃まで払ったのにもったいないのだろう。

「ポータルが使えればいいよ」

「あ、そうか」

「たぶん、倉庫代わりにはなると思う。連絡もスライムたちに任せればいい。でも、岩を動かせれば出入りは自由だから」

「レベルが地下のハードルになるって、魔王は正しかったのね」

「そうだと思う。結局、海森商会も浅い階層しか使えてないからな」

 浅い階層の魔物なら、僧侶たちやタバサでも対応できている。


「スライムたちも補助してやれよ」

 青と桃にも魔物討伐を手伝わせる。少しでも経験値が入るだろう。


 半日進んだが、追っ手は来なかった。

「どれくらい海森商会は気づいていると思う?」

 ララノアに聞いてみた。

「把握はしていると思うが、それほど重大だと思っていないさ。むしろコタロー社長はどこまで考えているんだ?」

「このままアラクネ商会を大きくしようと思えば、帝国ができそうだなと思っている。ほぼすべての資源を抑えているようなものだからな」

「帝国……!? 帝国を築こうってのか?」

「いや、それはしない。先人たちの失敗を伝承として残してくれた。それではどうにもならないんだろう。また、天使みたいな者たちが現れて地下に追いやられるんじゃないかな。地上にあって地下にないもの、もしくは、地下にあって地上にないもの、が大事なんじゃないか。陽の光とかさ」

「なんだか大物と話しているみたいだ」

「コタローは大物よ」

 話を聞いていたアラクネさんが胸を張っていた。


「いや、大物にはならないよ」

「どうして?」

「いや、すでに大物だろ?」

 ロサリオまで聞いてきた。


「大物になった人物をたくさん前の世界で見たからな」

 やはり前の世界は情報が溢れていたのだろう。トレーダーとして多くの業界も見れたし、大物実業家、大物政治家、その大物たちの辿った歴史も、見てきた。その上で、俺はそれほど支配欲も金銭欲もない。己の欲の限界が見えていた。

 魔物と人間が手を取り合えば、地上に大陸一の商会を作れるかもしれない。ただ、それは11階層の無限の資源に依存する形で成し遂げられる。資源に依存し、従業員たちを消耗させることになるだろう。

 支配には必須の要素で、悪魔も天使も狙っているのではないか。


「大物にはならないかもしれないけど、巨人については知りたいかな」

 幸いこの世界には、天使と悪魔の二元論ではなく、巨人という悪魔と戦っている者たちがいるらしい。善悪ではなく、第三の視点がある。レベル制でも成長速度に肉体は絡んでいた。


「なんだ、それ?」

「変なことを言う」

 ロサリオもララノアも訝しげに俺を見てきた。

「やっぱりコタローは大物なのよ」

 アラクネさんはそう言って笑っていた。


「前方にリヴァイアサンがいます!」

 バネッサが報告してきた。


「おっ、ようやく追いついてきたかな?」

 アラクネさんが天井に飛び、ロサリオが槍を握って笑った。俺は獣人たちが隠れられる岩場を探した。


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