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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
変わりゆく辺境
224/226

224話「獣人の現状と自分の状況と」


 街のハズレにある家を借り、アラクネ商会はすぐに動き始めた。

 ララノアが召喚術のポータルを作っている間に、アラクネさんとタバサは獣人奴隷を買いに向かう。俺とロサリオは教会の地下ヘ向かい、そのまま交易ルートを奪取。すでに獣人の領地からの奴隷が移動を終えているらしく、ほとんど使われていないようだ。


 教会の僧侶は俺たちが密交易ルートを使うことを、見ていないことにしていた。ストレスは溜まるだろうに。放っておいて、俺達は勝手に使わせてもらうことにする。


 大勢が通った道だから、足跡も付いていてどこまでも辿れる。『奈落の遺跡』ではあるので、魔物も出るには出るが、1階層なのでそれほど強い魔物は見かけなかった。罠も申し訳程度にあるので、全て壊しておく。


「いや、この距離を移動したと考えるとかなり長いな」

「しかも奴隷は皆裸足だ」

 途中、補給物資らしき物の空ゴミが捨てられていた。


「小麦の袋か。パンぐらいは与えないとな。焚き火の跡もある」

「水源が近くにあるのか?」

 

 魔物たちが利用しているような水場があり、俺たちもそこで休憩。こちらを警戒して見に来る魔物もいたが、放っておいた。あまりに動いていないから、群れで襲ってきても対処はできるだろう。


「これ、ずっと1階層を旅してきたのかな?」

「流石に、どこかで降りるんじゃないか? まだ獣人の領地まで結構あるだろ?」

「とにかく『奈落の遺跡』が広すぎる」

「本当、その通りだよ。これ手掘りでここまでは広げられないだろ? 遺跡を作る魔法があったんじゃないか?」

「ああ、もしくは遺跡を増やす魔法とかな」

「そういう事も魔法ならできるのか。まぁ、悪魔なら何でもありだと思わないとな」

「これだけ地下世界が広がっているなら、商人として使わない手はないよ」

「物資も豊富だしな。いやぁ、海森商会からルートの地図でも奪えれば楽なんだけど……」

「10階層にいる奴らを脅してみるか」

「それも、ありか」


 ブシャッ。


水しぶきの音が遠くから聞こえた。

 スライムの「青」と「桃」が、俺たちの後を追いかけてきたらしい。どうやら召喚術師のララノアが必要な情報を書き留めたのだろう。


「相変わらず、お前たちは移動が早いな。ん? どうやって俺たちの位置がわかったんだ? 匂いか?」

 思わずロサリオは自分の匂いを嗅いでいた。実際、旅の間は汚れっぱなしだ。

「いや、探知能力自体が高いのか……。全身センサーみたいなものだからな」

 改めてスライムの感覚の高さに驚いた。俺たちは五感を鍛える方向へ向かったが、スライムたちは性質を取得する方へ向かった。匂いも足跡もすべて情報として感知していけば、統合感知能力のようなものが備わっている可能性もある。


 水を飲みまくるスライムを見ながら、可能性の塊を見ているような気分になった。

 不意にスライム二体が、首を伸ばすように身体を縦に伸ばし、周辺を見回していた。


「なんか見つけたか?」


 俺たちも感覚スキルを発動した。

 二部屋先に、人の気配を見つけた。おそらく複数人いる。普通に歩いていけば1時間ほどで合流できるか。


「奴隷商の商隊かな?」

「じゃないとこんな遺跡の序盤で出会わないんじゃないか」

「確かに……。どうする?」

「地図を持っているんじゃないか」

「了解」

 襲うしかない。


 商隊の護衛がいれば、戦闘不能にして、商人からは地下の地図を奪う。獣人奴隷は解放して、獣人の領地に送り返す。


 商隊の護衛は武器を持っただけの商人だった。背後から、手足をアラクネの紐で縛り、驚いている間に口を塞いで地面に寝かせておく。ハンカチに眠り薬を使う者もいるらしいが、昏倒したままこの世に帰ってこない場合もある。幸い、うちの会社には優秀なポーション屋がいて、沈黙ポーションという対魔法使い向けのポーションを作っていたので、ほとんど外傷はない。


 獣人たちだけが俺たちに気づいていたが、声を発することなく商人について行っていた。


「っふー、終わった」

 ロサリオの一言で、奴隷たちも足を止めた。

 護衛全員を地面に転がし、奴隷商が振り返るのを見ていた。


「地図を持っているか?」

「なんだ? お前たちどこから出てきた!? 地底人か?」

 小太りの奴隷商は俺とロサリオを交互に見て、戦力を測りかねているようだ。

「まぁ、そんなところだ。どうする? 戦うか?」

 奴隷商の背後にスライムの「青」と「桃」が迫っていた。

 

「護衛たちは眠っているのか?」

「いや、喋れないだけだ」

「なら、戦わないとな……」

 護衛たちが眠っているなら、戦闘しなくてもいくらでも言い訳できるが、ここで武器を取らないと後でボロクソに言われるのだろう。奴隷商が大ぶりのナイフを抜いた。


「わっ……! ぷっ」


 次の瞬間には「青」に襲われて、「桃」に身ぐるみを剥がされていた。スライムは服の中にも侵入できるから便利だ。「桃」が地下の地図を俺に渡してきた。


「お、ちゃんと休憩地点もあるのか……。でも、足りてないよな」

「どうする?」

「ここから一番近いのは10階か。獣人の皆さんは帰れないでしょ?」

「え? ああ、はい」

 先頭の獣人奴隷が答えた。とりあえず、商人が持っていたリュックから、食料と水を出して獣人たちに分け与えた。


「海森商会で間違いないよな? リュックにロゴが書いてある」

「逆に狙われるとも知らずに……。あ、食べたら逃げてもいいぞ。ただ、地下はものすごい広いから魔物もたくさんいるから気をつけて。一応、俺たちは時間がかかっても獣人の領地に送り届けるけどね」

 ロサリオが奴隷たちに声をかけていたが、誰も逃げる者はいない。彼らからすれば、ついていく者が変わったくらいにしか思っていないだろう。


「あれ? 帰りたいよね?」

「えっと……、獣人の領地にですよね?」

 奴隷の一人が聞き返し、奴隷たちは全員顔を見合わせていた。


「ん!? どういうことだ? 仕事がないってことか?」

 ロサリオも聞いていた。

「そうですね。あと、家族も別の領地にいますし……」

「獣人の領地じゃなければどこでも……」

「そうか。エルフの領地でなければ、辺境と魔物の国という選択肢もある。でも、俺たちは獣人の領主が奴隷にだけはしないでくれと聞いて、エルフの領地まで来たんだけど、聞いた話とは違うようだな」

 俺がそう言うと、獣人奴隷たちは溜め息と苦笑いを浮かべていた。


「領主は領主です。俺たちみたいな者とは住んでいる場所も見ている景色も違う」

「今、獣人の領地に帰っても仕事はありません。2日でパンひとつでは生きていくのは難しいですから。子も育ちません」

 犬の獣人奴隷が弱い声で呟いた。


「とりあえず、奴隷印を消して、腹いっぱい食べてから考えないか? この奴隷商たちを売れば金にはなると思うから」

 奴隷たちはちょっと笑って立ち上がった。

「エルフの領地に戻るのか?」

「ああ、そうしよう。途中で水場もあったから魔物の肉は手に入るだろう?」

「わかった」

 護衛たちの手首と身体を縛り、縄の先を奴隷に持たせる。ポーションの効果が切れれば、喋りだすだろうが武器は取り上げているし、俺とロサリオが逃がすようなこともないだろう。


 総勢21人の奴隷たちを連れて、来た道を戻り始めた。身ぐるみを剥がした奴隷商だけはうるさかったので、サンダルだけ履かせておいた。


「ちくしょう! 俺だってこんな仕事やりたいわけじゃないんだ。お前ら、海森商会に喧嘩を売ってただで済むと思うなよ」

「ああ、今、海森商会から回収しているところだ」

「早いところ、強いやつを連れてきてくれ。魔法使いでもなんでもいいぞ。お前一人に、王都から誰か来るのか? エルフと聞いて、こっちは期待していたんだけどな。魔物の国にいるエルフよりも弱いと困るんだよ」

 ロサリオは自分の能力を最大限発揮できなくてストレスが溜まっているらしい。わからなくはない。結局、レベルが上がった後、何をするかが大事だ。のんびり暮らすのもいいが、強い者を探し求めるのも人情だろう。単純な戦闘力だけでできることは案外少ない。

 自分の限界が見えているだけに、限界を突破する何かを常に探しているような感覚なのだろう。


「いかれてやがる」

 奴隷商はそれ以上喋らなくなった。話しても通じないと思ったのだろう。


「兄さんは、同じくらい強いのだろう?」

 縄に繋がれた護衛が聞いてきた。


「ん?」

「エルフは弱いのか? エルフの領地にはなにもないか?」

 耳がちょっと尖っているから、混血なのかもしれない。


「リヴァイアサンレースはあるし、魔法は発展しているし、別になにもないわけではないんじゃないか。独自の文化もあるんだろうとは思うよ。ただ、俺は異世界から来た稀人だ。視点がちょっと違うのさ。俺たちが今地上で見ているものは、表層だろうな。たぶん、もっと地下に行けば、もっと面白いものが見えると思う。ほら、向こうに蝙蝠熊がいるだろ? あんなの地上で見たことあるか?」

「え!?」

「やべぇ! 逃げろ!」


 奴隷たちが慌て始めたが、俺とロサリオはどれくらい蝙蝠熊がいるのか探る。


「たぶん、群れだな」

「逃げてきたか。蝙蝠熊を襲うような魔物だから大蛇か大鼬か……。こんな上階層まで来るなんてな」

「あ、大蜥蜴だ。恐竜みたいなやつ」

「飛べないドラゴンか……」

「リバイアサンか!?」

「逃げろ!」

「縄を問いてくれ!」

 護衛たちも慌てふためいているが、俺たちは魔力を練っていた。射程距離に入ったところで、まずは蝙蝠熊を天井から落とす。


 グゥウアアア!


 頭にナイフが突き刺さった蝙蝠熊が天井から落ちてきた。蝙蝠熊を追いかけてきた大蜥蜴が口を開いて、バクリと食べた。


「人の獲物を盗るんじゃない……」

 ロサリオは走り出して、大蜥蜴の尻尾を槍で切った。


 ギィイアアアアッ!


 洞窟に響き渡る魔物の声に、奴隷たちは耳をふさいでいる。尻尾を切られて慌てている蜥蜴なら、それほど怖くはない。腹には蝙蝠熊が丸ごと入っているから動きも鈍い。

 俺はナイフで大蜥蜴の首に切れ込みを入れて、目くらましの砂を大きな目にふりかけておけば、壁に頭をぶつけて昏倒する。



 ドスンッ!



「よし、夕飯獲れたぞー!」

 天井にへばりついていた蝙蝠熊の群れはすでにどこか遠くまで逃げていた。


 解体して、魔石と肉を持って行く。ついでに腹の中の蝙蝠熊も解体した。休憩できる水場で肉を焼いて、全員に振る舞った。奴隷商が塩を持っていたので、ちゃんと味もある。


「いくらでも食べていいからな。あとで、切り出せばいいから」


 奴隷たちも護衛たちも肉にかぶりついていた。


「これが日常になるとな……」

「ロサリオ、俺たちは地下に潜るしかないのかもな」

 レベルが上がると地上での行き場を失う。なかなか自分を活かすのは難しい。


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― 新着の感想 ―
だんだん複雑になってきたというか、良くわからなくなってきたというか、話の速度が遅くなってきたと言うか、何を目指してるのかこの話は狼と香辛料みたいなのを書きたいんだろうか? 狼と香辛料は一巻毎に商業のシ…
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