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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
変わりゆく辺境

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223/226

223話「巨大企業と戦う方法」


 ララノアは荷物をまとめ、浜場の社長とも話をつけて、俺たちの前に立った。


「被害額の分だけ働いて返す。200年でも300年でもエルフは生きるからね。まぁ、まだ寿命は来ないさ。それで勘弁してもらえないか」

 寿命で払おうとしているらしい。


「被害が出ているのは、俺たちじゃなくて魔物の国にある群島の魔物たちだ」

「そうだろうな」

「今までの額を返すと言っても、無理だ」

 ロサリオが告げた。

「では、殺すか? 金にならんぞ」

 腹をくくったエルフは、面倒だ。

「どうせ、誰も納得はしない。そのかわりに未来へ富を残す他ないだろう。知識の全てと残りの寿命は貰う。ただ、奴隷になれということでもない」

「ん? なんだ? まさか愛人にでもなれと?」

「いや、臨時の社員だ」

「そうか。わかった。こちらとしても都合がいいが、いいのか?」

「いいよ」

「で、なんの会社をやっている?」

「辺境でアラクネ商会という倉庫業を営んでいる」

「倉庫か。儲かるのか?」

「まぁ、海森商会の縄張りを荒らせる程度には」

「おい。海森と敵対するつもりなのか?」

「奈落の地下では、俺たちのほうが販路は広いよ」

 ロサリオが胸を張っている。

「地下? やっぱり海森の奴らは裏ルートを確保しているんだな?」

「知らされていないのか?」

「末端の魔法使いが、教えてもらえるわけがない」

「従業員はそんなにいるのか」

「そりゃあな。関連会社のエルフだけでも1万人規模だと言われている」

「じゃあ、潰せないか……」

「え?」

「いや、地下の規模からいえば潰せそうだったんだ。でも、リヴァイアサンレースを取り仕切っているところを見ると、表の商売のほうが上手くいっているのだろうな」

「ニセ薬に人身売買で、どれだけ儲かってるんだ?」

「私に聞かれてもわからないよ」

「本部はどこにある?」

「白亜だ。ここから西に行った世界樹の枯れ木がある。化石化して真っ白だ。だから白亜」

 ララノアはちゃんと説明してくれるな。知らないことは本当に知らないのだろう。


「ポータルの技術を教えてほしい」

「魔道具のスキルを取って、空間魔法の魔法陣を彫り進めていけばいい。時間はかかるし、周辺の魔力を一気に集めるから運用は難しいんだけどな」

「自分の魔力ではなく、周辺の魔力を集めていたのか?」

「その通り。だから、自分の魔力は必要ない。吸血鬼が血を集めるのと変わらないさ」

「魔力ドレインの魔法か……」

 ロサリオは納得していた。

「時々、地下から魔力が湧き出てくるスポットがあるだろ? 周期を調べて、ポータルを置いて運用しているのさ」

「なるほど、いつでも転移できるってわけでもないのか」

「そうだ。いつでも転移させられたら、商売がぶっ壊れるだろ?」

「ああ、コタローは商売をぶっ壊している最中だ」

 ロサリオがそう言うと、ララノアは俺を訝しげに見ていた。


「俺は召喚術を使うんだけど、特定の魔物の召喚術ってあるだろ? あの魔法陣ってあるよね?」

「あるにはあるけど、契約していないと難しいぞ」

「契約した魔物を呼び出す魔法陣は書ける?」

「ああ、魔法陣の周りに制約を作ればいいから、出来なくはないが……」

「難しい? 時間がかかるとか?」

「いや……、それほど時間はかからない……」

 ララノアは俺たちが何をするのかわかっていないから、不安なのかもしれない。


「俺が使役しているスライムを召喚したいんだけど?」

「スライムの召喚する魔法陣なら、簡単だ……。半日もかからないと思うが……」

「よし、終わった」

「終わりだ……」

 俺とロサリオは、ほとんどの商売が高速化する未来を予測した。


「何が終わる?」

 ララノアは恐る恐る聞いてきた。

「今までの商売かな」

「ほしい時にタイムロスがなく商品が手に入るようになる。あとは決済方法だな。しばらくは信用のある商店としか取引できないが……」

 そこまで考えて、そもそもアラクネ商会は倉庫だったことを思い出した。鍵の割符でも作ればいい。後は配達だけ。獣人が大量に売られていることを考えると、人員の補充もできる。

 それより人道支援が先か。


「とりあえず、この町で倉庫を借りよう。あと教会からの地下ルートを全部乗っ取るか」

「おおっ。やるかぁ。でも、やることはそれくらいだな」

「人員増員で獣人を買おうか」

「ああ、そうする? 反乱でも起こせそうだけどな」

「ガマの幻覚剤をスシャに解析してもらおう。ポーションで増やしてもらえれば……」

「ああ、なるほど、そうしよう」

「何をするんだ?」

 ララノアはまだわからない。説明するのは、後にしよう。

「ある程度、町のエルフには客になってもらおう。あとは、獣人奴隷たちがどうやって連れてこられたかで、だいたい決まるな」

「わかった」

「だから、私は何をすればいい?」

「黙って、言われたことをやってくれ。それが借金を返すことになる。とりあえず200年分は覚悟してほしい」

「うっ、わかった」


 そのまま、入り江から町へと戻り、宿で全員と合流。臨時職員としてララノアを雇った経緯を報告した。


「ララノアにはスライムの召喚術のポータルを作ってもらう。重量の制限はなし、個体別の制限を作ってほしい」

「だから、どんなスライムなんだ?」

 せっかくなので、スライムの「青」と「桃」を召喚して、見せてやった。

「確かに……、これなら個性はあるな……」

「とりあえずこのスライムの召喚術のポータルを作ってくれ。石を削るのが難しいなら羊皮紙でもいいし、木材でもいい。道具が必要なら、買ってくれ」

「わかった」

 ララノアはすぐに取り掛かっていた。


「スシャはガマの幻覚剤の解析をして、増やしてエルフたちに売れるようにしてもらえないか」

「天然由来ですから、難しいんですよ」

「副作用がなく鎮静化が出来ればいいということですよね?」

 セシリアが聞いてきた。

「ああ。僧侶二人はちょっとスシャを手伝ってくれると助かる」

「わかりました」

「一応、結構重労働を覚悟してくださいね」

「大丈夫よ。私たち、レベルは高いから」

「あ、そうですよね」

 

 スシャたちには、売り物を作ってもらおう。


「アラクネさんとタバサは俺たちと獣人奴隷たちの就労支援だ。奴隷商か奴隷本人からなにか聞き出せた?」

「いや、予想したとおりだよ。獣人の領地で誘拐されて地下道を通ってきたみたいだ。地下道の場所はわからなかったけどね」

「教会の地下で見つけた」

「あ、そうだったの」

「数人の奴隷を買って、俺たちで地下のルートを乗っ取ろう。隠れてやっているんだから、獣人の領主に話をつけてもらって、仕事がなかったらアラクネ商会の現地配達員をやってもらおうと思ってる」

「ああ、そうか。獣人の領主からエルフの領主にクレームの手紙が届ければいいのかな?」

「そう。無理に争う必要はない。海森商会を潰すのにも、人数多くて面倒だから」

「了解」

「カタログかなにかあるといいね」

 アラクネさんはすでに商売を考えているようだ。

「最初はエルフの信用できる商店としか取引しないようにしよう」

「わかった。クイネ先輩には連絡しておくわ」

 折り鶴で連絡を取っている姿に、ララノアは驚いていた。


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