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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
変わりゆく辺境
218/226

218話「戦闘の戦術と討伐の戦術」


 衛兵たちはゴブリンたちに対し、「よし」とか言いながら突っ込んでいこうとしたので「ちょっと待て」と声をかけた。


「集団とは言え、ゴブリンだから、なんとかなるだろうと思わないで、せっかく訓練なんだからちゃんと戦術を考えて動こう」

「戦術って固まって盾で防ぎながら、徐々に押し上げるとかですか?」

「ああ、まぁ、そうなんだけど、ゴブリンだって動くからさ。闘技場じゃなくてここはマングローブの森だ。環境や状況をうまく使うのもいい。とにかく、誰も怪我なく、なるべく誰も疲れない方法が良いんじゃないか。ここだけじゃないんだから」

「ああ、そうですね……。誰も疲れないって難しくないですか?」

「うん。だけど、夕方まで戦い続けるんだけど、自分たちの体力がどれくらい持つのか、自覚している?」

「いや、それは……」

「やってみないとわからない?」

 ロサリオが聞いていた。

「そうですね」

「わかった。じゃあ、まぁ、いい。俺達の戦い方を見ていてくれ」

「はい。わかりました」


 衛兵たちの訓練は置いといて、俺達は普通にゴブリンの群れを討伐することにした。やらせるよりも、見て考えさせた方がいい場合もある。

 俺達はちょっと集まって打ち合わせをする。

「基本的に、セシリアの狂乱魔法が決まれば、終わりだ。なんか使いたい毒はあるか?」

「あります。混乱のポーションと強毒性のポーションを作ったんですけど、罠をしかけられないですか?」

 俺は鞄の中にある魔物の胃袋を探した。


「あ、いけるぞ。効果を試すか?」

「お願いします」

「他には?」

「じゃあ、私は毒が回るように、矢を打ちながら風を遺跡の周りに固めるよ」

 タバサも風魔法で援護してくれるらしい。

「私も援護で。ゴブリンシャーマンやゴブリンメイジなどの魔法系のゴブリンが出てきた時に、武器や防具の解呪と目くらましを中心にやっていきます」

 バネッサも戦闘の補助だ。


「じゃあ、アラクネさんと俺でとどめを刺していくよ。いい?」

「いいわよ。コタロー、ナイフ貸して」

「はい」

 アラクネさんはマングローブの曲がった枝を折り、先にナイフを括り付け、不思議な形状のやりを作っていた。


「首に引っ掛ければ、死ぬと思うわ」

「じゃあ、俺が罠を仕掛けてから、幻術の方頼むわ」

「了解です」

 セシリアの返事を聞いて、俺は遺跡の周りに罠を仕掛けにいった。ポーションを魔物の胃袋に入れて、踏むとガスのように噴射する罠だ。水面の下に隠せばいいので、かなり楽だ。


 後は、セシリアが幻術をかければ……。

 ゴブリンたちのねぐらである遺跡周辺に不自然な霧が立ち込め始めた。さらに霧の中に杖を向けて幻惑魔法を放っていた。


 グゥウアアアッ!!


 大きな雄叫びのあと、なにか殴る音が聞こえてきた。

 目が血走ったゴブリンが霧の中から出てきた途端に、罠にかかり毒を吸い込んで、そのまま泥の中に前のめりで倒れた。ロサリオが槍で、喉を突いてしっかりとどめを刺していた。その後も出てくるゴブリンは罠にかかり続けた。

 タバサが風をコントロールしていたので、霧はずっと晴れることなく、遺跡の中にいるゴブリンたちの魔力が消えていくのを見ていた。


 ロサリオとアラクネさんは、倒れているゴブリンの急所を狙って仕留めていく。ほとんど作業だ。


「魔力を見ることができる人がいれば、遺跡内の魔力を確認してみて。消えていっているのがわかると思う。それがゴブリンです」

 俺は、衛兵たちにも説明した。


「今、最後の大きな魔力が消えました!」

 衛兵の中にも選りすぐりの魔法使いがいたらしい。


「見て分かる通り、誰も無理してません。魔力もセシリアが幻惑魔法で使ったぐらいです。それぞれの試したいことをやっているだけなので、別に疲れるようなこともありません。疲れても、魔力を回復させるポーションも用意してあるので、それほど問題はありません。こんな感じで、できることを小さいことに思えても、それぞれがちゃんと実行していけば、成果は出ます。今回の相手は成果だけ追い求めても仕方ないのでいろいろやりましたが、考えもなく突っ込まずに、やれることをやっていきましょう」

「わかりました。戦闘の戦術ではなく、討伐の戦術ですね」

「そうです。殲滅の戦術、足止めの戦術、交渉のための戦術、目的もいろいろあると思うので、どうであれ一度自分の頭の中で組み立ててみてください。じゃあ、討伐部位の切り取りを手伝ってください」


 人数もいるので、討伐部位はすぐに集まった。お宝らしいお宝はほとんどなかったが、遺跡の奥にいたゴブリンシャーマンの首飾りや呪われた杖が手に入った。バネッサが解呪して袋に詰め込んでいた。後で、辺境に送ることになるだろう。


 その後の依頼は、なるべく訓練のため衛兵にやってもらったが、これまで補助魔法や搦め手、罠などを使ったことがないらしく、かなり戦術が限られていたが、辺境からの取り寄せアイテムの使い方を教えながら、訓練を進めた。


「目つぶしくらいは使えるようにしたほうがいいよ。戦術が一気に変わるでしょ?」

「そうですね! 相手の観察を怠っていました」

「近寄らないと攻撃が通用しない相手には、麻痺とか毒の遠距離攻撃をして、弱らせてからのほうが、戦闘がものすごく楽になるよね?」

「楽です! 全然違います。誰も怪我してないし、討伐のスピードもまるで違うので、目からウロコでした」

 砦長だけでなく、参加した衛兵たちからも声を聞けた。


「ちゃんと討伐していくと、武器の使い方も変わってこない? 大きな魔物だったら、どうやって部位を削るのか、仕留め損なったときの相手の攻撃範囲からの離脱するのか、一度の攻撃がダメでも、何度でも挑戦するつもりで攻撃していくと意識も変わるからね」

「そうですね。魔法使いの私はいつも大技を使おうとする意識が合ったんですけど、戦局を変える必要なんてなかったんですね」

「我々は勇猛さや情熱を傾ける方向を間違っていたのかもしれませんね。もっと戦術だけでなく、アイテムや使う武器も考えてみます」

 砦長がそう言うので、町の入口にあった鹿のマークの武器屋は儲かるだろう。


「じゃあ、日が傾き始めているので、マングローブのトレントの討伐を片付けていきましょう」


 俺達はさらに深い森へと向かった。


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