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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
変わりゆく辺境
214/226

214話「川辺のトリデ町」


 川辺の街、トリデ町には冒険者が集まっていた。交易拠点だから、護衛の冒険者もいれば、周辺の魔物から街を守るため、はたまた商品になる薬草毒草を採取するために、冒険者という便利屋が必要なようだ。


 俺たちは旅してきた新規参入者なので、ほとんど冒険者の仕事にはありつけないだろう。アイテムショップにスシャが作ったポーションとアラクネの糸玉を卸しに行くと、ちゃんと買い取ってはもらえる。スシャが集めた薬草と毒キノコも広場の隅っこで販売できた。


「やはりアラクネさんは目立ちますから、お客さんが寄ってきますよ」


 まだ仕事をして普通に喋れる魔物が珍しい土地だと、注目を浴びる。


「夜に砦の地下で闘技会が開かれるんだが、出てみないか?」

「得物は何を使う? 闘技会に出ないか?」

 ロサリオは冒険者ギルドの職員にも衛兵にも誘われていた。新しいもの、珍しいものへの興味はあるらしい。


「ロサリオがわざわざ出る必要はない。私が出るよ」

 タバサはセシリアからメイスを借りて、腕試しをするという。


「とりあえず、冒険者と衛兵には我々と同レベルの者はいなそうです」

 バネッサが教えてくれた。解呪をしているうちに呪いの種類を特定できるようになり、魔力量を計るスキルも取ったらしい。それによってレベルも、およそ見当がつくのだとか。


「指輪や腕輪で隠している奴もいるだろうから、気をつけるようにね」

「そういう隠している人の魔力はコタローさんのように形がはっきりしているのでわかりやすいんですよね」

「え? 俺、魔力の形がはっきりしているの?」

「下腹部に抑え込んでいませんか? スライムのように丸い形をしていますよ。だから、スライムも懐いているのだと思っていました」

「そう言われてみると、そうかも知れない」

「ということは、もしかしてバネッサはどういう魔法が飛んでくるのか、魔法の方向性なんかもわかるの?」

 ロサリオも興味が出てきたらしい。


「もちろん、わかりますよ。お二人ともわかっていて躱していたわけではないんですか?」

「うん。見て躱していた」

「そっちのほうが難しくないですか?」

「魔物の学校で、ダンスと武術の授業があってさ。俺たちはずっとやってたから、視線と足の動きから攻撃を予測する感覚が鋭いのかもしれない」

「スキル屋さんが言っていたスキルやレベルで測れない感覚ですか? やっぱり、鍛錬って大事なんですね。やっぱり私たちも出ようかな」

「闘技会に出るの?」

「ええ。なんでも経験しておかないとスキル向上にならないので」

「だったら、あれ使ってみない?」

「あ、使う?」

 セシリアとバネッサはメイスに変わる新しい武器を使うようだ。


「何を使うんだ?」

「杖です。魔力を通しやすい素材を中に入れると、魔法の方向性も定まるし便利なんですよね」

「ほら、私たちの魔法って幻惑魔法とか、解呪とかじゃないですか。一点に集中させるのが難しくて、スキル屋さんに杖を使ってみるのはどうだって言われて、試してるんですよね」

「いいと思うよ。私も使っていた事があるわ。重さというよりよくしなる丈夫な物が使いやすいよ」

「あ、本当ですか。一緒に選んでくれませんか」

「いいよ」


 アラクネさんは、僧侶たちを連れて杖を買いに行った。

 スシャは珍しい薬草を探しに行っているし、タバサはメイスの使い心地を確かめるため、適当な魔物討伐の依頼を請けに行った。


「俺たちも武器を探すか?」

「いや、サメ見に行かない?」

「渡し船みたいなものだろ」

「たぶんな。だからこそ長年使役スキルを使ってるはずだ」

「ああ、なるほどね。ワイバーンもいるみたいだしな」


 俺とロサリオは屋台で、ワニ肉の串焼きを買い、川岸へと向かった。川までの道には商店が並び行商人の姿も多い。


 川岸では、サメに馬車のハーネスのような物を付けて筏を引っ張っていた。前の世界では水族館でイルカがショーをしているのを見たことがあるが、こちらの世界ではもっと大きなサメがゆったりと泳ぎながらエルフたちを運んでいる。サメが数頭いるので、ひっきりなしに筏が行き来している。船頭が、サメを使役しているようだ。


「1日券もあるのか。あとは、往復券。片道、銅貨1枚なら気軽に対岸に行けるなぁ」

「荷物はワイバーンが運んでるぞ。こんなに魔物たちが活躍しているとは思わなかった」

「いや、本当に。だから、屋台ではワニ肉とか魚が多いのかな。サメを守る依頼も多いんじゃないか?」

「ワイバーンじゃなくて、鳥じゃダメなのかな」

「重い荷物を運べないんだろ。見ろよ。ワイバーンに人が乗ってるぞ」

「使役スキルはかなり高いだろ? ここまで大型の魔物を食わせるのもけっこう大変だろう?」

「川が豊かなんだろうな。マングローブの森もカニが多かったし」

「よく考えついたよな」

「すげぇわ」


 岸辺の木の根に腰掛けて、観察をしながらずっと褒めていたら休んでいる船頭が話しかけてきた。


「あんたら、旅の人かい?」

「ええ。こっちは人じゃなくて魔物ですけどね」

「え!?」

「サテュロスです。同じ会社で働いているんですけどね。こんなに魔物を使役しているのをはじめて見ましたよ。すごいっすね」

「いや、サテュロスが喋ってるほうがすごいだろ! どこから来たんだ?」

「辺境の街から。向こうは、野生以外の魔物は喋れますよ」

「進んでるなぁ。コロドンも喋れたら楽なんだけど」

 サメの種類はコロドンというらしい。海にはメガロドンというもっと大型のサメがいるのだとか。似たようなサメが前の世界にもいた気がする。


「使役スキルを使ってるんですよね? 大まで取ってるんですか?」

「もちろんだ。ここの船頭には使役スキル(大)まで取らないとなれないんだ」

「優秀ですね。だからワイバーンも?」

「ああ、ワイバーンは東の山脈から傷ついて飛んできたのを、時間をかけて治療してやったら、どんどん子どもを生むようになったと言われている。もう、千年くらい前の話だ」

「そりゃあ、すげぇ」

「そこから、ずっと飼っているって川が豊かなんですね」

「川も豊かだし、昔はもっと森にも魔物がいたんだ。300年くらい前はちゃんと遺跡も開いていたから、野菜も魔物だったんだぜ」

「ベジタブルモンスターですか?」

「魔物の国にもいるか?」

「いや、今はいませんよ。かぼちゃの剣士も市民権を得ていますし」

「へぇ、そうなってるんだぁ……」

「西には海の竜がいるって聞いたんですけど」

「あれはダメだ。使役しているフリさ」

「でも、レースをやっているって聞きましたよ」

「だから使役じゃない。薬とか、変な魔法を使ってるのさ。海森商会しかわからないけどな」

 悪い噂が広がっているらしい。


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