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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
変わりゆく辺境
213/226

213話「それぞれの成長とマングローブの森」

 翌日、俺たちは西へと向かっていた。街道ではなく、森の中をひたすら走っているのは、少しでもスキルが発生するようにと僧侶とエルフたちが考えてのことだ。


「地上に出てきたら、ちょっと感覚がおかしくなっていて。全部が明るいから、魔物の位置が見えてしまうんですよね」

 バネッサが変な悩みを口にした。セシリアやタバサも頷いている。

「風がそこらじゅうから吹いてくるから、矢を当てるのが難しいのかと思ったんだけど、『的当て』スキルと併用すると、角度や引き具合まで補正してくれるから、自然と鍛錬ができてるんだよ。おかしいんだ」

 タバサは自分の弓術の能力が上がっているのに、不安を感じているらしい。

「採取でも同じですよ。たぶん、スキルの補正のほうが早く成長しているから、身体とズレが生じているんです。我々は、もう少し身体能力やスキルを上げたほうが良かったんだと思います」

 ポーション屋のスシャも言っていた。


「それは、身体能力を上げたほうがいいかもね」

「一応、うちの会社は倉庫業だからね。『荷運び』スキルさえ取ってくれれば雇うから、最低限のスキルだけは取っておいてね」

 アラクネさんが社員たちに説明していた。

「僧侶たちはどうするかは自分たちで決めていいけど」

「いや、取りますよ。何をやるにしても、荷物のバランスを取るのは大事ですから」

「私も取ります。スキルによって、こんなに使う筋肉が違うのかと思ってるところなんですよ。セシリア、診断スキルを常時使ってる?」

「使ってる。バネッサも!? どこが炎症しているのかすぐわかるから、回復術の精度が上がるよね?」

「そう! スキルの組み合わせ次第で、かなり効力が変わるのでもっと知られたほうがいいと思います。一つの対象に一つのスキルを使うんじゃなくて、同時に使ったほうが全然効果の精度が違います!」

 バネッサは興奮して教えてくれた。


「ああ、それは魔力が増えたからできるのよ。魔力の基礎値が上がって、視点も変えられるようになるとどんどん使っちゃうんだけれど、精神的な疲労だけは溜まるからね」

「それで言うと、瞑想を取り入れるといいよ。一日のルーティンの中に瞑想を取り入れると、勝手に頭が整理されるから迷いがなくなるんだよね」

 俺は魔物の国のコウテツ先生を思い出していた。


「瞑想なんて意味あるんですか?」

「あるよ。試しにやって、効果がなければやめればいいんだから。金もかからないしさ」

「それはいいですね。優先順位をつけるのが苦手なんで、自分はやってみます」

 スシャはいろんなポーションを作りたいという思いが強いから、有効かもしれない。


「私は瞑想すると、いろんな視点になるから苦手なんだよな」

 タバサは、風を読む能力を発生させるために一日中瞑想をしていたことがあるらしい。ただ、周辺のネズミや鳥の視点に切り替わったりして酔ったことがあるのだとか。


「転身術に近いのかもね」

「あ、そのスキルは発生しているんだけど、取れないんだ」

「もちろん、向き不向きがあるから無理はしないほうがいいよ」

「でも、それ使役スキルでテイムした魔物とかの視線を共有できると思ったら、便利なんじゃないか?」

 ロサリオがアドバイスしていた。


「あ、それならいいのかも。じゃあ、視覚のスキルも取ろう」

 それぞれ自分で考えながら、スキルを取得していっている。一番、成長して楽しい時期だ。


「レベル30ぐらいから伸びないって言われているんだけど、身体を変化させると結構上がりやすいみたいだから、食事と睡眠は大事だからね」

 ロサリオがちゃんと説明していた。


 森が徐々に再びマングローブへと変わり、ヤシガニの魔物や虫の魔物が増えてきた。僧侶も新人たちも難なくメイスやナイフで虫を倒し、ヤシガニを捕まえて捌いていた。爪と可食部位だけは持って行く。


「この実は食べられそうですよ!」

「ちゃんと毒味をするようにね」

 甘い果物もあったが、青いものには毒があるらしい。


 大型の鳥の魔物もいた。カニばかり食べているようなので、美味しいだろうとタバサが弓矢で仕留めていた。


「うわっ、意外と魔石が大きい」

「魔法を使う鳥だったんじゃないの?」

「そういうこともあるか……」

「あ、ほら、あれだ。分身を作るタイプの鳥だったんじゃないですかね?」

 スシャが他の個体を見つけていた。そのサギの魔物は分身を作り、カニを追い込んでくちばしで一気に捕まえるようだ。分身は逃げるときにも有効なのだろう。


「セシリアは分身を作ろうとは思わないの?」

「魔力消費量を考えるとあまり戦闘に向かないので、もっと別の幻惑魔法を伸ばしたいですよね。地下に入ると一体づつ倒すこともないじゃないですか」

「確かに。幻術も幻惑魔法もかなり伸ばしただろ?」

「ええ。強い魔物ほど感覚が強いって言っている意味がよくわかったんで、感覚を騙すよりもズラした方が、心理的効果もあるってことがわかってきました」

「おおっ、プロフェッショナルだな。バネッサも遠距離から骸骨を倒せるようになっていたよな?」

「そうですね。呪い、呪術の類は防げると思いますよ。反射させることもできるようになりました」

「バネッサは、感情まで返すから魔物が混乱したり静止したりするんですよね」

「え? そんなことできるの?」

「そうですね。スキル屋のおじさんから呪詛返しには、いろんな効果があるからどんどん使っていけって言われて、試しているところです。経験が多い魔物には有効なんですよ」

 メイスにも付呪していると言っていた。


「見えたよ!」

 アラクネさんが樹上から知らせてくれた。

 目の前のマングローブの林を抜けると、大きな川に出た。大型のサメが泳ぎ、ワイバーンが空を飛んでいる。


「海竜もいるかな?」

「いるんじゃないか?」

「川沿いの街を目指しましょう。採取も十分でしょ?」

「ええ。だいぶ採れました」

 スシャはいつの間にか籠に薬草と毒キノコを大量に入れている。旅費もちゃんと稼いでくれていたか。


 川を北上していくと、ちゃんとした地面の上に街があった。古い砦が中心にあり、交易所になっているようだ。マングローブに囲まれた街は攻められにくいだろう。

 川辺にはサメを使役しているエルフたちの姿が見えた。向こう岸へ人々を渡すのだろうか。


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