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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
変わりゆく辺境
212/226

212話「11階層の階層主」


 地下に森があるという事自体おかしなことだが、その森の中に球体があり、その中に羽の生えた女が入っていた。


「人工子宮かなにか?」

「なんだそれ?」


 不思議なことに、球体の女から鼓動が聞こえる。


「本当に天使じゃないか?」

「言ったろ?」


 球体に近づくと、通常の人間よりも大きいことがわかる2メートルは超えているだろうか。


「これってずっと起きないのか?」

「ああ、2000年くらいは起きていないかもしれない。周りの木々を調べるとほとんど成長していない。ただ、この部屋の森の植物を切っても、翌日にはもとに戻っている」

「この天使がいることによって、毎日を繰り返しているのか?」

「この部屋はね」

「いや、11階層全体がそうだよ」

「なんだって!?」


 はぐれ竜は気づいていなかったらしい。


「本当のことよ。もし、この天使が繰り返しの原因だとしたら、起こさないほうがいいかもしれないわね」

 アラクネさんは大きめの天使を見ながら、ため息を漏らしていた。


「起こしたって起きやしない。来たるべき時が来ない限り起きないのさ。たぶんな」

「来たるべきときって?」

 ロサリオは球体に繋がる樹木を見ながら聞いていた。部屋の樹木が栄養を与え続けている限り、天使は死ぬことはないだろう。


「カタストロフィだ。再び、悪魔と巨人が奈落から出てきて暴れまわり、天界が落ち、あまねく地上に住む者たちを滅ぼすと言われている」

「なるほどね。そんな時まで生きていたくはないな」


 とりあえず、今生を精一杯生きよう。


「この部屋の管理をしているんだろ?」

「管理しているわけじゃないけれど、まぁ、天使を奪おうとする者には忠告しているよ。どんなに叩いても焼いても天使は傷つかない。無駄なことは止めておけってね」

「時間軸が違うんだろうな」

「ああ、そうか! よく分かるね」

 アラクネさんは俺の予想に頷いていた。

「物理法則が効かないからさ。あと、11階層の環境とも合っている。12階層も同じかどうか調べに行きたいんだけど」

「ああ、構わないぞ。俺が見たのは100年くらい前だから、変わっているかもしれないけどな」


 はぐれ竜に聞きながら、地図を書き記していった。12階層はマグマや毒が溜まっているところがあり、進めないことが多いそうだ。


「100年前のマグマなんてもう固くなっているだろ?」

 ロサリオは懐疑的だった。

「わからないぞ。天使に環境を保存できる能力があるってわかったからな」

「ああ、そうか」


 俺はちょっとマグマの熱を使って、加工が楽になったりしないかと期待していた。

 11階層で採取した素材を、12階層で加工できれば輸送が要らない分、かなり楽になる。現時点でも、スライムの召喚はスライムたちに負担をかけているので、回数を減らしてあげたい。新しいスライムを捕まえてくればいいのだが、しばらく接していると愛着は湧くものだ。


「ここに俺達の会社の拠点をおいてもいいかな? 俺達は天使の邪魔はしないよ」

「それは構わないけど、どこも補修しないと使えないぞ」

「それがいいんだ」


 俺は大きめの建物に入り、できるだけきれいに掃いておいた。これで建物ごとくれるのだから、もらわない手はない。


「あと、お金は払うから、もしうちの社員たちが使役スキルを伸ばしたいときに教えてもらえないかな?」

「金は要らない。地上の食料がほしいんだが、それでどうだ?」

「お安い御用だ」


 辺境で採れる野菜と猪肉を使って簡単な鍋料理を作ってやると、はぐれ竜は涙を流して喜んでいた。


「こんなうまいものを食べたのは生を受けて初めてかもしれない。また、いつでも来てくれよ」

「わかった」

「あんた、名前は?」

「コタローだよ。はぐれ竜、お前名前はあるのか?」

「バカとか、木偶の坊とか、ただの竜とかしか呼ばれてない。付けてくれよ。天使にも自己紹介できないんだ」

「清らかな竜で、清竜だ。名は体を表す。蝙蝠のクソまみれでいるよりも近くの泉で身体を洗ってから天使に会いに行ってやるといい。清潔感は大事だ」

「いい名だ。ありがとう。名に恥じないようにやってみる」

「新しい服が欲しければ、うちの木箱に大きめの服を入れておくから使ってくれ」

「助かる」


 俺達は清竜に見送られて、12階層への階段を降りていく。ただすぐに硫黄の臭いとともに麻痺薬の香りがして、すぐに呼吸の確保を優先し戻ることになった。


「ガスだな……」

「これはポーションや耐性でどうにかなりませんよ」

「確かに。じゃあ、スライムに潜ってもらうか……」

「スライムに!?」

「ああ、ガスの元を締めてもらおう。もう少しレベルを上げたほうがいいな。大丈夫、時間はあるから。一旦地上に戻ろう。仕事もしておかないと」

「まだ、私たちレベル30を超えた当たりですよ。いいんですか?」

 僧侶のセシリアが聞いてきた。


「いいよ。そもそもアラクネさんだって、この前まではそんなもんだったよね?」

「ええ。というか、コタローが一番レベルの上昇率はいいけどね」

「結局、身体能力だけじゃなくて試行回数が物を言うからな。戦術的な思考も大事だ」

 ロサリオがレベル上げについて、ちゃんと教えている。もうレベル上げツアーについてはロサリオに任せてもいいかもしれない。俺は戦う才能がない者のレベルを上げる方法を考えたほうがいいんじゃないかと思い始めていた。


 一旦、10階層の街まで戻り、採取品を換金。紙幣も金貨と銀貨に替えてもらった。


「地上に帰るのか?」

 スキル屋の親父は少し寂しそうにしてくれた。

「ええ。どうせまた来ますよ。11階層もかなり探索できましたし、階層主のような者も見つけましたし、一旦地上の仕事を片付けないと」

「忙しそうだな。新人たちのレベル上げもいいのか?」

「ここから先は自分たちでも考えていかないといけない時期ですから」

「そう社長は言ってるが、迷ったらいつでも来るんだぞ」

「「「ありがとうございます」」」


 相談に乗ってくれる相手がいるのは、本当に助かる。

 広場にいた歴史屋の娘には11階層の階層主は天使だったことを教えておいた。


「え!? 本当に!?」

「2000年ほど眠っているけどね。竜が管理しているよ。そっとしておいてあげてほしい」

「信憑性があることを……。わかりました」


 街の外にいる荷運びたちは相変わらず、街の外で仕事を探していた。別に11階層に行くわけでもないのなら9階層の探索でも進めればいいのに。なかなか動くことができないのか。


 俺たちは通り過ぎて、地上へと戻った。11階層で鍛えたおかげで遅れるような社員はいない。タバサやスシャはなるべく魔物を倒したがっていたが、地上で社会性のある魔物を見つけたほうが早いとロサリオに説得されていた。


 ガコンッ。


 遺跡から出ると、木漏れ日が溢れる森が輝いて見えた。


「本物の陽の光は神々しいね」

「本当ね。まさか、地下の鉱石の光も明るいと思ったけど、別物だわ」


 表に出てみると、倉庫の小屋はできているが、まだまだ建物はできていない。

 エルフの職人たちに銀貨のボーナスを渡してから、冒険者ギルドで地上に戻ってきたことを報告した。


「明日には西に出発するのか?」

「討伐依頼を請けていいですかね? 身体が鈍りそうで……」

 エルフたちは調子がいい今のうちにレベルを上げたいらしい。


「やっていいよ。明日の朝には出発するからね」

「じゃあ、私たちも行きますよ。地上の薬草も採取しておきたいですし」

 セシリアやバネッサも付いていくらしい。


「アラクネさんはいいの?」

「私は、今後の計画と、地下から辺境に送った物の帳簿が無茶苦茶だから計算し直さないと。コタローも手伝ってよ」

「はい。ロサリオ!」

「俺は補充しに行くよ」


 ロサリオは買い出しに向かった。


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