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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
変わりゆく辺境
211/226

211「文明の跡を追って…」


 必要物資を採取するノルマを達成したあとは、各自自由に探索を進めるまで全員が成長し始めていた。特定の部屋に拠点をおいて、散らばっていく。レベルが上って体の動きが皆、良くなっている。


「身体系のスキルを取っているのか?」

「スキルを伸ばすよりも、動ける可動域を伸ばした方がスキルは増えるらしいから」

 タバサはスキル屋の親父さんから教えてもらったらしい。

 俺達と同じ結論だ。


 ケガをしてもポーションはあるし、そもそもケガをするようなこともしなくなってきていた。

 新しい魔物や罠を見つけたら、一度拠点に戻り共有して狩りにいく。大きなトカゲ、家のようなゴーレム、走るサギの大群などがいたが、対処法はすぐに見つかる。物体としてある以上、物理攻撃が届くので、それほど難しくはない。10階層の街で、鑑定してもらい解体して素材にしてもらった。


 冒険者に優しい街なのでありがたい。素材のほとんどを街で売り、残った素材を辺境に送っている。

 その後、副業でもある「ヒモ辿り」で、落ちていた冒険者の道具から持ち主の遺体を探し出す。

 当然、11階層を長く旅してきた冒険者の遺体なので、拠点にしやすい場所に眠っていることが多い。


 つまり水源が近くにあり、焚き火のための燃えやすい木々がある。地下に木々がある事自体おかしいことだが、伸びているので仕方がない。限られた素材の中でなんとかやりくりするのが地下生活だと思うが、11階層は物が豊富だ。しかも取り尽くせるような量ではない。

 そんな中でも遺体の回収は、結構いい収入になる。冒険者ギルドに遺体を渡すと報奨金が出るだけでなく、死霊術師が遺体の主がどういう人生を送ったのか、また「奈落の遺跡」内にある大きな拠点、隠した財宝、街の情報を教えてくれる。財宝はほとんど盗まれている事が多いが、街は痕跡があるんじゃないかと思って探索してみるが、死んだ時代によって街の位置は違う。


「街が移動しているってことでしょ? どうして?」

「地上でも移動はしているんじゃない? 過疎化とかはあるだろうし……」

「街同士の争いもあるのかもよ」

「それって資源の奪い合いですか?」

「資源だらけなのに、そんなことってあるんですか?」

 遺体を見つけた拠点で、焚き火を囲み車座になって俺たちは昼食を食べていた。


「その時代によって価値があるものが違うからな。レンガでできたゴーレムもいただろ? あれって、地下だと天日干しもできないから焼いたってことだし、文明の跡だよね。文明が滅びるのは、いくつか理由があるからなぁ」

「飢饉とか?」

「災害?」

「地下にも災害があるんですか?」

「天候じゃない災害って……、火山か地震かな」

「水没もあるんじゃないかしら?」

「ああ、地下にある湖の底が抜けることもあるのか……」

「崩壊して思うように復興しないものなんですね」

「地下だから、他の街との繋がりが薄いとやっぱり滅びてしまうんだろうな」

「魔物も含めて、文明の足跡を辿ってみようか」

 思わぬところで、副業が役に立つ。

「了解」

「やりましょう」

「レベルを上げながら、しっかり稼いで、移動範囲も広げている。流れがきているな」

 タバサは弓術のために風を読むスキルを持っているので、流れやベクトルを読む能力が上がっているらしい。


「ん? あれ、索敵じゃないか?」

 ロサリオが天井に張り付いている蝙蝠を見ていた。視線がこちらに向いている。


 皆、気づかないふりをしながら様子を見て、セシリアが蝙蝠の周辺に鎮静化の魔法をかけていた。

「かかりました」

「テイムできるか?」

「いや、たぶん住処に戻っていくぞ」


 探索用の荷物だけ背負い、全員蝙蝠を追いかける。洞窟の中を進んでいくと鍾乳石が出てきた。

 

「おっ!」

「おおっ!」

「なんですか?」

 俺とロサリオは遠くからでも見えた。

 鍾乳石のなかに光る鉱石が天井にあり、薄っすらと部屋の様子が見えた。


 鍾乳石の中にレンガ作りの街があり、蝙蝠たちのキィキィという鳴き声が聞こえてくる。建物の入口は鍾乳石の石筍で塞がり、窓には氷柱のように石柱が並んでいた。


「廃墟だがなんかいるな……」

「人化の魔法を使おうとしているわ……」

「あれが限界か? ロサリオ、行くか?」

「誰でもいいだろ?」

「お二人は誰か知ってるんですか?」

「まぁ、どこ出身かはわかるな」


 ロサリオがちょっと前に進み、廃墟の広場にいる竜に声をかけた。


「おーい! はぐれ竜だろ? 別に人化の魔法を使わなくてもいい。俺もほらサテュロスだ。向こうにはアラクネもいる。俺たちは人間と魔物のパーティーなんだ」

「ええ?」

 角が生えたリザードマン姿のはぐれ竜が建物の陰からこちらを伺っている。


「別にお前の場所を奪おうっていうんじゃないんだ。話が聞きたい。東の果ての火山地帯から来たんだろ?」

「俺達も闘竜門には行ったんだ。古龍たちが出てきて、戻ってきたけどな」

「古龍のところまで行ったのか? すげぇ。魔物の国はどうなってる? 魔王が奈落の底から戻ってきてすぐに漂流して、『奈落の遺跡』に入ったんだが……、どのくらい時間が経っているかわからん」

「ああ、だいたい300年くらいだな……」

「そんなに!? 300年経っても11階層か……」

 300年も地下生活をしていたなんて、寂しくはなかったのだろうか。

「ずっとここに?」

「いや、探索していたし、12階層への階段も見つけたこともある。ただ、仲間ができても、すぐにいなくなってしまう。今は蝙蝠が家族みたいなものだ。もともと吸血鬼が飼っていた奴らだから、いろいろと世話してくれるんだ」

「ここは安全な街なのでしょうか?」

「おおっ、アラクネか。見目麗しい。久しぶりに見たよ。あ、この街はなにもないから、安全というかなにもない。隣の部屋に森があるから、薪とキノコが採れる。あとは、ちょっと足を伸ばせば魚の魔物がそれなりにいるから食料には困らないぞ。ああ、喋れるものだな……」

 はぐれ竜は、言葉を発するのは久しぶりらしい。


「考えることが多くてね」

「なにかここで実験でもしていたのか?」

「ああ、テイム、いや使役スキルをな。従属魔法なんかも試してみたが、結局は、使役スキルでテイムすることにして、随分と試していた」

「捕まえたい魔物がいるのか?」

「ああ。捕まえたいと言うか、友だちになりたいと言うか、なんだろうな……」


 どうやらこのはぐれ竜は、その魔物に惚れてしまい、探索を一時止めているようだ。


「見るか? 俺の天使を……」

「ああ、見せてほしい」


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