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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
変わりゆく辺境
208/226

208話「スキルの高い相手への対処法」


「正規のルートという感じがするな」

 ロサリオは探索用リュックを背負い、槍を担いでいた。

「うん。たぶん、いろんなルートがあるんだろうけど、ここから入ったほうが安全だろうな」

「今までの階層と何が違うの?」

「それは……」

「スキルじゃないですか?」

 スシャが鋭いことを言った。

「どうして、そんな事を思う?」

 並んでリュックを背負っているタバサが聞いていた。

「それほどダンジョンの通路や部屋の広さが変わらないからです。つまり身体自体が大きくなってもこの階層では動きにくいってことです。おそらく弱いエルフの冒険者は魔物の格好の餌ですから、この階層には体が小さくても、スキルによってエルフを狩る魔物たちが集まっているんじゃないかと予想できる。ポーション屋の戯言だと思って聞き流してください」

「いや、たぶん、スシャの言っていることは正しいと思う。皆、魔力探知はできるかい? 別の物が見えるよ」

「ええ!? なにこれ……」

「目が……!」


 壁や天井に目玉がある。岩や石にカモフラージュしているが、おそらく俺達を狩ろうとしている魔物が遠隔で操作しているのだろう。


「まずは耳を飛ばすべきだったな。同時に行くぞ」

 ロサリオの掛け声で、全員武器を抜いた。バネッサが解呪のまじないを武器に付与していく。


「……魔を断て」

 バネッサの呪文が終わると同時に、俺達は目玉から伸びる魔力の紐を切っていた。タバサだけ、矢を構えたままだ。


「タバサ!」

 バネッサが注意した。

「悪いね。ちょっとどこに向かうのか見たかったんだよ」


 ひゅっ。


 風切音が鳴り、目が壁に張り付いた。


「コタロー社長、追える?」

「もちろん。セシリア、落ちている目玉に目くらましの幻術をかけておいて」

「了解です」

 落ちている目玉に幻術をかけた状態で、黒い麻袋に詰め込んでいく。

「スライムに身に着けさせるつもりか?」

「それもいいね。アラクネさん、なんの魔物かわかる?」

「たぶん、目玉の大きさからいってサイクロプスくらいあるけど、石に擬態していたってことはゴーレム系じゃないかな」

「なるほど。じゃあ、ゴーレムが複数いるってことか」

「ゴーレムが斥候役ってどれだけの魔物がこの先に待ち構えているんですか?」

 セシリアが至極真っ当なことを聞いてきた。通常、ゴーレムといえば前に出て、攻撃を受け切るような役目をしている。物見役をするとは考えにくい。

「初見殺しじゃないかな。隣の部屋で、ゴーレムの群れが天井に登り始めた」

「ロサリオさんは、どこまで見えてるんですか?」

「3部屋先まで。ゴブリンシャーマンが勢いづく前に倒していいか?」

「どうぞ……」


 セシリアが勝手に許可を出したので、ロサリオが担いでいたリュックを置いて槍を手に持った。


「一応、言っておくけど、タバサのお株を奪うつもりはないよ」

「え? なに……?」

 タバサが呟いたときには、ロサリオは槍を振っていた。


 ッキュン!


 太い槍が通路を通り抜け、3部屋先のゴブリンたちが集まっている奥へと飛んでいった。魔力が一つ消えたのを確認して、ロサリオはリュックを背負った。


「よし、行こうか。これで、向こうの戦術は一つ減った」

「当たったんですか?」

「当たった。魔力が一つ消えたからね。大丈夫。意識してない攻撃は当たるから」

 ロサリオの代わりに俺が答えた。


「なんなの、この人たちと思っていると思うけど、私はずっとこれを辺境でもやってきたから。そのうち、慣れるわ。これが最善手だったということは、後で分かるから」

 アラクネさんが従業員たちに説明していた。


「たぶん、セシリアの幻術か幻惑術でどうにかなるんじゃないかな。ゴーレムたちが天井に張り付いていると思って、幻術を使えないか?」

「わかりました」

 セシリアは足音の笛で、隣の部屋まで音を響かせた。


 ズズンッ! ズズンッ! ズシンッ!


 ゴーレムが床に落ちてくる音が聞こえた。


「よし、じゃあ、やりますか。向こうは体重に任せて落ちるだけみたいだから、魔力大事に」

「四肢への攻撃が有効だよ。なるべく関節の動きを止めれば、動きは見えやすい。スシャ、粘着液を持っているなら使ってくれ」

「了解です!」

 手前の部屋のゴーレムたちは、瞬く間に身動きが取れなくなり、スコップで削りきって戦闘終了。続いて、二部屋目は、明るい鉱石がある植物系の魔物の住処だった。

 毒だらけの植物園だったが、解毒のポーションがあるので採取に徹した。


「根本から採ったほうがいいのか?」

「いえ、果肉部分しか毒を抽出できないので、燃やしても構いません」

「知識は武器だな……」

 タバサは感心しながら、矢に塗る毒を採取していた。


「アラクネさん。これ、ガマの幻覚剤の材料じゃないか?」

「本当ね。でも、フロッグマンの製法じゃないと効果は限定的になるって聞いたわ」

 フロッグマンたちは秘密としているが、広く知られている材料だった。

「採取だけして、スライムで送っておこうか」

「いいけど……、商売のことに関しては本当に目端が利くのね」

「もったいない精神の血が流れてるんだ」

「守銭奴とも言う」

 ロサリオは軍手を緑色にしながら、ツッコミを入れていた。

「がめつく生きろよ。アラクネ商会なんていつなくなるかわからないんだから」

「まだ、大きくする途中でしょう!」

「はい。すみません」

 

 その奥のゴブリンの集団がいる部屋には、セシリアがずっと幻惑魔法を使いながら数を減らしている。


「いいのでしょうか?」

「いいのです」

「探索用のリュックもいっぱいになってきたぞ」

「11階層から、もっと魔物が強くなると思っていたんだけど……」

 タバサは戸惑っている。


「強くはなってるんじゃないか。俺達がスキルを使う隙を与えていないだけだ」

「階層ごと壊すような魔物が出てきてからが勝負どころだよ」


 十分、リュックに毒草が詰め込まれたところで、次の部屋に行き、酔っ払ったように千鳥足のゴブリンたちをアラクネの糸玉で拘束。討伐部位と武器を回収して、10階層へと戻った。


「魔物を討伐した気にならないんですが……」

 バネッサがポツリと呟いた。

「探索が中心だからね。たぶん、これだけ毒草があるってことはしばらく11階層の探索をした冒険者は少ないんじゃないかな。アラクネ商会としては狙い目だから、続けていこう。レベルもそのうち上がるだろうから」

「ええ、だいぶ眠たいです」

「私も」

 スシャとタバサは睡魔に負けそうになっていた。


 10階層の冒険者ギルドで、採取したアイテムを買い取ってもらって、宿を借りた。宿泊費は地上の5倍もある。


「これ、近くに部屋を借りたほうがいいんじゃない?」

「そうかも」

「海森商会とリヴァイアサンレースを忘れないようにな」

「レベルを上げてから行けば、時間もかからないだろう」


 いつの間にか、レベル上げの日々が始まっていた。


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